第10話:レールガン
魔法訓練の傍ら、実験の方も進んでいる。
鉄の余りを用いて、物理学の実験 ―― 運動方程式や運動量保存則が成り立っているか、ちゃんと検証したのだ。実験器具もかなり増えて俺の部屋にはビーカーの代用である鉄容器とか、定規の1メートル版とか、フラスコ、ピボット、色々ある。解説してたら、多分1週間は掛かると思う。ゴムがなかったので、物質創造で少量作ったりもした。そのおかげで想像以上に現代の実験器具に近い内容となっている。とはいっても精度の高さはお里が知れてる。それに、時間を測る実験器具は未だに振り子だしね。しかも、毎回実験の間、アルベルトに数えてもらう形だ。一秒以上の細かい点がどこなのかも計測できないし、困ったものだ。
それに、今日の目的は物理実験ではない。
では、銅と鉄を使って何を作るつもりなのか?
それは、レールガンだ。
雷の魔法を用いて、金属に電流を流し超強力な電磁場を発生させる。そこから金属を高速で射出することで、普通の銃やそれ以上に強力な威力の弾丸となる。
火薬を作って銃を作るのも考えたのだが、普通に作り方を覚えてなかったので諦めた。物理学の研究ばかりだったから、化学は専門外なのだ。火薬のような色んな元素を混ぜ合わせて化学反応しやすいようにするといった類のことは知らない。
ま、硫黄が必要なことぐらいは知ってるけど...それ以上は何もわからんしね。ニトログリセリンだって、作り方忘れたし。
それにレールガンなら、火薬と違って場所の湿度などに左右されずに雷の魔法を使える状態なら絶対に使える。もちろん、魔力が底をついたら使えないのだが、多分全ての魔力を消費しても状況を打開できないぐらい強い相手はレールガンでも意味ないからね。そういう考慮する意味のない欠点は無視だ無視。
あと、コイルガンも一瞬考えたけど、やめた。レールガンに比べて格段に制御が難しいし、その制御装置も多分今の環境だと作れない。さらに悪いことに、威力を増加させるためには、制御装置が複雑化する。もちろんレールガンのような摩耗はしないので、比較的長く使えるだろう。
ただ、結局、コイルガンもレールガンも廃熱機構が厄介で、廃熱問題によって遅かれ早かれすぐに壊れるだろう。
だったら、威力の制限があるほうか無いほうか、どっちがいいかは聞くまでもないだろう。
超強力な一発の銃弾で危険対象を無力化できるなら、壊れたって良いのだ。
ちなみに、今回作るレールガンは単発式だ。なぜなら連発式の作り方が分からなかったから!
連発式の銃ってどうやって作っているんだろう?インターネットがないこの世界に来て初めて細かい点で自分は現代社会の技術のことをなにも知らなかったんだと実感する。
そんなこんなで、思い付きで始まったレールガン開発。今は空き地で、アルベルトと二人で銅のレールパーツを作ったり、弾丸を加工したりしている。レールガンは使い捨てで作成することになっているのが目に見えているので、諦めて各部品の鋳造型は作っておく。アルベルトも横でせっせと作業している。細かい理屈は分かっていないようだが、手伝いは助かる。
「ここ、真っ直ぐでいいのか?」
アルベルトがレールパーツについて聞いてくる。
「そこは絶対に曲げないで。少しでも歪むと弾が変な方向に飛ぶ」
「変な方向って?」
「最悪、俺たちが居る方向に飛んでくるかも。」
「...それは嫌だな」
「だから真っ直ぐ。絶対な」
「分かった」
レールガンの説明を聞いている時、アルベルトはすごく眠そうな顔をしていたが、手を動かす作業になるとちゃんと集中しているようで安心した。
弾の大きさは、とりあえずはそこまで大きくない大きさ、つまり俺が知っている現代社会の銃弾ぐらいの大きさにしておいた。
今日は何発撃てるのかを実験するつもりだ。あとは、最大威力としてどれくらいの魔力を込めるのが許されるのか?といったあたりだ。
数時間後に、ようやくすべてのパーツの型とパーツそのものを作り組み立てた。作業の後は、空き地でアルベルトに、狙撃対象である人ぐらいの大きさの土人形を30m先に作ってもらう。
これで準備完了だろう。
弾を込めて、雷の魔法をレールに発動し、局所的に超強力な電磁場を発生させるのだ。
まずは一発目、少量の魔力を込めただけだと、弾はそもそも飛ばないと思い、少しだけ多めに魔力を込めて、撃ってみる。
「ボッ」
高速な物体の空気抵抗の音が聞こえた。と、思うと、標的だった人形の腹あたりに命中し、土人形の上半身は無残にも崩れる。
うん...結構な威力だ。
あの土人形って普通の人が全力で殴っても壊れないような強度なのに、それが横腹に命中しただけで上半身が吹き飛ぶとはね。アルベルトはびっくりしたような顔をしている。どうせ話を聞いていなかったから、そんな威力になるとは思ってなかっただろう。
