第十九話 出発と道中のトラブル ~準備不足の代償・前編~
翌朝、俺たちは馬車で出発した。
森や草原を抜けて山道へ入っていく。
準備不足は明らかだった。
食料は数日分、予備の水筒は2つ、テントは1張り。
魔獣の異常発生がピークだからと急いだ結果だが、
「足りないものは現地調達」で乗り切るしかない。
ラセリアが手綱を操りながら言う。
「巫女様に会いたいなら、
文句言うなよ。
準備不足は俺たちの責任でもあるが、
お前の熱意で決まったんだからな」
俺は頷く。
「はい……ありがとうございます」
リリーシャがショートソードを抱くように
馬車の隅で腕を組む。
「……巫女様優先で、準備不足とか、
あんたのせい以外、ないじゃない」
ミランダが毛づくろいしながらフォロー。
「まあまあ、若いモン。
道中で何か拾えるわよ」
ドルガンが盾を布で手入れしながら低く笑う。
「金貨300枚あれば、帰りに豪華に買い揃えられるぜ」
ヤミカは無言で、苦無を弄びながら周囲を警戒。
道は森の小道。
山間の谷へ向かう下り坂となった
紅葉が美しいが、獣の気配がする。
午後に最初のトラブルがあった。
谷底近くで馬車が泥濘にハマった。
木々の間に、見通しの悪い藪が続いている。
ラセリアが舌打ちした。
「くそ……準備不足のツケだな」
ドルガンが盾を地面に立て、押す。
「せっかく磨いたばかりなのによっ。
南無ラトナ仏……! 押せ!」
俺も降りて押す。
リリーシャが土魔法で地面を固めるが、
魔力消費が激しく、すぐに息が上がっていた。
「くっ……土が柔らかすぎる……」
そのときミランダが狐火で周囲を照らした。
「魔獣の気配が……近づいてるわ」
ヤミカが影から報告。
「……3匹。
その後ろに、11匹」
「!」
一同は作業を中断し、急ぎ武器を手に取った
俺も巻物を握る。
「俺が……!」
アミ経を高く掲げる。
「南無阿弥陀仏……」
光がパーティを包み、体力が回復。
「よし、戦うぞ!」
ラセリアが剣を抜く。
3匹の魔獣が姿を現した。
灰色の毛皮をもつ大型の狼のようなやつらの群れだ。
けれど、凶悪な目の光り方がふつうのケモノとは違うし
小さいが角のようなものの生えてるやつもいる。
獣どもは馬車を取り囲むように様子を見ていたが、
隙を見つけたのか一頭が横から突進して来た。
リリーシャが反応、土壁が生じて獣の突進を跳ね飛ばす。
これを合図に、後続の群れも現れて飛び掛ってきた。
こいつら高い知能があるのか、
入れ替わり立ち代りに突進してきて、
一撃交わされるとすぐに跳び下がり、
次のやつが別の角度から来る。
こちらを休ませないようにしている。
方向はバラバラだが概念としては
「車懸かりの陣」だ。
ドルガンが盾で受け止め、ラセリアが斬りまくる。
でも、すばしこくてなかなかトドメに至らない。
俺は叫んだ。
「手傷は負わせてる!
こうなりゃ持久戦だ」
元気付けになったろうか?
ミランダが狐火を飛ばした
毛皮に火のついたやつがあわてて転げまわる。、
獣の陣形に現れたその隙をついてヤミカが飛び出す。
奇襲!
1頭の喉を切り裂いて、即座に跳ね戻ってきた。
さすが忍者だ!
ふと見ると、ドルガンとラセリアも
連携で2頭を斬り倒していた。
先陣の3頭は破った!
すると、後続の魔獣たちは不利を悟ったようだ。
突然、尻尾を向けて走り去っていった。
息を切らせながら、ラセリアが言う。
「巫女様に会う前に死ぬだろこれ」
俺がその腕の軽症に回復魔法をかけていると、
ミランダが答えた。
「頭の良いやつらだったわね
あんなのがウヨウヨいるんじゃ……」
俺は思わず小さくなる。
リリーシャが、軽く銀髪をかきむしって俺を睨みつけた。
「……あんたのせいよ」
でも、その目には、
叱責だけでなく心配が混じっているようにも見えた。
俺は思う。
「準備不足だったか」
……秋の森までまだ数日。
(第十九話・了)
次回二十話 秋の森まだあと少し……しかし、橋が落ちる!? (注:ラブコメもあるよw)
リリーシャ「……べ、別に。あんたのためじゃないんだからねっ」




