2.私はクロミ
数日間過ごしている内に怪我の具合も良くなってきた。私のおでこにあった邪魔な絆創膏をようやく外すことができた。幸いにもおでこの傷跡が残ることはなかった。けれどもまだ腹部の包帯はまだ外せないのが億劫だったわ。そして女のことが段々とわかってきた。女の名は周防優美と言い、金蘭大学に通う2回生で看護学部に通っており、実家から離れてワンルームのマンションに一人暮らしをしているとのこと。それとコーヒーショップでアルバイトしていることね。
「じゃあ私は授業に行ってくるから、お留守番お願いね」
任せなさい、と言う意味でニャーと鳴いてみた。悲しいことに本は読めても人間の言葉は発することができないの。
「そう言えば……」
徐に優美がそう口にしながら私をじっと見つめていた。まさか私のご尊顔に何かついてるのかしら?
「名前決めてなかったね」
名前?この私に名前をつけてくれると言うの?っという感じで優美に目で問いかけてみる。
「だってずっと猫ちゃんって言うのもなんか寂しいじゃない。だから名前をつけてあげようかなって思ってさ」
けれども私にとって名前なんてどうでもいいことよ。私は私なんだし、それ以外の何者でもない。優美はただ私をそうね、美しく輝く黒毛に宝石のように青い瞳を持った気高き猫とでも思ってくれたらそれでいいわよ。そう私が思っていても優美には伝わるわけないわね。さっきから真剣に考えているんだもの。
「決めた!今日からあなたはクロミよ!」
私はキョトンとしたわ。だって響きが美しくないもの。可憐な私にクロミなんて珍妙な名前をつけるなんて優美のネーミングセンスはどうなっているかしら。もっと私に相応しい美しい名前はないの?少々不満気に目で訴えてやるわ。
「アレ?お気に召さなかったのかな?結構いいと思うんだけどなぁ。あ、ちなみにこの名前にしたのにはちゃんと理由があるんだよ?」
——聞かせてもらおうじゃない。
「黒く輝く艶やかな毛色に青く輝いて見る者を吸い寄せるような瞳を持った美しい猫を意味してクロミって名付けたんだよ。どう?ちゃんとした理由でしょ?まぁ瞳の所は上手く落とし込めなさそうだから省いたけどね(笑)」
——ふぅん、悪くないじゃない?私の美しき容姿に目をつけて名付けるなんて優美もわかっているじゃない?
「おお、凄く尻尾を振ってくれている。クロミを気に入ってくれたんだね」
しまった、私が人間ごときに本心からくる喜びの姿を見せてしまうとは何てはしたない!今まで寄ってきた人間共にはテキトーに受け流してきたのに……!さてはこの子人たらし、いや猫たらしね?隅には置けないわね。
「あ、もうこんな時間!じゃあ行ってくるね!」
風のように去っていったわね。私の中では嵐が舞っているのだけれど。とりあえず毛繕いしながら気でも紛らせておこうかしら。ところで気になってはいたのだけれど優美はいつも机に向かって何をしているのかしら。優美は決まった時間になると机に向かって黙々と何かを書いている。覗いてみたいけれど腹部の傷口が開きそうだったから下から眺めるしかないのが残念ね。今晩確かめてみようかしら。




