第11話:地方都市ラウター①
ツイッター始めました。
@tsubasa650961
時々作品の元ネタの話をしたりすると思います。
それでは、作品の方を楽しんでください!
レールガンの実験で怒られてから、二週間。特に父ルイスから追加のお小言を言われることはなかった。
一方、アルベルトは家でコーシーさんにしっかりと怒られたらしく、次の日は珍しくしょんぼりしていた。最後の実験の時、俺を止めようとしていたのに不憫だ。
それでも、レールガンの実験は続けた。もちろんあれ以来ルイスへ実験内容を話している。もう怒られるのはごめんだ。
安定性や故障の問題を解決するため、何度も試作を繰り返した。当然試作品を作るためにレールガン用の金属も買い集めた。とはいえ、一丁作るのに三時間ぐらい掛かるし、金属もすぐなくなる。缶詰も今後の検証用に作りたいし、深刻な金属不足になった。そのせいですぐに故障してしまう問題は中々解決していない。どうしたものか。
必要な金属がないので、実験もやれない。仕方ないので残った5丁のレールガンのうち、2丁のレールガンをアルベルトにあげることにした。一緒に作るのを手伝ってくれたのだから、正当な報酬だと思う。
それ以来、アルベルトは余程気に入ったのか、腰にレールガンを引っ提げて歩くようになった。
そんなある日のことだった。いつも通り、家族みんなの夕食でルイスが珍しく真面目な顔で言った。
「皆。三日後に、ラウターへ行くぞ」
「ラウター?」
俺が聞き返すと、姉マリーがぱっと顔を上げた。
「おじいちゃんのところ!?」
「ああ。久しぶりに顔を見せに行く。それと、パウルの作ったものをいくつか見せたい」
ルイスはそう言って、俺の方を見た。
作ったもの。缶詰とレールガンのことだろう。なるほど。ついに売り込みに行くわけだ。
自分としても異論はない。むしろ、金属と紙が欲しいから、村より発展してるラウターの方がありがたい。特に紙だ。紙はいくらあっても足りない。文字を書けるようになった今、本当に紙が足りないのだ。地球にいたころは、そんなことで困ったことは一度も無いというのに。
それはともかく今まで実家の話なんて真面目に聞いてなかったせいであんまり分からないんだよね。
「レールガンを持っていくのはもちろんですが、おじいちゃんって、どんな人なんですか?」
そう聞くと、ルイスは少しだけ考えるように腕を組んだ。
「一言で言えば、怖い人だな」
「怖いんですか?」
「怖いぞ。普段から声がでかいし、怒るともっとでかい」
それはただのうるさい人では?
「でも、すごい人よ」
そう言ったのは母エリスだった。
「エリック様は、スチュアート領を帝国から守ってきた立派な方よ。でも、確かにルイスも若いころはよく叱られていたわね」
エリスがクスっと笑う。
「いや、エリス。それは今言わなくていいだろ」
ルイスが少し気まずそうに目を逸らす。
おお。ルイスにも叱られる側の時代があったのか。いや、当然あっただろうけどな。
「おじいちゃんは父さんみたいに魔法使いなんですか?」
「そうよ!しかも、めちゃくちゃ強いわよ!」
マリーが自慢するように話す。
「おじいちゃんはすっごく強いの。あと、蜂蜜を買ってくれる」
うん、多分後半が本音だね。
「そればっかりだね」
「だって蜂蜜、おいしいんだもん」
マリー曰く、地方都市ラウターの方がピルナ村よりよっぽど色んな品があって楽しかったらしい。蜂蜜を見つけたのもその時らしく、おじいちゃんにまた買ってもらおうと意気込んでいた。うーむ。祖父が孫娘に財布として扱われるのは、異世界でも同じらしい。本人同士が幸せなら、いいんじゃないかな?
