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悠久ラビリンス-とある現代社会のケーススタディ-  作者: 植葉厚史
三章

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シークレット・リサーチ

二人は話が一段落すると、別の話題に移った。


宏は棚倉に


「広告の反響はあって、ウェブサイトへのアクセスは増えたが、問い合わせは少ないのでまた別の案を頼むかもしれません」


と言った。


棚倉は


「またいつでも対応するけど、どんな感じになりそう?」


と聞いた。


宏は


「恐らく、客がチラシからウェブを見て電話し、会社の人間が質問に答えるような内容になると思いますね。

文字数も前と同じくらいです」


と答えた。それから


「そういえば会社の施設のバスルームには行きましたか?」


と聞くと


「行った。家にジェットバスがあったらいいなと思ったよ。別府の湯の花もいいね。下手な天然温泉よりリラックスできるよ」


と棚倉は答えた。


そこから雑談になり、棚倉は重たい話ばっかり続いていたので


「カウンターのバーに飲みに行って、横に座った三十過ぎの女が少しクセはあるけれど、まぁまぁのヤツで、電波の話をしても面白がって聞くからいくらでも話し続けていたら、


しまいに何度も脚を組み直し始めて、なんでかなと思っていたら


『人生色んなリスクに備えないといけませんね』


と保険の加入を案内してきたよ」


と言うと宏は


「棚倉さんはなんか変な雰囲気ありますもんね。まぁマルチの勧誘じゃなくて良かったですね」


と言うと棚倉は


「多分サービス精神でやってたんだと思うけど、なんか見透かされた様に惨めな気分になってその後すぐに店を出たよ。

保険ももう入ってるしね」


というと思い出したように


「そういえばアリサの家は建設会社だって、あいつは実はお嬢だったらしい」


と言った。


「そんなに大きくはないけど、まぁ、かっちりした所だな。ウチのマンションも一部工事したらしい」


宏は「へぇ」といった感じで


「あのガールズバーはよく行くんですか?」


と尋ねると


自分も友山もアリサにはろくな事を言わないので、坂で遭遇するたび、自分の年齢の倍近い二人に対して、高校のアホな後輩を相手にするみたいにいくらでも声かけてくる。


なので最近どっちかが毎週一回は行く事になる


といったような事を答えた。


棚倉にしろ、友山にしろアリサはどこか高校の同級生を思い出させるところがあるらしく、それがタイムスリップして出てきたようなタイムレスな錯覚を覚えるらしかった。


「最近はトランプじゃなくてウノをする。そっちは普通だったよ、弱くも強くもないね」


「そうなんですか」


と宏は話を変え


「マンションの下の家はその後どうなんですか?」


と尋ねると棚倉は


「その後は何も、ただいつでも一定に何か出ている感じなので、固定された何らかの電波の発信機はあると思う」


と答えた。


「家の人には会うんですか?」


「いや、自分はほぼ顔を合わせない」


結局論より証拠なのだが、なかなかそこに踏み込むのは難しいようだった。


* * *


アリサの家は須磨の海に程近く、白い家のガレージにはジャガーが三台あり、シェパードとチワワを飼っていて、チワワは室内で飼われていた。


ジャガーは現行のセダンとフォード時代のモスグリーンのセダンのXJとクーペのXKRだった。


父親はフォード時代のジャガーにこだわりがあり、今も定期的にメンテナンスしてはずっと置いていた。


アリサは自分でクラシックなXKRを運転して通学していた。


ある時、アリサは疑問に思って父親に尋ねた


「なんで、ウチの車は三台全部ジャガーなの?」


その時父親は居間でケーブルテレビの韓流ドラマを観ていたのだがこう答えた。


「他と違う個性的な外車に乗りたいんだけれど、マルチと思われるのが嫌なんだ、そしたらジャガー以外の選択肢はないんだよ」


アリサがテレビを見るとどこかの財閥の令嬢が威風堂々モスグリーンのジャガーXJから降りてくるシーンが映っていた。


