ギャルゲ
「お邪魔しま〜す」
「上がって上がって」
金曜日の放課後。俺は真の家に来ていた。
真は高校に上ったのをきっかけに1人暮らしを始めたらしく、招かれたマンションの一室はいかにもと言う感じだった。
どうやら不定期で妹が遊びにくるのだそうで、言われてみれば確かにそう言った痕跡も見受けられた。
「妹とは仲良い感じっぽいな」
「今中2だから、もう少ししたら反抗期なのかもしれないけどね」
兄弟姉妹なんていうのは、ある一定の歳までなんの問題もなく仲が良ければ、そこから拗れることはまず無いと思う。その一定の歳までの間に反抗期やらなにやらを挟むから問題なのであって。
それはそれとして、今日は泊まりがけでゲームの攻略をしていくことになっている。
普段は真も自炊をしているらしいが、今日はゆっくりそんなことをしている暇はないと、帰りに夜食や菓子の類を買い込んだ。
そのあと一度家に帰り、着替え等の準備を済ませて家をこっそりと抜け出してきた。姉さんに見つかったらまた面倒だから。
「あ、荷物はそこら辺置いておいて」
必要なものを詰め込んだ鞄を床に下ろすと、早速今日のメインテーマに入ることに。
「コレだ…!」
「コレが……!」
AIを用いたアニメ作品が舞台の恋愛ゲーム。
「メインストーリーは本編をなぞったものだけど、プレイヤーの行動次第で攻略は自由自在。さらには本編で描き切れなかったにも関わらず人気度の高いサブキャラの攻略なんかも可能という大ボリューム…!この現代でこのシステムは画期的というほかないよ!」
「誰向けかわからないけど説明ありがとう。で?まずは本編から?」
「まぁ、僕らは一度見てるけど…ゲームに慣れるって意味でも本編からやるべきかな」
そう言ってゲームを起動する真。少しのオープニング映像が流れると、早速ゲームが始まった。
「名前を入力して下さいだって。どうする?」
「え?真でいいんじゃないの?」
「自分の名前使うのはちょっと…」
「じゃあ傑の名前でも使っとく?いや、でもなぁ……」
数分考えた末、結局俺の名前でやることになった。
「性別を選んでくださいだって」
「え、性別選べるんだこのゲーム」
ギャルゲーなのに。いやまぁ、今の時代ならそれでもいいのかもしれないけど。
「男にしておこうか。颯だし」
「そだね」
一瞬文化祭のことを思い出しかけ、かぶりを振った。今はそういう暗いことは思い出さないようにしよう。折角遊んでいるのだから。
「お、自己紹介パート入った。この辺はなんとなくノベルゲーで共通した感じだね」
「ここら辺はまだ操作する部分はないのか。いろいろ自由に行動するのが楽しみなんだけど」
「それはまだ先っぽいね………あ、友人キャラかな?」
友人キャラ。攻略対象達からの好感度やイベントの進行条件など、ゲームに必要な情報をくれる奴。こんなことを言うのもなんだが…高校でできただけの友人相手になんでそんな尽くせるのか理解できない。
セコセコと情報を集め、どんなに尽くしても好感度が上がるわけでもない相手にその情報を無償で渡す。なるほど、金貰ってもそんな仕事はしたくない。
「名前は…西武 太郎だって」
友人キャラ兼セーブポイントだった。何故この男は他人の人生の進行状況を記録するだけの青春を送っているのだろうか。
無為が過ぎる。
人それぞれ事情はあるのだろうが、仮に昔命を救われていたとしてもここまでしないと思う。
「本編だから取り敢えずこのキャラのルートに入れる様に動かないとダメだね」
真が画面に表示されたキャラのリストを指差して言う。西武君が提示してきた攻略可能キャラは現状全8キャラ。
コイツ、ここにきて主人公の人生に干渉し始めたぞ。コイツはアニメの方では名前のなかったモブだったはず。しかし裏では主人公の人生のレールを敷いてその動きを思うがままに支配していた存在だったと言うのか。情報を集めたりその状況を記録していたのもその計画のためだとでも言うのか…?