そんなわけで、家族と一緒に、初めて街道で村から離れ、馬車に揺られながら、スチュアート領で一番大きい地方都市ラウターに向かうことになった。
馬車の乗り心地は最悪だった。
車輪の振動が、尻から背骨を通って頭まで響く。サスペンションという偉大な発明に、今なら祈りを捧げられる気がする。しかも街道は不均一な石だから、ガタガタなのだ。
酔い止めもない。吐かないで済んでいるのは、ひとえに朝飯を抜いているからだろう。吐くものすらなければ、吐きようがない。合理的である。合理的ではあるが、腹は減る。ルイスとマリーには笑われた。弟のパーカーも乗り物酔いできつそうにしていたので、俺だけが情けないわけではない。そこは強く主張したい点だ。
それと、暇だった。
暇すぎて仕方ないので、そういえば聞くだけ聞いて完全に忘れたルイスの家族について聞いてみることにした。
「ねえ、父さん」
「なんだ?」
「父さんには、兄弟がいるんですよね?」
「ああ、いるぞ。兄も姉妹もいる」
「多いですね」
「そうか?案外普通だろ。村に住んでいる他の家もそんな感じだろう?それに、子供が少ないと、何かあった時に家が続かないからな」
「じゃあ、ラウターに行けばその家族の人たちみんなに会えるんですか?」
「いや、姉はもう嫁いでいる。別の貴族の家だ。妹も同じだな。だから今回会えるとは限らないと思う」
「ああ、そうですよね」
貴族の女性は政略結婚で外に出る。まあ、そこは想像通りというか、まんまだな。
「男の兄弟はいるんですか?」
「一番上の兄さんはグレイ。今は軍にいる。エーバ砦で指揮を取っているはずさ。」
「軍の?」
「グレイ兄さんはスロバ王国の総司令官だからね。昔から俺よりずっと魔法が強くてな。父さんにもよく似ている」
総司令官か、凄いな。にしても、「父さんにもよく似ている」その一言だけで、なんとなく圧が強い人間だと分かるのも凄い。
「グレイ伯父さんも怖いんですか?」
「怖いというか、元気だし、声がでかいな」
また声か。スチュアート家の強さは声量で測れるのだろうか。
「ただ、戦場では頼りになる。俺も若いころは何度も助けられた」
ルイスがそう言うと、エリスが少しだけ笑った。
「助けられたというより、一緒に無茶をしていたの間違いでは?」
「...まあ、若いころの話だ」
ルイスは誤魔化すように咳払いをした。エリスの反応を見る限り、ルイスも昔はかなりやんちゃだったらしい。今も割とそうだけど。
「他に兄弟はいるんですか?」
「もちろんいるさ。次男はクリス兄さんだな。兄さんはグレイ兄さんと一緒に軍で働いている。魔法戦そのものはグレイ兄さんほど得意ではないが、指揮は上手い。グレイ兄さんが突っ走りそうになると止める役でもある」
「止める役?」
「そうだ。スチュアート家には必要な役だ」
ルイスが妙に実感のこもった声で言った。なるほど。声がでかくて突っ走る人間が多い家には、確かにブレーキ役が必要だろう。組織論としては非常に大事だ。
そう言って遠くを一瞬みていたルイスは思い出したように言う。
「それに、三男のジェームズ兄さんが居るな。今はラウターにいるはずだから、行ったら会えるさ。魔法も使えるが、どちらかと言えば書類や金勘定の方が得意だな」
「金勘定ですか?」
「領地の収入や支出、軍に必要な物資、税の管理、そういうものだ。父さんはあまり細かい数字が好きではないからな。ジェームズ兄さんがかなり支えているんだよ。」
「へえ」
魔法の強い長男。指揮官タイプの次男。書類と財務に強い三男。
そして国境地帯の村で監視役をしているルイス。
スチュアート家、思ったより役割分担がはっきりしている。というか、冷静に考えると、領地経営で一番大事なのはジェームズ伯父さんでは?
