第十七話 リリーシャ視点 —— あの奴隷坊主、ほんとに何なんだろう
……はあ。
今日もダンジョンから戻って、宿屋の部屋で一人、ベッドに座ってる。
銀髪を指でくるくる巻きながら、窓の外を見る。
街の灯りが、ぼんやり揺れてる。
最近、頭の中が落ち着かない。
原因は、わかってる。
あの奴隷坊主。
最初はただの怪しい元奴隷だと思ってた。
パーティに加入したときも、「土魔法の邪魔になる」って睨んでた。
……正直、男なんてみんなそう。
魔法目当てで近づいてきて、利用して、捨てる。
里を出てから、そういうヤツばっかりだったから。
でも……何日か一緒に戦ってるうちに、なんか違う。
魔獣戦のとき。
石斧で背骨を砕いて、隙を作ってくれた。
あれがなければ、ラセリア姉御の剣が届かなかったかもしれない。
……あんた、ただの奴隷なのに、なんでそんなに無茶するのよ。
ダンジョンでゴーレムに囲まれたとき。
俺の土壁が崩れかけた瞬間、
「リリーシャ、後ろ!」って叫んで、
神聖魔法で傷を即座に癒してくれた。
……あんまり、名前で呼ばれたことなかったから、
一瞬、胸がドキッとした。
……って、何ドキッとしてんのよ、私。
あいつはいつも巫女様巫女様って。
秋の森に行く準備をしてるって聞いたとき、
胸がチクッとしたけど、
「別に、嫉妬なんかしてない」って自分に言い聞かせた。
でも、今日のダンジョンで、
あいつがアミ経を唱えてるとき、
みんなの疲れがスッと消えたのを見て、
……少しだけ、悔しかった。
「魔法だけが私の価値」って思ってたのに、
あいつは、経典唱えるだけでみんなを助けてる。
しかも、唱え終わったあと、
「みんな、無事でよかった」って、普通に笑うんだよ。
……ずるい。
あいつは、ただの奴隷坊主なのに、
パーティのみんなが、少しずつ認めてる。
ドルガンは「いいねぇ」って笑うし、
ミランダは「若いモン」って優しくするし、
ヤミカだって、無言だけど視線が柔らかいときある。
ラセリア姉御に至っては、
「若いの、意外と女にモテるな」って言ってた。
……意外と女にモテる、って何よ。
ミルナって牛飼い娘に甘やかされてるって噂も聞いたけど、
本当なのかな。
……って、なんでそんなこと気にしてんの、私。
あいつは、巫女様に会いに行くって言ってる。
それが目的で、パーティに入ったんだろうけど、
それなのに、
戦闘中も、休憩中も、
みんなのことをちゃんと見てる。
……嫌いじゃない。
いや、嫌いじゃないってレベルじゃないかも。
……いやいや、何言ってんのよ、私。
あいつは怪しい奴隷坊主で、
巫女様に夢中で、
土魔法の邪魔になるかもしれないヤツ。
それだけ。
……それだけ、のはず。
俺はベッドに倒れ込んで、枕に顔を埋めた。
「……明日も、ダンジョンか」
あいつの後ろ姿が、頭に浮かぶ。
「……邪魔にならないでよね」
そう呟いて、俺は目を閉じた。
でも、心のどこかで、
明日のダンジョンで、
あいつがまた何かやってくれるのを、
少しだけ期待してる自分がいた。
(第十七話・了)
次回第十八話 突然、秋の森への道が開けた!!?
俺「ラセリアさん……この依頼、受けてもらえませんか?」




