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第十四話 探索はダンジョンだけとは限らない (+ラブコメもあるよ)


ダンジョン探索は、二日目に突入した。


昨日拾った阿弥陀アミ経のおかげで怪我だけでなく、

気力体力の回復もできるようになった。

唱えるだけで、軽い傷は即座に治る。


ラセリアが剣を振りながら言う。


「今日も後衛で頼むぞ」


俺は頷く。


「はい……頑張ります」


リリーシャが銀髪をさっと払って俺を睨んだ。


「またお経唱えるの?

邪魔にならないでよね」


俺は苦笑い。


「邪魔にならないよう……」


今日の敵は、スケルトン兵士だった。

骨だけになった戦士が、剣を振り回してくる。


ドルガンが盾で受け止めた。


「こいつら、硬いぜ!」


ミランダが狐火を飛ばしたが、

「燃えにくい相手ね……」


ヤミカは影から苦無を投げてるが、

ほとんどが骨に弾かれてしまった。


俺はアミ経を取り出し、小声で唱えた。


「南無阿弥陀仏……」


光がパーティ全員を包む。

疲れが、消えてゆく。


ラセリアが驚く。


「なんだ、この回復力……!」


俺は照れくさそうに言う。


「アミ経の力ですね……」


リリーシャが目を細める。


「……少しは使えるじゃない」


俺は内心でガッツポーズ。

……少し、認められた?


