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第七話:実験

 


 水、火、風、土、霧。

 基礎魔法を一通り習ったあとは、ついにレーザー魔法の訓練をはじめた。

 レーザー魔法は魔法革命の代名詞に相応しい危険な魔法だ。


 最初のうちは簡単だった。光を出すのは、父の魔法を見てすぐにできた。

 問題はその先だ。光を細く、強く、そして一点に集中させる。そこまでやってようやく、木を焦がしたり、布を焼いたりできる武器になる。...そして、ひいては、人を殺す武器に。

 問題はその火力を上げることだ。


 少しでも集中が甘いと、ただ明るいだけの光で終わってしまう。逆に無理に絞りすぎると出力が不安定になって、途中でぶれたり、魔法が不発になる。

 父ルイスも「熟練の魔法使いでも、光を一点に集中させるのに失敗することがある」と言っていた。そんな難易度が高い魔法を子供に教えるなんて、ちょっとどうなんだろう。それに人殺しの方法を教えてるという点からも物騒な教育である。お願いしたのは自分だから人のことを言えないけどね。

 それはともかく扱い注意なのは間違いない。

 レーザー魔法は、火みたいに水で消せばどうにかなるものではない。一発でも人に命中したら回復魔法をかける前にあっさりあの世行きになる。うっかり変な方向に照射すると洒落にならない。実際、姉マリーが一度、照準を逸らして家の方へ光を走らせてしまい、父に本気で怒鳴られていた。壁を焼き抜かなかったのは幸運だったと思う。


 というわけで、レーザー魔法の練習はかなり神経を使う。

 だが、3か月ぐらい訓練をした甲斐あって、一応は習得できた。木の板に黒い焦げ跡をつけるくらいならもうできる。まだ戦闘で使えるかと言われると怪しいが、少なくとも「眩しいだけの光」ではなくなった。もし盗賊でも襲ってきたら目に向かってこいつを照射してやるだけで、失明させられる。そしてその間に逃げればいいのだ。少しずつ自衛の手段も増えてきた。


 そうした魔法訓練の日々の中、ここ三日ほどは珍しく父がいない。


 父ルイスが、近くの街、ラウターへ行っているからだ。

 なんでも実家に用があるらしい。ついでに判明したのだが、父の実家はスチュアート領のスチュアート侯爵家らしい。我が家の姓名がスチュアートなのだから当たり前と言えば当たり前だが。

 父はどうやら四男で、本家ではなく分家筋らしい。たぶん、この村を任されているのもその辺りの事情だろう。なにしろ近くにはローラン帝国に続く主要街道があるのだ。スチュアート侯爵...侯爵って確か、国境とかを守る重要な貴族に与える位だったはずだ。そういう点から考えても、父はこのピルナ村から近くの街道を監視しているのだろう。もしくは、間者を帝国側に送って情報を集めているのか。やたら手紙をやり取りしている回数が多いからほぼ間違いないと思う。


 ともあれ、今日は父がいないので魔法訓練はお休み。姉マリーと訓練をしようとも考えたが、姉は母エリスが妊娠してからは、母に付きっきりだ。だから、姉との練習もない。父もやることはやってるようでなによりだ。

 話が脱線したけど、朝の水配りを終えたあとは、暇になった。

 今日は教会でラインハルトさんに文字を習う日でもないから余計に暇だ。


 なら、やることは一つ、実験だ。


 庭へ出て、自室から持ってきた木箱を開ける。

 中には二種類のものが入っている。


 一つは、最近こつこつ作っている土人形。

 ただの土人形ではない。ロボット模型だ。つまり、ロマンの塊だ。土魔法で少しずつ形を整え、腕や脚の輪郭を出し、最近は関節を動かせないか試している。魔法のイメージ精度を上げる訓練にもなるので、遊び半分とはいえ無駄ではない。最初の頃は現代人にもロボット人形と判別不能な出来だったが、最近はだいぶマシになってきた。流石に、最近作っている人形のレベルなら、現代人が見たらロボット模型に見えるはずだ(た、たぶん)。


 箱の中にある、もう一つのほうが本命。実験用の道具だ。


 天秤。銅の重り。それから、作りかけの定規(銅が足りてない)。


 元物理学者としては、この世界の法則を少しでも確かめたい。魔法がある世界だからこそ、逆にどこまで地球と同じで、どこから違うのかが気になる。だが、物理実験というのは、思いつきだけではどうにもならない。まず測るための道具が要る。


