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悠久ラビリンス-とある現代社会のケーススタディ-  作者: 植葉厚史
三章

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静かな午後の均衡

少し沈黙した後アリサは


で、ウチの父親は『コミック雑誌なんかいらない』に出てくる豊田商事の金商法を見て


「なんでまともな商品をわざわざ現物用意しないで、詐欺にして押し付け回って、犯罪にするんだろうか?


金なんかこの時から今まで何倍に値上がりしてるんだ?

一番堅い金融商品だったんじゃないのか?


押し売りでも現物準備して押し売りしてたら過剰な親切で済んだんじゃないのかな?

どう思う?


とか私に尋ねてくるんですよ」


棚倉は


「英才教育施してるんじゃないの?」


と言うとアリサは


「そうかもしれないですね。

言われてみるとまともなものでも詐欺にしないと気が済まない人間の悲しい業を感じますね」


と言った。


アリサは父親の影響が強いらしく、その後も父親について話し続けた。


「父親はね、事業をおっきくするのを凄く嫌がるんですよ」


「なんで?」と棚倉が尋ねると


「資材やらなにやら準備して工事が止まったり、中止になるともの凄い損害になるらしいんですよ。下手をすれば潰れるぐらいに」


「ふーん」


「なんで、まぁ、等身大の経営が大事だ。ウチの仕事は世間のピンチはチャンスだけど世間のチャンスはピンチなんだってよくいいますね」 


「逆説の哲学だね」


「そう、もう少し意欲があってもいいとは思うんですけどね。面白くないだろうが大事な事なんだっていいますね」


その辺りまで話して部屋に入った。


棚倉は「何か飲む?」


と尋ねるとアリサはテーブルのイスに腰掛けると


「なんでも」


と答えるので冷蔵庫からジンジャエールを出し、コップに移し、テーブルに置いた。


アリサは冷蔵庫を勝手に開け、中を確認すると


「たいしたものないですね」というと


電話をかけピザを注文した。


そこから


「父親はたまに浮気している」


という話をし


「なんか帰ってくる時間が遅かったり、帰って来なかったり、首に赤いアザがあったり、ニヤついてたり、変な香水の匂いがしたりする時があるんですよ」


「うん」


「で、私なり、母親なりが気づくんですけど、あえて何も言わないんですね。


まぁ、もう母親も落ち着いているし、ウチでストレスため込んで、グチャグチャいうより、外で発散してくれる方がいいから」


「そうなの」


「不思議なんですけど、ウチはそういう感じなんです。代わりに私も何も言われないので楽なんです。


で、何も言わないと本人もバレてないというより、見逃して貰ってると気づくんでしょうね、しばらくしたら物凄く家族サービスが良くなるんです」


「それはいいね」


「色んな土産を買ってきたり、国内外問わず旅行に連れて行ってくれたりね。


たまにクルーズ船で半年とかいう旅行見つけて来て、


『俺も人に任せて休むから、お前らも休め』


って言ってくるんですが、母親も私もそんなに休む訳にいかないし、そんなに父に仕事を空けられても困るんで、毎度止めるんですけどね」


「そうなんだ」


そこまで話した頃にピザが届き、アリサは


「ここのチーズは凄く美味しいんですよ」


というと


棚倉に勧めると自分もそれを齧りながら


「まぁ、そうは言っても母親もたまに浮気しているかもしれない、それは父は気づいてないかもしれない」


と言った。


「そうなの?」と返すと


「両親の絆は愛情と共犯関係が混じった様な不思議な感じで、なんか結社みたいな連帯感があるんですよ、多分気づいても大丈夫だと思いますけどね」


といった。


「どっちも少し浮いてるんだね」


というとしばらくして話が途切れたので


棚倉は


「最近、友山はどうなの?」


と尋ねるとアリサは


「友山さん?」というと


「相変わらず、くだらないジョークばっかり言うんで、すっかり中年ですねと返したら舌打ちして