戦時ならともかく、平時の領主適性という意味では、数字に強い人間の方が重要な気がする。もちろん、魔法で核攻撃みたいなことが起こる世界なら、武力の価値も現代とは比べ物にならないだろうが。
「じゃあ、僕たちの従兄弟もいるんですか?」
「もちろん、いるぞ。ただ、今回会える者は少ないだろうな。グレイ兄さんやクリス兄さんの子供たちは、ギリシアの大学や王国の軍学校に行っているから今はラウターに居ないんだ」
「大学?」
この世界にも大学があるとラインハルトさんから話を聞いていた。だが、まさか従兄弟がその大学に行ってるとは初耳だ。
とはいえ、大学の名前なんだっけ?忘れてしまった。
「そのギリシアの大学で、従兄弟の人たちは、何を勉強してるんですか?」
「色々だけど、多分魔法の勉強がメインじゃないかな。まあ、ギリシアの大学は簡単に行ける場所ではないぞ?家を買えるような大金を払わないといけない。貴族や大きな商家の子供でも、誰でも行けるわけじゃないんだ。」
「じゃあ、王国の軍学校はどんなところなんですか?」
「そっちはスロバ王国の軍に入る者が行く学校だな。魔法戦や指揮、兵站なんかを学ぶ。スチュアート家の子供は、そちらに行く者も多い。というか長男のグレイ兄さんの息子以外は皆軍学校に行っているはずだよ。お金的にそこが一番だから。パウルもいずれはそこに行くのがいいさ」
「父さんは大学に行ったんですか?それとも軍学校に行ったんですか?」
「大学に居たが卒業はしてないぞ」
「中退したんですか?」
「そうだ。途中で戻った。色々あってな」
ルイスはそこで言葉を濁した。エリスもそれ以上は何も言わなかった。言いたくないのかもしれない。何か事情があるのだろうか?子供の特権で聞きまくることもできるが、空気を読む能力は前世から一応ある。
「ところで、そのエリックおじいちゃんは、どんな魔法を使うんですか?」
話題を変えると、マリーがまた得意げに口を挟んだ。
「おじいちゃんは、すごいの! ばーんってやるの!」
「ばーん?」
説明が雑すぎる。ルイスが苦笑しながら補足する。
「父さんは魔力量が多い。基礎魔法も重力魔法も、結界も治癒も使える。さらには、核の魔法もな。だから、戦闘では領内でも一番だろうな」
「父さんよりもですか?」
「俺よりずっと上だ」
即答だった。
ルイスは強い。少なくとも村では圧倒的に強い。俺が知っている大人の中では、コーシーさんより更に強く別格だ。そのルイスが、あっさり「ずっと上」と言う。しかも、核の魔法も使えるとなると、それはもう個にして軍に匹敵する力を持つということか。
「だから、怒らせるなよ」
ルイスが俺に向かって不安げに念押ししてくる。解せぬ。
「怒らせるようなことしないですよ」
呆れながら答える。
「お前はたまに自覚なくやるからな」
失礼な。
そんな感じで色々と家族のことを聞いているうちに、夕方になった。その日はピルナ村の隣村に滞在して、翌朝ラウターに向かうことになった。隣村では、ルイスの知り合いの家に泊めてもらった。村の人たちからは歓迎された。マリーはすぐに村の子供たちと仲良くなり、俺も土魔法で作った小さな人形を一つあげることになった。すると、子供たちが一斉に目を輝かせた。しまった。この流れは知っている。ピルナ村で何度か経験したやつだ。結局、寝る前に何体か追加で作らされた。
異世界の子供も人形には弱い。というか、娯楽が少ない世界では、動く人形玩具というだけでもめちゃくちゃ珍しいのだ。なにしろ娯楽がないからという理由で、皆廃屋とかに集まって秘密基地を作ったりしているのだから。
移動の疲れか人形を作ったせいの疲れか、あっという間に寝た。
翌朝、まだ空気が冷たい時間から移動を再開した。馬車に揺られ続け、尻と腰がそろそろ別の生き物になりかけたころ、ようやく地方都市ラウターが見えてきた。
ピルナ村よりもずっと大きい。確かに、これは村ではなく街だった。
