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悠久ラビリンス-とある現代社会のケーススタディ-  作者: 植葉厚史
三章

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天空のアンダーグラウンド

その日アリサがリビングに行くと父親はニュースを見ていた。

ニュースは地域の教職員間の学校内での不適切な行為を報道していた。

父親はニュースを見ながら目を丸くして


「はぁ。校内のそこかしこで、これ、この近くだな。どこだ?」


と、言った。


母親は「随分とお盛んね。どこかしら?」


と笑うとアリサに聞いた。


「さぁ?」


というとアリサはそのまま出かけた。


* * *


その日いつもの様に棚倉が自宅マンション横の民家の脇を通った時にいつもと違う異変を感じた。


いつもは居間のある部屋付近を通ると圧を感じるのだが、今日その付近からは何も感じなかった。


逆に違和感を感じ、家の方を眺めると居間の裏手、木が乱雑に伐採され雑草の茂った空き地に面した部屋の方から電波が出ている様に感じた。


そちらの方に回ってみると室外機の上に見慣れぬジャマーの様なものが置かれていた。


ジャマーとは電波妨害用の機材でトランシーバーの様な機材に数本のアンテナが備え付けられたものだ。


棚倉は目の錯覚かと思い、目をこすったが、確かに室外機の上に置かれていた。


体感的に環状の電波が広がりながら無数に出ている様な感じで、頭が若干クラクラし、喉の辺りが圧迫される様な違和感があった。


通行人はたまに通るのだが、皆まったく平気でそのような違和感を感じてるのは自分だけの様だった。


この仕組みもよく分からないが、恐らくは領域侵入をした人間に向けて発されているものなのだろう。


家の周りを五分程ウロウロしたものの家人の気配はなかった。


何か他の電波と干渉するので干渉しにくい場所に置き直したのかもしれない。

特に見た目に異様なものでもないので人目についてもただの通信機器だと思うだろう。


棚倉は茂みから手をのばすとその発信器を掴み取り、スイッチをオフにするとカバンに入れた。


体感的に体にかかっていた圧が下がったような気がした。

棚倉が回収したものは世の中に無数に出回っている発信器の一つに過ぎない。

しかし現物を確認できたことは大きかった。


棚倉はマンションに入り、エレベーターに乗り、自分の部屋に帰った。


回収した発信器をよく見てみると、黒い長方形の筐体に8本のアンテナがあり、スイッチのオンオフと充電と電源のLEDがあり見た目は完全にジャマーだった。

メーカーや製造場所などの情報はなにもわからなかった。


確認後、机の上に置いておき、宏に一報を入れた。

しばらく後に宏は「写真を送ってくれ」とメッセージを送ってきたので写真を送った。

「見た目が特殊なものでもないんですね」と返信があった。


「そうみたいだね」


と棚倉は返信した。


その後しばらくしてアリサからも連絡が入った。


「色々と施設での実習が始まって、忙しくなってきたので一旦アルバイトを辞めます。なのでこれからは顔を合わせられません。


残念ですか?


随分と来てもらってたんで、一度挨拶にいきたいんですけど?」


という内容だった。


棚倉はメッセージを見ると少し苦笑したが


「随分とかしこまったもんだな」と思い。


「どうぞ」と返信すると


「棚倉さんの家って見晴らしいいんですよね」


と返信があった。


確かにウチから海がよく見えると以前何度か話をしていたし、実家の会社が工事に関わった所らしく、以前から興味があったようだ。


棚倉が住所を教えると


「あと少しで着きますね」


と返事があった。


棚倉はリビングでテレビを見ながら待っているとほどなくベルがなった。


開けるとアリサが立っていた。

テキストの入った布のトートバッグを肩から下げていたものの他は店にいるときとほぼ変わらない出で立ちだった。


棚倉は


「随分大胆な格好で学校に行くものだな」


と思ったが何も言わず。


「どうぞ」と言った。


アリサは「お邪魔します」と言って玄関から上がり、廊下を抜け広々したリビングに入るとソファの上にトートバッグを置いた。


そして


「まずいんですよ、今日帰り、高速でオービスが光ったんですけど、自分の車だったかもしれない」


と言った。


「えっ」と棚倉が聞き返すとアリサは


「道路が空いてると、ついつい飛ばし過ぎてしまうんですよ。『バニシングポイント』って映画知ってますか?コワルスキーみたいな気分になるんですよね」


と言った。


「バニシングポイント」は棚倉は昔、園田

と家で見たことがあった。


「あぁ、ジャガーXK-Eのカーアクションも出てくるね。そうなの危ないね」


というとアリサは


「ほんとシュート・スピード・キル・ライトですよ」


と言うとベランダに行き


「吸っても大丈夫ですよね?」


とタバコを吸い始めた。


棚倉は


「君たちの世代でもプライマルスクリームって知られてるの?ま、僕らの世代でも聴く範囲はかぎられてたけど」


と尋ねるとアリサは


「父親の影響で、子どもの頃からリビングでその映画をみたり、色んな音楽を聞いたりしましたよ」


と言った。


「なんか『ボーンスリッピー』は常識みたいに思ってるし、更に『これの前のキラートラックはだな』と言ってデリック・メイの『ストリングス・オブ・ライフ』をかけたと思ったら


『そもそもここから始まるんだ』と言ってドナ・サマーの『アイ・フィール・ラブ』をかけて『これが最初の四つ打ちだ。天地創造だ』とか延々レクチャーするんですよ、私に


「映画も『ロスト・イン・トランスレーション』なんか、何回見たか分からないぐらいで、そこから『これには元ネタがあるんだ』って言って『トーキョーポップ』とか、『まだある』と言って『コミック雑誌なんかいらない』まで見せてくれるんです」


「マニアックだね、お父さん何歳?」


「五十二歳です」


「そうか」と棚倉は言った。


「そこからまだ話が続いて『クラブ』と『ディスコ』は違うんだ。うんたらかんたらとなるんですよ。


本人はどっちも好きらしいんですけど、世間はなかなかそんな耳になってないらしくて、自分でイベントもやってたから、


そのへんは本当に注意しないとまずいらしくて、それはそれはものすごくうるさいんですよ。プロ並みの意識ですよ。仕事でもないのに」


「なんでもありなんだね」と棚倉が言うと


「DTMとかDJまでやってましたけどね、

そっちのセンスはあまりなかったみたいで」


「DJ?」


「DJは本来は裏方のBGM係なんですよ」


「ふーん」


「まぁ。プライベートで二十代から三十代までの話で、すっかり今は落ち着いて、たまに昔話でそう言う話をしますけど、結局オーガナイザーはショーガナイザーだと言いますね


俺が何かやるより何人ダンサーを集められるかってのが大事だったって言ってました。


とにかく全てダンサー次第で


話してると未だにスイッチが入るみたいで

こんなに神経をすり減らしてんのになんでこんなに軽くみられてたんだってぼやきますね。


名もない一般人なのに、隠遁するセレブの気持ちがよくわかるらしいですよ、日本だけじゃなくてハリウッドとかでも」


そう言うと、アリサはタバコを消すと海の方を一望した。

天気は良く、十五時過ぎの海は水平線がくっきり浮かび、行き交う船がよく見えた。


「確かにいい景色ですね、ウチの家は海には近いんですけどこんな感じに一望はできなくて」


と言った。


棚倉は


「考え事をするのに丁度いいよ」


と答えた。


アリサは「風も大分秋ですね」といった。

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