いや、考えすぎか。
「考えすぎですよ」
「いたのかエルゼ」
いつの間にか俺が買ってきた菓子勝手に開けてるし。画面に目を戻すと、ゲーム内では学校生活が始まっている。しばらく眺めていると、赤髪の女の子が話しかけてきた。
「なんか知らない子が話しかけてきたんだけど」
「ここから自由行動か?」
「そうみたいだね。ただこの子は話しかけてきただけで用が何かが分からないから…どう返そうか」
「気安く話しかけるな…っと。コレでよし」
真が考えている間に入力を済ませる。
「え?よくないよ!何してるの!」
「用もないのに初対面の相手にこんな馴れ馴れしく話しかけてくるなんて絶対裏で半グレとかと繋がって悪いことしてるって、傑が言ってたから」
「傑の価値観を参考にするのもどうかと思うけど…あ、泣いちゃったよこの子」
「泣けばどうにかなると思ってるのか。女だな」
「追い打ちをかけにいかないでよ!攻略対象全員からの好感度下がってるから!」
「コイツ…仲間を作って俺を悪者にするつもりか…!この女許さねぇ!」
「えぇ…ゲームのキャラ相手にキレないでよ」
「颯くんって結婚できなさそうですねぇ」
画面上で繰り広げられる諍いを眺めながらエルゼが呟く。
「うるせぇクソハム!」
「攻略対象からの好感度−100ってどういうこと……初日だよね!?」
「いや、だってこのモブが初っ端から俺の邪魔を…!」
「この子はただ話しかけてきただけだよ!?」
「この女はきっと裏で……はっ!西武 太郎が嗾けてきた手駒に違いない…!」
「うん。このままじゃ進められないから僕がやっておくね」
真が入力を代わりに行うと、先ほどとは打って変わってゲームが順調に進められていく。AI相手とは言えこちらが投げかける言葉に対しての反応は現実の人間さながらのモノである。恐らくはこれも学習したパターンの一部なのだろうが、まるでその子に感情があるかのように思える。
「誰に話しかけに行くか…これはメインヒロイン一択かな」
「ここでも一応自由行動できるんだな」
「だね。けど…」
そう言って自販機でジュースを買うよう入力していく真。すると、画面上にその行動の結果を表示するテキストが表示され、そこから何事もなかったかのように先程の行動選択画面まで戻ってきた。
「流石にストーリー無茶苦茶にされるわけにもいかないんだろうね。限られた自由行動ってわけだ」
「ここから家帰れたりしないの?」
「……一応やってみる?」
家に帰るよう入力し、主人公に行動させる。
「おいコイツまだ授業が終わってないとか言い出したぞ」
「だろうね。ここで帰れたらストーリー進まないし」
そこから意地になって何度かストーリーを破壊できないか試してみたが、結局どうにもならなかったので先に進むことに。
「サキルートが一番難易度低いって書いてあったから苦戦はしないと思ってたんだけど…」
長島 サキ。メインヒロインの名前だ。この作品は魔法が日常に侵食した世界で送る少し変わった日常とバトル、そして恋愛をそれぞれ描いた作品だ。こう考えると俺の日常もだいたいこんな感じか……最後のはないけど。
「好感度低いな」
「誰かが下げたからね」
サキに早速話しかけに行ったのだが、こちらへ向ける目が冷たい。言葉の節々に棘が感じられる。
「コイツこっちが下手に出てりゃ滅茶苦茶言うじゃん」
「嫌ってるというより…果てしなく見下げてる感じがするね」
「これはこれで喜ぶ奴がいそうだけどな…なんとかしないと」
これはこれで物好きが好みそうだけど、俺にそういう趣味は無い。メンタルそんなに強くないから。
聞くに堪えない罵詈雑言を所々織り交ぜてプレイヤーへの人格攻撃を繰り返してくる。それに何より、完全に画面越しにいる俺らが見えてるよなコイツ。
「入力するプレイヤーの言葉の使い方とかで複数人いるのを把握してるみたい」
「怖いな。ホラーゲームに繋げられそう」
「取り敢えず趣味の話から入ろうか」
お見合いのような会話の入りだけど、このメインヒロインの趣味は既に分かっているのだ。そこから接点を持つというのはまぁいいのかもしれない。
ラブコメってそういうの多いし。
「でも好感度低すぎてダメそうだね……」
「ストーカー呼ばわりかこの女…!貸して」
「え、ちょっと何して…」
「黙れメスブタ!ぶち殺すぞ!」
怒りに任せて罵倒を入力していく。もうこれ以上下がりようもないし、こうなったら好き放題サンドバックにしてくれるわ。
「颯くん何してるんですか!?」
「あれ…?好感度上がった……?」
何故か好感度が上がった。驚いたように声を上げる真と俺。目をぱちくりさせて何の間違いかと画面を食い入るように見ている。
「まさかコイツ……罵倒したら好感度上がっていくのか?」
ここぞとばかりに畳みかけていく。するとどうだろう、地の底まで落ちていた好感度が少しずつ回復していくではないか。このヒロイン攻略するの嫌になってきたな。
「でもただ罵倒すればいいわけじゃなさそうっていうか…」
「コイツが求めてるのはただの侮辱とかじゃなくて言葉責めっぽいな」
このヒロインにこんな設定あったっけか。こういったゲームだからこそできる裏設定の盛り込みなのか、こういう状況を見越した救済措置なのか。
「すごいよ!言葉責めしてただけでもう結婚まで秒読みだよ…!」
「初日なのに…これでいいのか…?」
メインヒロインルートはクリアできた。どこか釈然としないところがあるが、何はともあれ何とかなったのだから良しとしよう。
「さて、次行くか!」




