第二十九話 リリーシャ視点 ~ あいつの苦労と、私の気持ちと ~
最近、あの坊主のことが頭から離れない。
最初の頃は、ただの「怪しい奴隷上がりの見習い坊主」だと思っていた。
パーティに入ってきたときも、土魔法の邪魔にならないかばかり気にしていた。
でも、あれから色んなことが変わった。
……思い出すのは、15歳のときのことだ。
里では「岩の里の土の娘」と呼ばれ、土魔法の才能を期待されて厳しく育てられた。
ある日、里の外から来た……ちょっとカッコいい冒険者が、優しい笑顔で近づいてきて、
「君の魔法を活かせる場所を探してあげる」と言った。
私はその言葉を信じて里を抜け出した。
自分の将来の展望に、胸を膨らませて。
でもそれは希望的観測に過ぎなかった。
彼は私の魔法を金で売ろうとしていただけ。
惹かれてもいた……幸せな将来を妄想までした相手に裏切られ、魔法以外に自分の価値なんてないと思い知らされた。
それ以来、男なんて信じられない。
魔法だけが私の価値だと思っていた。
なのに……あの坊主は違う。
ダンジョンで一緒に戦うようになって、彼の回復魔法がどれだけパーティを支えているかを実感した。
石斧で魔獣の背骨を砕いたときの驚き、
アミ経を唱えてみんなの体力を回復させる姿……
最初は胡散臭いと思っていたのに、いつの間にか頼りにするようになっていた。
それから、秋の森への一回目の訪問失敗。
準備不足で散々な目に遭いながらも、諦めずに資金を稼ごうと必死になる姿を見ていると、胸がざわついた。
特に忘れられないのは、あの谷の古い木橋が崩れたときのことだ。
私が土魔法で土橋を架けたものの、魔力消費が激しくて力尽きそうになっていた。
あのとき、あいつは突然私を抱き上げて——お姫様抱っ……
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あまりにも恥ずかしくて、そんな言葉さえ思い出したくない!!
「急ぐんだ、文句は後で聞く!」
と言いながら全力で走り抜けたあの瞬間、
心臓がばくばくして、顔が熱くなって、
頭の中が真っ白になった。
……あれ以来、あいつの腕の感触や体温が、時々ふと思い出される。
腹が立つのに、なぜか嫌じゃない。
というか、もう一回くらい……いやいや!! そうじゃなくて!!
とにかく、そんな自分の反応に苛立った。
それだけじゃない。
市場でミルナとかいう牛飼い娘と再会したときのことも、まだ胸に引っかかっている。
二人きりで歩いていて、なんとなく楽しい感じになりかけていたのに突然割り込んできた女。
あの牛飼い娘が笑顔で「あーん♡」と言ってきた瞬間のあいつの顔。
困ったような、照れてるような、それでいて喜んでいるような……。
私の胸の奥がチクッと痛んだ。
あいつの嬉しそうな顔を見ているだけで、なんだか悔しかった。
その勢いでつい、
「女性に会いに行くのよ、こいつ」
そう私の口から出たせいで、ミルナの笑顔が一瞬で冷たくなったのも憶えている。
あのときの空気の変化は、今でも頭から離れない。
……あいつ、僧侶のくせに女に縁がありすぎてない?
私にもやさしくするくせに。
あいつは験の巫女様に会うためだけに、こんなに頑張っている。
神様から与えられた使命だから、と言っていた。
本当にそれだけなの?
……もしかして、あいつって巫女様のことが好きなんじゃない?
それとも、あの牛飼い娘のこと……
頭の中で、答えの出ない考えがぐるぐる回る。
以前、寝言で「験の巫女様にプロポーズ」したことをヤミカが聞いたとも、小耳に挟んだことがある。
本気なの? それとも、夢での間違い?
確かめたくなってきた。あいつの気持ちを。
でも、どうやって?
……そうだ。
あいつはフート教の見習いだ。
不妄語戒、を守ってるはず。
直接聞けば、嘘はつけない!!
私は決心した。
一度、ちゃんと聞いてみよう。
「本当は……巫女様のことが好きなの?
それとも……他の誰かのこと?」
その言葉を口に出す想像をしただけで、顔が熱くなった。
私は慌てて銀髪を指でくるくる巻きながら、
自分の胸の鼓動を抑えようと、下手な口笛なんか吹いてみた。
あいつが苦労している姿を見ていると、
放っておけない気持ちになる。
土木工事で怪我をして、便所掃除で怒鳴られて、
倉庫で計算ミスを連発して叱られる……
そんな姿を見ていると、胸が痛くなる。
でも、それが……ええと……要するに、「好意」ってものだとは、認めたくない。
「……ったく、面倒くさい奴」
私は小さくため息をついた。
(第二十九話・了)
リリーシャ様、それはブーメランwww