『ダメじゃない、君ら中高年にウケないと、日本の人口ピラミッドどんな構造かわかってるの?』


って言うんですよ」



棚倉は笑いながら


「で、なんて、返したの」


と聞くとアリサは少し困った顔をしながら


「正論過ぎて何も言えなくなりました。ま、そういう仕事ですからね。

コンビニエンスストアとかファミリーレストランじゃないですから。


勝手にいじって喜んでるんで放っておけばいいんで、まぁ楽と言えば楽ですけど、


ま、どっちにしろ、もう終わりですけどね。なんか不思議な感じです」


というと両手を高く伸ばし背伸びした。


「メンタル太いね」


「父親が父親なんで、そうなりますね」


そういうとアリサは「ふふん」と笑うと改めて視線を棚倉に向け


ピザの箱を横にどけ、満を持した様に裸足のままテーブルに登って棚倉を見下ろした。


「ま、だいたいウチにくる棚倉さんなり友山さんなりっていった世代の人ってたいていこういうの期待してますよね」


「ん?」


と棚倉がイスに座ったままアリサを見あげると


アリサはそのままゆっくりしゃがんで脚をM字に開いた。


棚倉の眼前の三十センチ程先に、露わに開いたマイクロミニのスカートの奥から、黒のレースのついたベージュのシルクのパンティが柔らかそうに膨らんでいた。


アリサはそのまま更に大きく脚を開き、腰を落とした。柔らかく引き締まった肢体が棚倉の眼前に大きく展開された。


確かにいきなりそんなことをするだけの事はあって、相応のプロポーションだった。


少し悩ましい匂いが棚倉の鼻をくすぐった様な気がした。


「ふふん」


アリサは棚倉をテーブルの上から見下ろすと、悦に入った様な顔をしながら、少しトロンとした悩ましげな視線を棚倉に向けると


「お客さんから昔こんな店があったってよく聞くんですけどね、今こんな事、店でやったら一発でアウトですからね。


随分来てもらって、私も助かってたから、お客さんの少ない時に何回かやってあげようかなと思いはしたんですけどね」


と言った。


棚倉は年齢からいって、ある程度落ち着いていたので、特に驚きはせず、褒めようとしたものの、適切な褒め方が思い浮かばなかった。


少し変かと思いつつ


「ありがとう、とても健康的だね」


と言った。


棚倉が余りに淡々としていたのでアリサは


「棚倉さんね、嬉しかったら嬉しかったでもうちょっと顔とか態度に表してもらえますかね、私一人でこんなことやってたら馬鹿みたいじゃないですか?」


と少し切なそうな顔になった。


棚倉はストレートにものも言い難かったので


「いや、そんなことないよ。ありがとう、とても素敵だと思うよ」


と答えた。


五分ほどそうやっていたものの


「足が痺れてきた」


と言ってテーブルから降りると露わにまくれ上がったスカートを直さないまま、棚倉の横のイスに座り脚を組み、テーブルに肘をついた。


そのまま相変わらずトロンとした目で棚倉を見つめると、棚倉の脚をつま先で軽く何度か蹴った。


棚倉はふと自分の学生時代に周りの同期の女子達が結構な歳上とつきあってるのを随分目の当たりにした事を思いだした。


今のアリサと自分位の年齢差だ。


棚倉は特に興味のなかった女子から、何かジロジロ値踏みするように見られた挙句


「棚倉君ね、男は三十からだよ」


など言われて微妙な気分になった事もあった。


特にその男達が金を持ってる様にも見えなくて、「この位の年齢の子は自分が歳上に通用すると言う事自体に価値を感じるのかな」と思っていたが、その辺りの心理は不明だった。


棚倉は


「キミぐらいの年齢だったら歳上をからかうのは楽しいのかな?」


と聞くとアリサはその質問には答えず、また笑うと、棚倉の脚を蹴りながら


「レディにいつまでこんな事させとくつもりですか?」


と言った。


棚倉はアリサがどういうつもりか分からなかったものの、どっちに転んでも無駄にしてもいい時間はあったので


「それは鈍感で申し訳なかった」


と言うとアリサの手を取り、リビングの脇の部屋に連れて行った。

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