この回復力により、この日はいつもより

すこし奥まで探索できたらしく、収入が微増して

メンバーたちに喜ばれた。




ダンジョンから帰ると、街で装備の補給調達ターンとなった。


そこそこ高級そうな武具店でラセリアが革鎧を購入し、

俺にくれた。


「これ、着ろ。

後衛とはいえ、そのボロ服一枚じゃ死ぬからな」


「おおっ……ありがとうございます!」


新品の衣類をもらうなんて、いつ振りだろう。

前世でも子供のころくらいしか記憶にない。

しかも、デザインもなかなかカッコいい。

喜んで革鎧をいろんな角度から眺めていると、

リリーシャが横から声をかけてきた。


「そんなに嬉しいわけ?」


俺は慌てる。


「え? いえ……」


ミランダがくすくす笑う。

ラセリアも、「おっ、意外な反応」という顔をした。


「……何よ?」


「べつに?」


ラセリアがクスクス笑いながら、


「よし、ここでいったん解散。

それぞれ必要なものを買い込んでおいてくれ。

報告はいつもの酒場で」


ヤミカはいつのまにかいなくなっていた。


ドルガンは知り合いの職人を訪ねて盾の手入れ。


ミランダとラセリアはもう、一杯やりに行ってしまった。


残ったのは銀髪の魔法戦士リリーシャと、坊主の俺。


さっきの会話の意味を考えて戸惑っていた俺に、

リリーシャは「フン」と一瞥すると、

そのまま先に立ち去ってしまった。


俺は一人、装備の調達に行くことになる。

革鎧は微調整したほうがよさそうだし、

石斧よりマシな武具もほしい。


ちょっと高級店だったけれど、もういちど

あの武具店へ行ってみるか。

昨日今日でのダンジョン探索の報酬と、

寺から出たときにもらった謎の僧侶からのお布施で

ふところはそれなりにあったかい。


ちょっと道を間違えたが、あの武具店を見つける……と。


「なんでここに来るのよ?」

「なんでここにいるんだ?」


店内にリリーシャがいた。

ショートソードの鞘の修理をしに来たらしい。

俺も革鎧の調整を依頼する。


リリーシャがいろいろ細かい注文を確認するのと、

俺の採寸がだいたい同時に終わった。

できあがるのはどちらも明日だそうだ。

価格もお手ごろ、高級な雰囲気の割に良心的な店だ。


何も告げず、リリーシャが先に出て行った。

俺も次の買い物へ行くことにする。


ダンジョンで見つけた文書類のうち、

当面必要のないものを売りにいこう。


以前に見かけた古書店を探しだす……と。


「なんでここにいるのよ?」

「なんでここに来るんだ?」


俺の後ろからリリーシャが来ていた。

けっきょく、二人並ぶような形で古書店に入っていく。


リリーシャは土魔法関連の書物を探し始め、

俺はダンジョンで見つけた書物のうち

必要の薄いものを下取りに出した。


その中ににそこそこ貴重な他宗教の文献があって、

まあまあの収入になった。


リリーシャはというと、掘り出し物には

当たらなかったようだ。


古書店を出て行ったリリーシャの後姿を見送る。


仲間に落ち込まれているのは気が気じゃない。

けれど、俺が気にしても仕方ない、と思い直す。

それより次の買い物だ。


奴隷のころからのボロ作務衣を着っぱなしだ。

せっかくカッコいい革鎧をもらったんだから、

それと似合うような服を着ておきたい。


そう思って、露天市場を歩き古着屋を探す……と、


「なんでここに来るのよ?」

「なんでここにいるんだ?」


またまたリリーシャだった。

こうなりゃもう腐れ縁みたいなもの。


俺は、苦笑しながらサイズの合いそうな衣類を物色する。

リリーシャも、俺を無視して欲しいものを探し続けた。


カッコいいと言っても、アピールしたい相手もいない。

それほどこだわるわけじゃないから、

3~4分もあれば必要な衣服の購入も終わった。


さてリリーシャは、と見ると……。

短衣をいくつか見比べている。

刺繍が入っていて、どれもそれなりに値の張る品だ。

しばらく迷って、ようやく二つまで候補を絞ったようだ。


こういうところは女の子だなぁ。


余計なことかもしれないけど、俺は一言言ってしまった。


「こっちの方が似合うと思うな」

「えっ」

「緑と銀糸の刺繍が、リリーシャの雰囲気にすごく合う」

「えっ、えっ!?」


こんなに慌てたリリーシャを見たのは初めてかもしれない。


「じゃ…じゃあ、あんたのお奨めにしとこうかな…

いちおう男性の目だし」

「でも、もう片方もいいよね」

「……は?」

「ちょっと派手過ぎるけど、黄色地に赤の刺繍を、

リリーシャが着て町遊びとかしたら、かなり可愛い気がする」

「~~~~~っ!」


リリーシャがヒスを爆発させた。


「どっちがいいのよ! 男ならハッキリしなさいよ!」

「うん。じゃあ……ひとつはリリーシャが買うといい。

もうひとつは俺が買う」

「え…あんた、女装趣味?」

「そんなわけないだろ。リリーシャに贈るんだよ」

「ちょっ!!」


リリーシャがパニックしてる。

落ち着かせようと、俺は手のひらを見せた。


「他意はない。パーティは助け合うものだろ。

俺もラセリアに鎧をもらったし。

世の中、こうやって助け合いを循環させていくと、

どんどん平和になる……

『輪廻』っていう、フート教の教義だよ」


「そ……そう、なんだ。フート教の、教義。」


落ち着いたけど、なんだか残念そうにも?


ともあれ俺は先手を取って

1着分の支払いを済ませてしまった。



リリーシャは、折畳まれた二着の短衣を胸に抱いて小さく


「あ……ありがと」


と呟いた。


パーティの仲間の機嫌や欲求不満は、ときに命にかかわる。

だから、自分にできる協力ならしておきたい。


もちろん、リリーシャが可愛い女の子ってところも

動機の中に含まれることは否定しない。

坊主だって悟りを開いてるわけじゃないから、

生きるものすべてに平等たることは努力目標にすぎないのだ。

どうしたって、好意を起こさせる相手は優遇してしまう。


いずれにせよ、機嫌を直してくれてよかった。

いつも冷静なリリーシャらしくない、弾むような足取りが

ちょっと違和感だけど。

なんか、可愛いなコイツ、とも思ってしまった。


「ねえ。チーズ、好き?」


リリーシャのいきなりの問いかけに、

考え事してた俺は面食らう。


「え? うん。それが?」


「好きなの? さっきからずっと、

あそこのチーズの匂いに鼻を動かしてる」


露店でチーズを焼いている。

物思いしてても、無意識でにおいに惹かれていたらしい。


リリーシャはものも言わずに露天へと足を進め。

固パンのチーズ焼きをふたつ、手にして戻ってきた。

野菜や赤いソースが湯気を立てていて、

前世で言えばフランスパンのピザトーストに近い食べ物だ。


「ほら、肉抜きで、その分、豆類増量」


「お…お気遣いどうも」


「まあ、お礼ね。さっきのお礼」


戒律のことまでちゃんと考えてくれてる。

有難い女の子だな。


二人で歩きながら、チーズトーストを食べ終わったころ、、

今度はリリーシャが果物の露店に目を留める。


「……甘いもの、好き?」


「え?」


「さっき、果物の匂いに鼻を動かしてた」


俺はまた慌てる。


「い、いや、別に……まあ好きだけど」


リリーシャはうなずくと上機嫌で、

いろいろな果物を刺した串を買ってきて、1本を俺に押しつける。


挿絵(By みてみん)


「ほら……。別にあんたのためじゃないんだからね。お礼!」


俺は、リリーシャと並んで果物を口にしながら、

ふと気づいたことがあった。


これって……


「まるで……デートだな」


その言葉が、ポロッと口から漏れた次の瞬間、

驚いて振り向いたリリーシャと、目が合った。


リリーシャの顔が真っ赤に染まっている。


「ば、ばかじゃないの!?

ただの買い物でしょ!?」


俺も慌てて手を振る。


「ち、違う違う! 俺も今、

ちょっと思ったってだけで……!」


リリーシャは銀髪を指でくるくる巻きながら、

声を裏返して叫ぶ。


「思わないでよ!

……もう、知らない!」


そう叫ぶと、手で顔を隠して、

はじけるように全力で走り去っていってしまった




不妄語戒という戒律があって。

一般には「ウソをつくな」と解されている。

が、「よけいなこと言わない」という意味もある。


「不妄語戒、気をつけよう」


(第十四話・了)

次回第十五話 いよいよ秋の森の情報が!!?

俺「さっそく不妄語……破戒!」

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