「どうだ?すごいだろ?」
どや顔で聞く。
「ああ...正直その武器の原理は、未だに分かってないけど、この武器があったら大抵の人間相手なら無双だな」
「ん?まあ、そりゃあそうだけど、アルベルト、お前とか父さんみたいに獣の魔法使えたら、どうとでも回避できるだろ?」
「どうだろう?俺にはちょっと自信ない。少なくとも不意打ちで撃たれたら獣の魔法を発動する前に死にそうだ。」
「不意打ちならな。ま、あとは有効射程距離とか調べないと、不意打ちできるかどうかも分からない。問題は、射程の長さを試すための直線的な道がないことだな。村で撃てるような威力じゃないし」
「ん?あ~、小麦畑のところでやればいいんじゃないか?皆に一時的に退いてもらうのは?畑なら、広いし」
「名案だけど、う〜ん。それだと、畑のどこに落ちたのかが、分からないんじゃないか?」
「...それは知らん。どっちにしろ今日のテストを終わらせてから考えようぜ」
「それもそうだな。よし、じゃあ、もう一発撃つよ~」
そういって、テストを再開した。結果的には、雷の魔法で電磁場を発生させられなくなるほど損傷するまでに10回撃てた。アルベルトにも一発だけ撃ってもらった。雷の魔法の練習がまだ充分じゃないのか、威力は少し落ちているが、それでも土人形の肩を吹き飛ばした。アルベルトはご満悦そうだった。
アルベルトも頑張って雷の魔法を練習した甲斐があっただろう。
それと、命中精度も安定していて、ちゃんと狙った場所に当たっていると思う。少なくとも30mぐらいの至近距離なら落下を気にする必要性がほとんどない現代の銃に近いと思う。日本に居たから、銃のことなんて知らないけど。
それから、反動もそこまでない。姿勢に気を付けているのもあるだろうけど。
まだ試作品が一丁残っているので、最後の一丁は最高威力を検証するために使ってみることに。最大威力を試すと言うと、アルベルトは少しだけ顔を引きつらせた。
「さっきので十分強かっただろ」
「最大威力を知らないと危ないだろ?」
「最大威力を試す方が、危ないだろ?」
正論だった。あの脳筋なアルベルトが正論を言った。これは、かなり危険な兆候かもしれない。
「じゃあ土壁を作るし、耳栓もして、安全にやろう」
でも、最大威力を見てみたいという好奇心は止められないよな!
「それで本当に大丈夫なんだろうな?」
不安そうなアルベルト。
「...たぶん?」
「たぶんかよ!」
アルベルトは文句を言いながらも、土人形を作り直してくれた。その間に、土魔法で壁を作ってゆく。あと、レールガン自体も土魔法で固定させた。最大威力となると反動がどれくらいになるか分からないから、自分の体で支えたくないのだ。あと、不安だから、二人とも耳栓をする。
それからアルベルトにも俺の土壁の後ろに一緒に隠れてもらう。俺もレールガンの引き金を引く手以外は土壁で正面から保護している。もし最大威力で爆発四散した土人形の破片がこっち側に飛んできたら、ワンチャンその破片で死ぬからね。細心の注意を払っている。
安全確認ができた後は、大量の魔力を込めてゆく。今体内にある魔素のうち半分ぐらいだ。
全力で魔力を電流、ひいては電磁場に変換させてゆく。
電磁場を人間や動物は感知できないはずなのだが、なんというかムズムズする。
そして、森にいる鳥が鳴きながら飛び立ち、村に居る犬たちが吠え始めた。
レールガンの持ち手から熱を感じる。
うん、これ以上熱くなると撃てなくなりそうだ。撃つよ!とアルベルトに合図する。
そして、引き金を引いた瞬間、空気が裂けた。
「――ッガァン!」
耳栓越しでも頭の奥を殴られたような音がした。
そして間髪おかずに、森の方から、
「バキバキバキッ、ドォン」
木が折れ、倒れる音が続いた。
相当うるさかったのか、アルベルトもしかめっ面をしている。というか、爆音すぎたな。おそらく、村中でこの音が聞こえたんじゃないかな?
レールガンは、あまりの熱なのか湯気が立ち上っている。いや、というか手を近づけるだけで熱いと感じる。火傷したくないから、触れないでおこう。
それよりも撃った対象がどうなったかだ。おそるおそる、壁から顔を出してみる。土煙でよく見えない。が、まあ、あの音とこの土煙なら、土人形と空き地の奥にあった木々は文字通り木端微塵だろうね。土煙が落ち着いてくると、少しずつ見えてくる。土人形があったはずの場所にはわずかな石ころしか残っていない。そして、空き地の奥にある森の木々も折れている。
土人形を貫通したあの弾丸は森の木々をへし折ったのだろう。凄まじい破壊力だ。
残念ながら、これだけの威力を撃つのは実戦では無理だろうな。もちろん、撃てたら小隊ぐらいの規模なら全員殺せるだろうけど、あんな強い反動に耐えられるだろうか?