まず目に入るのは、街を囲む壁だ。木の柵ではなく、ちゃんとした城壁。石で作られた分厚い壁が、街全体をぐるりと囲んでいる。中世らしい。
ラウターよりさらに遠くの地平線には、砦らしきものも見えた。あれがエーバ砦らしい。
なんでも、世界大戦が起こるより前のずっと昔の時代に帝国侵攻に備えて作られた砦らしい。世界大戦の間も奇跡的に生き残り、今でも砦として使われているのだ。砦が核攻撃で灰燼に帰さない方が珍しいというのだから、先の世界大戦はやっぱりやばいよ。
長男であるグレイ伯父さんも、総司令官としてあの砦にいることが多いらしい。
なんか納得だ。素人の俺が見ても、あー砦っぽいなぁ、と分かる。あそこに軍人が詰めていると言われれば、そうでしょうね、という感じだ。
ラウターの城壁の入り口では衛兵による検問があった。ルイスのことは衛兵たちも知っているらしく、馬車が近づくと彼らは、すぐに姿勢を正した。
「ルイス様。お待ちしておりました」
「久しぶりだな。父さんはいるか?」
「はい。エリック様もお待ちです」
そう言って、衛兵たちは丁寧に頭を下げた。
こう見ると、ちゃんとルイスはスチュアート家の一員なのだと実感する。普段のルイスは、村で水を配ったり、村の若い女性を変な目で見て母に怒られて青ざめたりしているので忘れがちだが、貴族側の人間なのだ。
ちなみに、この世界に冒険者はいないらしい。ダンジョンもない。教会のラインハルトさんに聞いたら、「なんですかそれは?」という顔をされた。よく考えれば当たり前の話だ。危険な魔物が出ると、軍が対応する。パーティとか言う怪しい武装集団が勝手にうろついて魔物退治で生計を立てる社会制度の方が、冷静に考えると意味不明だ。それにダンジョンを作れるような文明レベルなら、魔族エドワードだって簡単に撃退されていたはずだ。
兵士との挨拶の後、門を抜けると、そこにはピルナ村とはまるで違う光景が広がっていた。
道は踏み固められ、人の数も多い。荷車を引く商人、籠を持った女、走り回る子供、武装した兵士。建物も村よりずっと密集している。木造の家もあるが、石造りの建物もちらほら見えた。
そして、臭い。
土と家畜と草の匂いが中心だった村とは違う。ここは人と煙と食べ物の匂いが、狭い道の中でぐちゃぐちゃに混ざっている。しかも、その中でも強烈なのが、腐った水と糞尿のような臭いだ。道の端には黒ずんだ水が溜まり、馬糞がそのまま落ちていた。場所によっては、見なかったことにしたい種類の汚物まである。
「...うわ」
思わず服の袖で口元を覆う。
現代日本で、時々渋谷に行くことがあった。行くたびに、汚いなと思っていた。
前言撤回しよう。
渋谷は綺麗だった。少なくとも、道端に馬糞や人間の下半身由来と思しき何かが普通に落ちているわけではない。
これはまずい。衛生観念がまずい。
いや、この世界の医学水準を考えると、笑い事ではない。変な菌に感染して、異世界転生した先で疫病死なんて絶対に嫌だ。自分は急いで服で鼻と口を覆う。後で、手も徹底的に洗って、うがいもしっかりやらないとな。家族たちにも後で徹底的に手洗いうがいをしてもらうとしよう。
そうして、臭さにびっくりしながら、街を進んでいると、魔力感知の範囲の端に大きな魔力が入ったのを感じる。場所は、街の奥、方向的には城の辺りだ。信じられないほど大きい魔力だ。
村の近くには帝国に繋がっている街道がある。その街道の辺りを通る魔法使いの人たち数百人を見てきたが、その人たちの中でルイスと同じくらいの魔力だった人なんて殆ど居なかった。それもルイスより少し多いぐらいの魔法使いがせいぜい6,7人ぐらいだった。
だが、この人は別格だ。
明らかにルイスより何倍も魔力が大きい。魔力感知を覚えてから、ここまで大きな気配を感じたのは初めてだった。
...これが、エリックおじいちゃんか?
