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悠久ラビリンス-とある現代社会のケーススタディ-  作者: 植葉厚史
二章

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31/42

-I Can't Get No- A Day In The Life(Nuxx)

翌朝起きるとマリーは宏に


「これを聞いてみてください」


とイヤフォンを渡した。

宏がイヤフォンをつけ耳を澄ませると何やら室内のものらしき、いかがわしい音声が聞こえてきた。


宏がイヤフォンを外しマリーに


「何これ?」


と尋ねると自分ととある名の知れた人物との録音だと答えた。


マリーは


「こういうのは本人との交渉に使えますかね?それともメディアか何かに売った方がいいんですかね?」


と尋ねてくるので、宏は


「本人との交渉って?」と尋ねると


「SNSに上げられたくなかったらいくらいくら払えっていう感じです。

私の代理人として宏さんやってくれますかね?」


というので怪訝に思い


「何かされたの?」


と尋ねるとマリーは


「いえ特に、約束したこと以上には何もされてません」


と答えた。


「じゃあ、そんなことしたら脅迫じゃない」


「そうですかね?」


「メディアに流すとかしたら、キミも変に注目されて、なんでそうなったかあれこれ詮索されるんじゃないの?」


「うーん...」


「ま、特になにもないのにそんな事やらない方がいいんじゃないの?」


「そうですかね。けど、このままだと使い道がないんですよね」


「それよりなんでそんなもの録音してるの?」


「万が一の保険です」


「そう?他にもあるの?」


宏が聞くと何人か世間に名の知れた人物の名前を上げてそれぞれ同じような音声を聞かせてくれた。


中にはこれが流出したら、世間が大混乱するような人物のものや、宏の仕事に直接関係し、その人間がコケて会社に影響してきたら自分が事後処理に走らされそうな人物の録音もあった。