生身は不可能だろうから、耐えるには、獣の魔法が必須だろう。
...あー、獣の魔法か。もしかするとこの銃はアルベルトが持っていた方がいいかもしれない。アルベルトも俺と練習したおかげで雷の魔法を少し使えるし。アルベルトの魔力量だとさっきみたいな最大威力で撃つのは無理だろうけど、最大威力で撃ちたい時だけ、俺が魔力を込めればいいしな。
よし、アルベルト ―― と話しかけようとしたら村の方を見ながら青い顔をしているアルベルト。
ん?そんなに驚いたのか?割と話した通りだったと思うんだけど ―― ふと、アルベルトの視線の先を見て、ルイスとコーシーが走ってくるのが見えた。
こ、これは確実に音が聞こえたんだろうなぁ。
しかも、あの顔。うん...。アルベルトが青い顔なのも納得だ。怒られるかも。今後は実験はもっと人里離れている場所じゃないと危険だな。こんな感じの高威力武器を作ったら人里なんて危険すぎる。そんな風に考えていると十秒ぐらいでルイスとコーシーが獣の魔法を用いた超人的な走りで空き地にたどり着く。
「一体なにが起きたんだ?」
ちゃんと真面目な顔のルイス。うん、これは茶化したら絶対怒られるパターンだ。
「ご、ごめんなさい。魔法の実験をしてたんだけどね、そのぉ~...」
どうやって説明しようかなと考えていたら、アルベルトが矢継ぎ早に。
「新しい武器を作ったんだけど、パウルが最大威力を撃ってみたいっていうから、やってみたんだ。そしたら、こんなことになった。パウルが魔力を込めすぎたんだよ。」
おい、こら。擦り付けるんじゃないよ。実験の内容を聞いた時は、お前もカッコ良さそうとか言ってたじゃねぇか?!ちくしょう、こういう危機の時だけは対応力が高いアルベルト。
ってよくよく思い出してみると、最大威力で撃つ実験の時アルベルトは俺を止めてたから、俺の勘違いだね、ごめん。
「本当なのか、パウル?」
しかめっ面のルイス。
「えっと。うん、そ、そうです。その、パパ、ご、ごめんなさい」
こういう時は素直に謝るのが一番。ちゃんと腰を曲げて謝る。
「それより、パウル君、一体どうやってそんな威力の魔法を出したんだい?今まで習ってきた基礎魔法でそんな爆発がするような魔法は無かったと思うんだけどな」
コーシーさんが、不思議そうに尋ねてくる。
「雷の魔法を使ったんです。雷の魔法って磁石みたいな働きがあるのに気が付いたので、それを応用して銅の塊を押し出して、ものすごい速さで飛ばしたんです。」
という簡単な説明をする。
「これが、その武器なのか?パウル?」
とルイスが怪訝そうな顔でレールガンに近づく。
「そうです、レールガンっていう武器で、今は熱 ――」
言い終わる前にルイスが不用意に高熱のレールガンに触る。
「アッツ!」
思わず叫ぶルイスとクスっと笑うコーシーさん。
「熱いから触らない方が良いって今言おうとしたのに...」
思わずつぶやいてしまう。
「あのな、パウル。こういう魔法の訓練をやるのはいいが、せめて周りに言いなさい。めちゃくちゃ危ないぞ」
手に回復魔法を掛けながら、言うルイス。
コーシーさんは、森の方を一度見てから、低い声で言った。
「ルイスの言う通りだ。アルベルト。パウル君。実験をするなら先に言いなさい」
「「はい」」
二人仲良く即答だ。
「安全のための土壁を作っていたのは偉い。だが、森に人がいたら死んでいたかもしれない」
「...はい」
「危ない魔法を試すなとは言わない。だが、周りを巻き込みそうなら、周りに伝えなさい」
「はい、ごめんなさい」
アルベルトと俺はしょんぼりしながらぺこりと謝る。ルイスはしばらく、壊れた土人形と森の方を見ていた。その視線は、怒っているというより、何かを考えているようだった。
「...パウル」
「はい」
「お前、その武器、もう一回撃てるか?」
「え?」
急に話の方向が変わった。あ、もしかして、許された?とか調子に乗ったら怒られるから、やめておこう。反省だ反省。
「武器を作り直せばできると思います。もうそこにあるレールガンは壊れてるので作り直しです。」
ルイスは小さく頷いた。
「そうか」
ルイスは、それ以上は何も聞いてこなかった。
その日は空き地の片付けをして、解散してそれぞれの家に帰ることとなった。
何かの考え事をしているのか、ルイスは黙ったままだった。