 そこで最初に着手したのが、重さの基準作りだった。


 本当はこの土地の既存単位をそのまま使えれば楽だった。

 だが、これが実に使いにくい。そもそも、十進法で揃っていないのだ。

 1ポンド=26オンス 的な感じだ。

 なにを言ってんだ?という感じである。さらには、領地ごとに単位の変換が違うらしい。

 スチュアート領だと、1ポンドが、26オンスで、王都に行くと、1ポンドが23オンスらしい。

 もっと極端な例では、領主の体重や身長を基準にしてるから毎年単位が変わるらしい。

 そんな感じで、この世界の単位は信用できない。

 そんな不安定な単位を使っていたら、測定しようとするたびに頭がおかしくなってしまう。

 メートルやグラムという単位はめちゃくちゃ便利なのだ。

 というわけで、自分なりにこの世界でのメートルやグラムに相当する基準を作ることにした。


 材料は銅。

 お小遣いでもらった銅貨を、火魔法で溶かしておもりにした。土魔法のいいところは精錬を補助できることだ。本来なら純粋な銅だけで重りを作るのは無理だろうが、土魔法を使ってふるいにかけることで、比較的純粋な銅ができたはずだ。魔法で無から作るのは魔力消費も多いけど、精錬はお手軽な消費魔力だった。

 それにしても、ルイスもまさか小遣いが玩具でも菓子でもなく、秤の重りになるとは思うまい。


 まずは同じ型に流し込み、同じ重さの小片をいくつも作る。

 それを天秤で突き合わせて、できるだけ同じになるように削り、揃える。そうして1g、10g、100g...と段階的に重りを作っていった。地球のグラムと完全一致するわけではないが、少なくとも自分の中で一貫した重さの基準はできる。


 問題は保存だった。

 銅は空気に触れればゆっくりと酸化し、重さが変化する。基準となる重りが勝手に変質しては困る。そこで、なるべく空気を抜いた容器を作ろうとしたのだが、これが上手くいかない。


 風魔法で容器の中の空気を外へ追い出すこと自体はできる。

 だが、土魔法で作った器は気密性が甘いのか、すぐにヒビが入って割れた。頑丈にしても、妙なことが起こる。蓋を閉めても、魔力感知では中に魔素の気配があるのだ。つまり、空気は抜けても、魔素はあとから壁を通って入り込んでいるらしい。

 ...意味が分からない。


 もし魔素が器の壁を通り抜けるなら、魔素は相当に小さいのだろう。器の構成原子より小さいのか、あるいはそもそも物質とは別の振る舞いをしているのか。今はまだ判断できない。ただ、少なくとも「風魔法で空気を抜いた=完全な真空」ではないことだけは確かだった。

 もっとも、今日はそこまで厳密でなくていい。酸素と窒素が抜けた容器は真空とほとんど同じだ。今日の実験は、別に現代のような厳格な真空を必要とする高度な実験に比べれば、遥かに原始的で単純なのだ。


 空気がある時と、真空とで、落下の様子がどう変わるかを見る。

 それだけでいい。

 つまり、重力が物体に働きかける力は、重さが同じであれば同じであることを証明したいのだ。

 本当なら時間も高さも正確に測って、この惑星における重力加速度を知りたい。

 が、そのためには定規が要るし、定規があれば長さ一定の振り子を作れる。振り子があれば時間の基準を作れる。だが、そこまでの準備はまだ終わっていない。

 今日は秒数を測るのではなく、目で見て明らかに差があるかを確かめる段階だし、重力加速度が存在するなら、今回の実験では目視でも分かるような明確な違いが観察できるはずだ。


 具体的な実験内容はこうだ。


 まず、土魔法で背の高い筒を二本作る。

 高さは自分の背よりずっと高い。たぶん二メートル前後。片方は普通の空気入り。もう片方は、風魔法で中の空気をできるだけ外へ追い出す。厳密な真空ではないが、空気はかなり減るはずだ。


 次に、各筒に対して、上から同じ重さの銅のおもりと羽を落とす。父は以前大型の鳥を狩りで捕った。その時、大きい羽毛を抜き取ったのだ。今回はそれを使う。軽くて空気抵抗の影響を受けやすいから、こういう比較には向いている。4gと5gの羽根があったから、銅は5gのおもりを使うことにした(銅の重り5gは小さいのでみずらいのが唯一の問題だ。)。