ゲンズブール似の五十過ぎ程の父親はニヤつきながら画面から目を反らしアリサを見ると


「わかるか?当の本人達はね、ジャガーに乗るとカミングアウトになって締まらないと思うらしいんだよ」


と答えた。


アリサは


「自意識過剰なの?その人達は?」


と言って不思議に思い


「そんなにマルチを警戒しなきゃダメなのウチの仕事は?」


と尋ねると父親は


「いや、全く関係ない」


と答えると相変わらずニヤニヤしていた。


アリサの父親は昔、足跡のつくSNSの時代にマルチビジネス絡みらしい半ボットのアカウントから連日大量の足跡をつけられた時期があった。


最初なんなのかわからず、何かを売ろうとしている様なのだが、何を売ろうとしているのかよくわからない。


しかし、セールストークだけは展開されていて、気になるので見ていた所、持ってる世界観が他と全然違うので、どの様なロジックを踏まえているのか、興味を持って何人かに普通のサラリーマンを装って接触しようとしたことがあった。


アリサの父親は大学で社会学を専攻していた。勿論、それが正しい判断に繋がったり、必ずしも正確に未来を予想できたりする訳ではない。

しかし、だいたいの事をほぼその枠内に位置づけることくらいはできた。


しかし、彼らの持ってる世界観やロジックはその中に即座に位置づけるのはとても難しかった。

なのでそれが何なのか知りたかったのだ。


しかし、相手もカモにならなそうなクセのある奴が寄ってくるものなので警戒し、会うまでが大変だった。


一計を講じてビジネスパートナーを探している体でなんとか会うことができた。


チェーンのコーヒーショップの様な所で会うのだが、特に何か収穫があるわけでもなく、向こうも特に何か売ってくるわけでもなく、シュールな時が流れるだけだった。


だが、別れた後、五分程していつも胸の辺りに強い開放感を感じた。


デジャヴを伴い、自分の胸の辺りがビルの吹き抜けになった様な感覚になり、そこを強い風が吹き抜けて行く様な開放感だ。


それは自分の感情の変化からもたらされたものではなく、どこかから操作され、送り込まれてきているものの様に感じられた。


そして、彼らが何者でどういうビジネスモデルでどういう哲学に基づいているかも後々わかってくる。


それは全く自分で考えてわかったものではなく、どこかから送り込まれた思考やイメージが結びつくようにある時突然に閃くのだ。


そこから気づいたのは、ある種の電波装置が存在して、それによって人の感情や思考への干渉は可能になっているのだということだった。


ただ、ある種かなりナーバスな領域(テリトリー)に侵入した様な気になり、生理的にもそこはあまり自分の近寄る所でないような気がしたのでリサーチはその辺りで終了した。


単に胡散臭いとか詐欺めいている、あるいは表とか裏とかいうよりも、境界線を越えてしまう様な未知の違和感があった。


そしてその後はしばらく、河童の夢を見るようになった。


夢の中で河童は陽のある時間帯に伊勢周辺の山やら川やら海をくまなく探索し、夜が更けると伊勢神宮に忍び込み


「三種の神器が今日まで残ってるのは羨ましい」


というと八咫鏡(やたのかがみ)の裏面に刻まれた古代文字をしげしげ眺めては


「ヘブライ語ではないな、この文字は」


というと落胆したようにその場を後にしていった。


またある時は青森のキリストの墓とされる場所に行き、戸来村(へらいむら)の塚をしげしげ眺めては、


「渡来人が居たわけでもなく、竹内文書は結局偽書か」


とまた落胆し、


諏訪に行くと、山麓でキュウリを齧りながら、諏訪大社を眺め


「結局一番確かなのはここか」


と呟き


「しかし、何かあっただろうけどエビデンスが弱すぎる」


というとまた大気中に蒸発していった。


そのような妙な夢の後に目を覚ますと部屋のタンスの影であるとか、机の下といった所からおどろおどろしい顔で自分を見てくる河童の黒い影を見つけて驚くのだが、


ホログラムの様に不自然で目をこすると見えなくなる。何らか電気的な幻影を見せられているようだった。


その後、河童の夢を見なくなると同時にこれもみなくなった。

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