なるほど。ルイスが「俺よりずっと上」と即答した理由が分かった気がする。
これだけ魔力差があれば断言できるだろう。
「どうした、パウル?」
父が冷や汗を流している俺の顔を見た。
「すごい魔力が...」
「パウルも分かるか」
「はい。城の辺りにいる人ですよね?」
「ああ。父さんだ。」
ルイスは少しだけ笑った。
しばらく進むと、広場が見えてきた。そして、街の中でもひときわ高い石造りの建物が見えた。尖塔の先には、丸い水滴のような紋章が掲げられている。
「あれは?」
俺が聞くと、ルイスが答えた。
「ナーイアス教会だ。ラウターではラレース教より、ナーイアス教の方が知名度が高いよ」
「ナーイアス教?」
名前自体は聞いたことがある。確か、ギリシア世界やラウター周辺で広く信仰されている宗教だったはずだ。だが、ピルナ村ではラインハルトさんのいるラレース教会の方が身近だったので、正直そこまで興味を持っていなかった。というか、自分が宗教のことに興味なさ過ぎて話を真面目に聞いてなかっただけだ。
「世界で初めて魔法を作った大魔法使い、ナーイアスを祖とする宗教よ」
エリスが補足する。
「ナーイアスは水の魔法を作った世界初の魔法使いで、安全な水を人々に与えたと言われているの。だから、ナーイアス教の紋章は水滴なのよ」
「世界で初めて魔法を作った、ですか」
それはなかなか大きく出たな。魔法が日常にある世界で、最初の魔法使い。地球で言えば、火を使い始めた最初の人類みたいなものだろうか。いや、この世界ではもっと神話的な存在なのかもしれない。
「本当に最初だったかは知らんがな」
ルイスは肩をすくめた。
「ただ、ナーイアスが世界中を旅して、水の魔法を広めたという伝説は有名だな。ギリシア世界では子供でも知っている話だよ。パウルにも昔話した気がするんだけどな」
「へえ...忘れてました!」
なるほど。ピルナ村ではラレース教が当たり前だったが、少し街に出るだけで信仰の対象が変わるらしい。同じスチュアート領でも、信じられているものは一つではないということだ。それにしても流石に世界中を旅したというのは嘘だろう。1000年以上昔となると、航海技術だって遥かに未熟だったはずでそんな中世界中を旅するなんて無理な気がする。
もっと詳しく聞いてみたい気もしたが、今の俺の頭の中は、正直それどころではなかった。紙。金属。缶詰。レールガン。そして、もう限界に近い尻と腰に酷すぎる下水臭。宗教調査は、また今度でいいだろう。
しばらくして、この街ラウターの城の目の前に着く。
高い塀に囲まれ、門の前には兵士が立っている。
中の訓練場らしき場所も広く、建物も村の家とは比べものにならないほど大きい。
ここがルイスの実家。つまり、スチュアート家の本拠地なのだろう。
馬車を降りて、門を通らせてもらう。中は、街の地獄のような下水臭はしなかったので嬉しかった。壁に囲まれた城を進み、城館の中に入ると、一人の男性が立っていた。
痩せ気味で、眼鏡を掛けている。目の下にはうっすら青いクマがあり、片手には書類の束を抱えていた。服装はきちんとしているのに、どこか疲労感が漂っている。
この人、絶対に事務方だろう。親近感が湧くね。
「久しぶりですね、ルイス。」
男性はルイスを見るなり、ほっとしたように言った。
「久しぶり。ジェームズ兄さん」
「本当に久しぶりですよ。手紙では読んでいましたが、まさかこんなに急に来るとは思いませんでしたよ」
「ああ、急ぎで見せたいものがあってな」
「ええ、その件も聞いています。そのせいで、父上が朝から落ち着きません」
ジェームズさんはそう言って、俺たちの方を見た。
「君がパウル君かな?」
「はい。パウル・スチュアートです」
「話は聞いているよ。ずいぶん面白いものを作っているらしいね」
面白いもの。缶詰とレールガンのどちらを指しているのだろう。どちらも見方によっては面白いし、見方によっては危険物だ。
「こっちはマリーちゃんかな?大きくなったね」
「ジェームズおじさん、お久しぶりです!」
マリーはニコニコしながら挨拶した。こういう時の姉は本当にしっかりしている。普段はお菓子のことで頭がいっぱいなのに。
「そして、この坊やがパーカー君か」
エリスに抱かれたパーカーを見ると、ジェームズさんは少し表情を緩めた。
「可愛いですね」
「ありがとうございます」
エリスが穏やかに答える。ジェームズさんはすぐに真面目な表情に戻り、屋敷の廊下の方へ向き直った。
「父上は奥にいます。行きましょう」
そう言って、ジェームズさんは、客室の前まで案内してくれた。そして、客室の重い木の扉で立ち止まり、ノックをして乾いた音が響く。
「父上。ルイスたちが到着しました」
少しの間があった。それから、扉の向こうから女性の声が聞こえた。
「開けてください」
落ち着いた、しかしよく通る声だった。
ジェームズさんが扉に手を掛ける。
金具が軋み、重い扉がゆっくりと開いた。




