第十三話 秋の森と、巫女と、精霊の歌
朝の光が、秋の森を優しく染めていた。
私は、木の香りの漂う宮殿の縁側に座って、膝を抱えていた。
三つ編みの先が、落ち葉の上に落ちて、カサカサと音を立てる。
日輪の冠が、頭に重くのしかかる。
「……また、漏れてる」
指先が、うっすら金色に光っている。
魔力が、抑えきれずに外へ流れ出している証拠だ。
冠の宝石が、熱を帯び始めている。
森の精霊たちが
「早く、青い実りの衣装に着替えなさい」
と、囁いてるように感じた。
私はため息をついて立ち上がる。
板壁に囲まれた室内に入り、ワイシャツを脱ぐ。
そして鏡に映った自分を見る。
……うわ。
胸、強調されすぎ!
三つ編みの毛先がリボンで結ばれて、紫の瞳が少し疲れたように曇っている。
肌は色白で、頬に自然な赤みが差しているけど、最近はそれが「病的な」赤みに見えてきた。
ライトブルーのレース付きビキニを着る。
胸元と腰と下着の両サイドにピンクのリボンが揺れる。
紐を結ぶ指が、少し震えた。
着終わると、冠の熱がスッと引いて、
魔力が体の中を穏やかに流れるのを感じた。
「……ふう」
でも、これで安心できるわけじゃない。
最近、魔力の不安定さがひどくなっている。
現実世界に長くいると、体が「枯れる」ように衰弱してしまう。
異世界に長くいると、魔力が暴走して異常気象を起こす。
両方の世界を行き来し続けるしかない私。
「治験会社……そろそろ、本気で探しに来るかも」
昨日、学校の昼休みに友達に言われた。
「験子ちゃん、最近……なんか、秋の匂いが強くなったよね?
それに、紫の瞳がキラキラしてる時あるよ?」
私は笑ってごまかしたけど、
もう限界が近い。
「このままじゃ……両方の世界が壊れちゃう」
私は宮殿の奥の部屋へ向かう。
そこには、衛士が預かってくれていた古い巻物。
精霊たちが時々、歌うように囁く言葉を記したもの。
いつもと同じ歌のはずなのに、最近、微妙に違う旋律が混じっている。
「……また、変わってる」
巻物を広げて、耳を澄ます。
精霊の歌声が、風に乗って聞こえてくる。
いつもより、少し高い音階。
少し、切迫した響き。
「何か……来る?」
私は空を見上げる。
「いったい、何が……」
秋の森の風が、いつもより強く吹いた。
落ち葉が渦を巻いて舞い上がり、
どこか遠くから、誰かの気配を感じた。
「……もしかして、誰か、来てる?」
私は胸に手を当てる。
心臓が、少し速く鳴っている。
現実世界の私と、異世界の巫女の私。
どっちも本当の私なのに、
どっちも嘘みたいで。
「……会いたいかも」
誰かに。
この不安を、分かってくれる誰かに。
私は深呼吸する。
「まずは、魔力を安定させないと」
今日も、森の精霊たちと一緒に儀式を行った。
この恥ずかしい姿のまま、誰も見ていないは室内で
魔力を安定させるための舞を
ひとしきり舞って均衡を祈る。
この舞は……あんまりひとに見られたくない。
胸やお尻を強調するように振って躍りながら、
とくに魔力のあふれそうになってるあたりの肌の上を
手のひらや指先で、撫でたり揉んだりして
……お腹だったり、唇だったり……胸だったり……
そこに溜まっきた魔力を、散らさなければならない。
知らない人が見たら
性的な……その、ええと……つまり
じ、<font size=-2>自慰行為</font>……に見えちゃうかもしれない
魔力を抑えるため、しかたないんだけど。
しかたないんだけど、やっぱり恥ずかしい。
でも。心のどこかで、
風の変化を感じてはいる。
何か、大きな縁が、近づいている気がする。
私は空を見上げた。
秋の森の風が、優しく頰を撫でた。
(第十三話・了)
次は第十四話 ダンジョンで深まるパーティメンバーとの仲。だけど、必ずしもいいことばかりでは…
リリーシャ(真っ赤)「ば、ばかじゃないの!? ただの買い物でしょ!?」




