第三十話 寺からの呼び出し……ピンチ、またピンチ!?
その朝、朝食の席で。
リリーシャの視線が、妙に熱を帯びて俺に向けられていた。
「あんた、こんなに無理して……本当に巫女様に会いたいだけなの?
」
その質問は、ただの確認のように聞こえた。
でも、どこか探るような響きがあった。
不妄語戒を意識した微妙な探り——そう感じた瞬間、俺の返事は自然と
しどろもどろになった。
「……え、……まあ、そうだよ。使命だから……」
「本当に、それだけ?」
「……」
言葉がうまく出てこない。
心のどこかにやましい部分がある。
青ビキニに惹かれてしまったのは事実だし、
「クエスト」を引き受けた動機は結局、
他の男が巫女様と子作りするという想像に我慢できなかったからだ。
でもこの心理って……
俺は思わず視線を逸らしてしまった。
リリーシャはその挙動を見逃してくれなかった。
リリーシャが、俺を責めるような目つきで口を開いたとき、
ちょうどそのタイミングで、
「ああ、みつけた!!」
という声が俺たちにかけられた。
バリアン宗の寺の若い奴隷だった。
俺とはかつての顔見知りで、
俺を見つけて安堵した表情で近づいてきた。
「高僧猊下が、お前に用があるそうだ。
いそぎ寺に来るように、と」
俺はその瞬間、嫌な予感に全身が震えた。
殺生の手助けをしている俺を、叱責するって用事じゃないだろうか…
…?
パーティのみんなも、事情は知らないながらも心配そうに
俺を取り囲む。
特にリリーシャの表情が強張っていた。
「何よ……急に。
あんた、なんかやらかしたの?」
「わからない……でも、行かないわけにはいかないよな」
結局、パーティ全員が「ついて行く」と言ってくれて、
俺たちは集団で寺へと向かうことになった。
寺の庫裏の食堂で、一同は茶果をもてなされた。
とくにドルガンなんかは「南無ラトナ仏」と
いちいち手を合わせてありがたく甘味をいただいている。
しかし、俺だけは、境内の脇にある薬師堂へと連れていかれた。
そこには薬師仏が祀られており、
その祭壇の前に、高価そうな敷物が一枚、丁寧に敷かれていた。
「ここが……猊下の席か」
俺が戸惑っているうちに、払子を手にした高僧猊下が現れた。
立ち話で軽い挨拶を交わす。
「元気か。冒険者になったそうだな」
「はい。俗世にて口を糊しつつ、
いただいた法華経から少しずつ学んでいます」
高僧猊下は満足そうに頷くと、
「では、座るがいい」
と、祭壇前の敷物を手のひらで丁重に示した。
「えっ……そこは上座じゃないですか!?」
「左様。今から問答をする。
拙僧が問い、お前が答える。
だからこれで正しい」
俺は仕方なく祭壇前の敷物に半跏で座った。
両足が脚上に載る結跏趺坐と違い、
片足はふくらはぎの下に入る、俗人の座り方だ。
菩薩像はたいていこの座り方をしている。
半僧半俗の俺としてはいちおうの礼儀のつもりだ。
高僧猊下は菩提樹の実の数珠を左手にして傍らに立った。
両者が座る日本式の問答とは違う。
これはナーランダ様式というやつか?
問うものは立ったまま身振り手振りも加えて問い、
答えるものは座したまま下から見上げて答える。
高僧猊下がまず問うてきたのは、法華経に関する問答だった。
「方便品に説かれる『諸法実相』とは何か。
また、提婆達多品で竜女が成仏した意義を、自我偈と絡めて説け」
俺は脳をフル回転させた。
師僧の言葉、経典の記憶を総動員しながら、
言葉はできるだけ端的に答える。
「……諸法実相とは、一切の現象が本来空でありながら、
仮に存在するそのあり方そのものです。
提婆達多品の竜女成仏は、女人でありながら、
一念の悟りによって即身成仏した例。
自我偈の『如来は常にこの世界にありながら、
方便をもって衆生を救う』という教えと重なり、
すべての衆生に仏性があることを示しています」
高僧猊下は静かに頷いたが、俺は内心でパニックになっていた。
(なんでこんな問答を……!?)
さらに問答は続いた。
俺は必死に師僧との会話を思い出しながら対応したが、
その受け答えに高僧猊下は、おおむね満足そうに見えた。
そして、最後の問い。
「では、地獄の主、烏、狗、羊などは衆生か、
衆生ではないか」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
「……衆生ではありません」
高僧猊下の目が細くなる。
「何の義によって非・衆生か」
俺は五種の義を必死に思い出しながら答えた。
地獄の主などが衆生なら苦を受けるはずなのに受けないこと。
互いに殺害しないこと、罪人にのみ畏れられること……
一つひとつを、かろうじて繋げて説明した。
高僧猊下は静かに聞き終えると、
最後に一言、静かに問うた。
「……魔獣は衆生か、衆生ではないか」
その瞬間、俺は大きくショックを受けた。
そして、声が出なくなってしまった。
そんな俺を見て、高僧猊下は満足そうにニヤリとした。そして
「善哉、善哉。…あとは使いの者に聞け」
と笑いながら、薬師堂から退出していく。
魔獣とは、他者に苦厄を与えることが主な存在意義。
苦厄は業の結果。
つまり、地獄の主や獄卒と同じ理屈で……
高僧猊下は、俺の魔獣退治を、
「方便」として認めてくれたのではないか——?
そこまで考えたところで、使いの奴隷が呼びに来た。
庫裏の食堂に戻ると、パーティメンバーが待っていた。
「ああ、待ってた。割のいい依頼があったわよ」
ミランダの言葉に俺は、
すべてがつながったような気がして呆気にとられた。
(第三十話・了)
注) 問答の内容は、今後の展開の伏線としてAIが作成したものでして、私自身の考え方とはちょっと違う部分もあります。法論とかをマジレスしてこないでくださいね、、、議論をふっかけるならAIにw