 もし地球と同じなら、普通の空気中では羽はひらひら落ちて、銅の重りはストンと落ちる。

 一方で、空気抵抗が小さければ、羽も銅も、同じようにまっすぐ、速く落ちるはずだ。


 さらに確認のため、落下開始を揃える仕組みも作った。

 筒の上に土の板を置き、その上に羽と重りを載せる。二本の筒の板を同時にずらせば、同時に落下を始められる。


 あとは、結果が見えるようにしないといけない。空気が入ってるほうの筒はいい。下に穴を開ければよいのだから。問題は真空の方だ。今は分厚い土壁で密閉してるから、見えない。

 当然中が見えなければ比較もできないので、ラインハルトさんにもらったガラス片を使う。筒の下部の一部に小窓を作るため、土壁の一部をガラスに置き換え、外から落下の様子を見られるようにする。


 準備完了。


 自分は2つの筒の下にしゃがみこむ。

 左が普通の筒。右が真空の筒だ。


「さーて、どうなるかな。」

 小さく呟いて、土板を同時に退かした。


 同じ5gの重さである、羽と銅のおもりが両方の筒で落ち始める。

 左は、予想通りだった。

 羽はくるくると回り、揺れ、ゆっくりと落ちてくる。いかにも空気に抵抗されてます、という動きだ。その一方で、銅のおもりはすっと落ちていった。


 右は違った。

 羽は殆どひらひらせず、銅と殆ど同じタイミングで落ちてきた。少なくとも左筒の中にある羽よりずっと速く、ずっとまっすぐに落ちた。


「ま、そりゃそうだよね」

 思わず呟く。

 大前提の確認である実験は成功したようだ。

 すなわち、質量が一定なら、落ちる速さも同じという大大前提の確認ができたわけだ。

 こんな感じで、当たり前すぎる事でも、地道に確認してゆくしかない。

 転生なんてロクでもない。


 幸い、地球世界における、「物が下へ落ちる力は重さが同じなら一定」という当たり前は、この世界でも当たり前だった。ここが違ったらもう何からやればいいのか途方に暮れただろう。

 もしかすると、この世界と地球世界の間では、魔素以外は同じなのかもしれない。


 もちろん、これで重力加速度が何メートル毎秒毎秒か分かったわけではない。

 そんなものを測るには、まだ定規も時計も足りない。単位系すら完成していない。だが、「この世界の物理は地球とまるで別物」という最悪の可能性は、少し遠のいた。

 それだけでも収穫だ。


 にしても、単位系がないと、物理学が正常にこの世界で働くのかどうかすらも、確認できないのは不便すぎる。



「...ストップウォッチとか、計量測りが欲しいなぁ。」

 無茶を言うな、という話である。

 そんなものをこの中世では作れないだろう。

 いや、仕組みだけなら分からなくもないが、材料と加工精度が足りない。より正確には、加工精度が高い機材を作るための材料が足りない。さらには、加工精度が高い機材を作れる機械を作るための機械を作るための機械がないだろう。そして、当然、機材を作るための....と無限ループになる。

 この調子だと現代社会並みに堅固な単位を確立するには、どれだけ速くても100年は掛かるだろうな。現実は厳しい。


 それでも、こうして少しずつ確かめていけば、いずれこの世界の法則も見えてくるかもしれない。

 重さと長さの基準を作る。そして、時間の基準を作る。そうしたら物体の運動をもっと正確に測れる。そうなれば、運動量保存の法則だったり、運動方程式の再現もできるはずだ。そこから、化学反応や分子の種類の特定とかもできる。そうすれば分子の存在や原子の存在も、知識としてではなく、科学的実験によって証明できる。

 が、そこまで辿り着くのに一体何年かかるのやら。それに、そんな事研究して、教会とか国から迫害されても嫌だしなぁ。当分は研究結果は秘密か、出版するにしても匿名だな。


 はぁ、疲れた。


 そこまで考えて、ふと木箱の中のロボット模型が目に入った。

 ...うん。

 難しいことばかり考えても仕方がない。

 今日は実験が上手くいったのだ。

 少しくらい、ロボットの膝関節について悩む時間があってもいいだろう。

 こっちのパーツも難しい問題がある。関節が脆くならないようにするのと、関節の柔軟さを同時に追求するなんて、いやはや、オールドタイプには厳しいよ...。


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