海外客のものに至っては下手すれば世界に波及して、注意を反らす為に中東で戦争が起きそうなものもあり、


雑談として普通に交わしている会話にも各方面の色んな機密情報が録音されていた。


宏は平凡な人間だったがそれでも自分の周りに対する波及は大きそうだった。

段々困惑してきて、しまいに


「こんなもの流出させたらダメだ。

お願いだから消してくれ」


とマリーに懇願し始めた。

マリーは


「それはできません。保険です。ここで消してもバックアップがあります」


と言うのでどうしようもなくなってきて、

念のため自分の録音がないか確認したところそれはなかった。


それから写真も沢山あって、有名無名を問わず、確かにいい客を掴んでいた。


関西ローカルのマリーになぜこの様な人達と接点があるのか謎だったが、当事者からしたらハメを外すのにいい場所なのかも知れない。

マリーは色んな意味でディープスロートだった。


ただその中に、客がマリーに何故かケネディの暗殺の様子を話している会話があり、宏は内容に興味を持ち


「これ誰?」


と確認したら、一般人で特に機密に関わる者でもないようだったのでその部分だけコピーして自分の端末に転送した。


マリーはそれを見ながら


「他にも色々あったでしょ?フィクサーやりますか?」


とか聞いてくるので


「いや、いい、命が一番大事だ。キミもだよ」


と答えた。


マリーは


「大袈裟ですねぇ」


と言うと窓の外を見て、少し黙ってから何をやったら儲かるかと色々喋り始めた。


最初の発想はいいのだけれども、基本的にカモを探してはあの手この手でその気にさせ、


海外から安く仕入れた商品を仕入れ値の十倍から百倍ぐらいの値段で段ボールごと押し付けるようなアイデアばっかりだった。


「もう少しまともなのないの?」


と宏が尋ねると


「宏さんね、こういう話に近寄って来るのは頭もないのに理想だけ大きい人間とか

もしくは事業に失敗して一発逆転を狙ってるか、借金まみれで一気に片付けたいと思ってる後のない人達ばっかりなんですよ。


そんな人間にはこういうのを棚からぼたもちみたいな話にして押し付けるのが一番なんです。


話が胡散臭ければ胡散臭いほど、商品が高額であればあるほど裏ワザ見つけたみたいに喜ぶんですよ、ああいう人達は」


といやに力っぽく語りはじめた。


宏は樋口から聞いたエージェント園田の話を思い出した。


しかし、しばらくすると急にトーンが変わり痴話に戻ると


「あの客の触り方は、どこをどういう風にしてきてどう、けど、もう少しこうして欲しかったけれど、あそこをああいう風にしたのは良かった」


とか相手の色んな癖とそれに対して自分の体がどう反応をしていったかの過程を克明に業務報告の様に淡々と喋り続け、挙句のはて


「それと比べたら宏さんは本当に淡白ですね。そんなのでいいんですか?」


というとリビングのソファベッドから起き出し、何も着けないままキッチンに立ち

スクランブルエッグを焼き、ソーセージを炒め、パンをトーストに入れ出来上がるとテーブルに並べて炭酸水を置いた。


宏はソファベッドに寝転んだまま、さっきのケネディの会話をもう一度聞いていたのだが、マリーを見ていて段々悩ましくなってきたので


「何か着たら」


というと、マリーは宏を振り返り


「何を言ってるんですか?興醒めですね。

まるでジャック・ルビーの酒場みたいに素敵じゃないですか?」


というので、


「ショーケースは終わったよ」


というと


「それは仕方ありません」


と下着だけ身につけテーブルのイスに座った。


宏もイスに座ったが、マリーの唾液やら何やらでベタベタだった顔が乾いてつっぱるので洗面所に洗いに行った。


他にも体中あちこち乾いてつっぱる場所があるのに気づきシャワーを浴びた。


戻るとマリーはレディースコミックを読みながら待っていたが、宏が座るとそれをソファベッドの方に投げた。


食事を終え、宏は芝居がかった口調で


「ボニー、オズワルドの野郎が逃げだしやがった」


というとマリーは


「クライドそれは大変ね、急いで蜂の巣にしないと」


と言った。宏は


「その前に銀行を襲わないと」


と言うと急に眠たくなってきたのでイスに座ったまま寝た。


* * *


宏が目を覚ますとマリーはフローリングの床の上で「コブラのポーズ」や「鋤のポーズ」などヨガの基本的なエクササイズを行っていた。


宏が起きた事に気づくと直って


「これくらいはできるんですけどね。奈々子はなんでいきなりあそこまでできるんですかね?」


と尋ねてきた。


宏は


「さぁ?黒酢でも飲んでるんじゃない?」


というとマリーは


「黒酢?」


というと、立ち上がり、背伸びをするとスマートフォンからMONDO GROSSOの「惑星タントラ」を流すとユラユラ踊り始めた。


思いの他、体のバネが強くて、首の動きに特徴があったので宏は


「なんかやってたの?」


と尋ねると


「小学生の時にバレエを一年ほどやっていて母親も一時インド舞踊をやってました」


というので


「ふーん、クラブとか行くの?と尋ねると」


「クラブ?あぁ、短大の頃はよく呼ばれて行ってましたよ」


と答えた。


「なんかテーブルに座って、たまにフロアでユラユラしといてくれと頼まれました」


というので宏は


「VIPだったんだね」というと


「えーと、どんなのかかってたかな」


というとAlexandra Stanの「Cliché (Hush Hush)」をかけ始めた。


宏が「いいね、懐かしい、今22年だから16年頃?」というと。


マリーは


「そうですね。ハウス寄りのEDMかな?割とオーガニックですね」


と言うとまたMONDO GROSSOをランダムで流し始めると、再びユラユラ踊り始めた。


そんな調子で夕方近くなり、眠たくなったようでソファベッドに行くと寝始めた。


宏もしばらくテレビをみていたが気だるくなってきてまたイスに座ったまま眠った。


夜になったがマリーが起きる気配がないので冷蔵庫を漁って適当にナシゴレンを作った。


マリーは目を覚ますと、水を飲み、ナシゴレンに手をつけると


「呼ばれるままにホストクラブに行ったらどうなりそうですかね」


と聞くので宏は


「最初は多分、男まで連れてきて立ち回った女王扱いだろうね、とにかくムチャクチャにチヤホヤされると思うよ」


「ええ」


「で、その間、多分飲みやすいカクテルかなんかをどんどん勧められるだろうね、最初一時間くらい」


「そうですかね?」


「うん、でジワジワ酔わして、とにかく褒めに褒め千切って、なんだかよくわかんなくなってきたところで、女王の戴冠式をやろうとかなんとか、またムチャクチャに煽りまくって高いの注文させるよ」


「戴冠式?」


「うん、君の好きそうな設定じゃない?王冠まで準備してるよ」


「うーん」


「ま、そんな調子で一撃で回収されるか、もう少し緩やかに何回かに分けて回収されるか、どっちかじゃない?


向こうも数百万やられてるから、それくらいしてくるんじゃない?」


「それは困りますねぇ」


「ま、そこの店には行かない事だよ」


「うーん」


しばらくマリーは考えこんでいたが、ふと宏に向き直ると


「今日も帰れません」といいだした。


宏のおかげで回収できたと思い込んでいる数百万をあくまで体と極秘情報で埋め合わせる気らしかった。


宏は


「どうぞ、お気の済むまで」


と答えた。

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