真の敵
「次はサブヒロインのルートだけど…こっちはホントに手探りで進めていかないとダメみたいだね」
「色々実験しながら進めるか」
「そうだね。さっきの画面まで戻ってきたけど…どうする?」
「屋上から飛び降りる」
「なんで!?」
「いや、死んだらゲームオーバーになったりするのかなって」
「颯くんは全てに反発しないと気が済まないですからねぇ」
入力を済ませると、普通に屋上に向かって移動し始めた。学校から帰ろうとしたときはその場から動くこともなく否定した割に、屋上には素直に行くんだな。
「あれ…?イベントだね」
屋上に入ると、読み込みの後、イベントが開始された。
どうやらサブヒロインの一人、安藤 ユナが他の男子生徒から告白を受けようという場面に出くわしたらしい。
しかし、そこにいたのは呼び出しの手紙を受け取ったユナだけで、モブ君はまだ来ていなかった。そのせいでユナは俺が呼び出しの主だと勘違いしてしまったらしく、何やら会話が始まった。
「怪我の功名……じゃないけど、これはこれでうまくいったね」
「よし、飛び降りよう」
「待って待って、進めないの?」
「俺は死ぬためにここに来たんだ。誰にも俺は止められない」
「目の前で人が死ぬとかトラウマ物ですよ、颯くん」
屋上のフェンスをよじ登るよう命令すると、何の抵抗もなしに登っていく。すると、慌てたユナがそれを止めに入る。
「お、ユナが止めに入ったね。これ正しくルートが進んでるよ」
「振り切れ!突き進め!飛び降りろ!死ねや!」
「えぇ…せめてセーブだけしておこうよ…」
一時中断しセーブをしようとすると、主人公颯の決死の自殺現場に西武 太郎がどこからともなく現れる。彼はセーブだけ取るとアディオス!と再びどこかへ消え去っていく。
「コイツ友人の自殺現場記録してそのまま帰りやがった…!やっぱクズだコイツ!」
「えぇ……」
「言ってること無茶苦茶ですよ颯くん……」
言ってても仕方がないので、そのまま屋上から飛び降りる。
「あっ」
普通に死んだ。そして先程の行動選択の画面に戻ってきた。
「さて、次は何をしようか。じゃねぇだろ」
「自販機に行った時と同じように戻ってきたね」
「この世界ではジュース買うのと自殺するのが同列に並べられてるみたいですねぇ」
とんだディストピアじゃねぇか。人々は自販機やコンビニで飲み物を買うような感覚でこの世を去っているのだろう。あんなホンワカした緩い世界観のアニメが裏ではこうなっていたなんて知らなかった。
「セーブからやり直そうか」
「止められた先のルートも見てみたいしな」
「見てみたいというか、そっちが本来行くべき道なんだけどね…」
先程の場面に戻るためゲームをロードする。
「ここで飛ぶのをやめて…会話が進んだね…」
「これが正規ルートっていうのもなかなか難易度高いな」
「死を覚悟しないと先には進めない…戦士みたいですねぇ」
狂戦士だな。
そこからユナルートに入ることになったのだが、どうやらこの女、弱り切った人間を世話するのが好きらしく、関係を深めていくうちに紛う事なきメンヘラに豹変し、なんとも言えない終わりを迎えた。
一応ハッピーエンドに分類される終わり方だとは思うのだが、途中までの関係性が故にどうも歪な終わりに思えたのだ。
「なんか…人間って怖いな」
「AIだけどね」
「これもまた愛の形なんですかねぇ……人間というのは不思議なものです」
△▼△▼△▼△▼△
そこから夜通し攻略対象との会話を試行錯誤しながらゲームを進めていった。
朝が来る前には8人全員を攻略し終えていたのだが、スチルやその他イベント回収などが足りていないことに気が付く。
「隠しルート的なモノがあるのか?」
「そういえばそんなことも書いてあったと思うんだけど…見た限りもうネームドキャラはいなさそうなんだよね」
「たしかに…あぁ、いや、1人いるな」
「………まさか、西武 太郎の事…?」
「コイツがヒロイン枠だとは思ってないけど…コイツは怪しい。事あるごとに俺の前に現れてはストーリーの主導権を握ってたし。だから多分コイツが黒幕だ。確証はないけど顔もそんな感じだし絶対コイツに決まってる」
「そういう便利枠のキャラなんじゃないかな」
「まぁ、探ってみればボロを出すに違いないでしょ」
西武 太郎はセーブをしようとするとどこからともなく颯爽と現れるのだが、一応教室に行けば話しかけることも可能だ。ということで早速奴に会いに行き、粗探しを始めた。
「コイツが何か握ってたとして…なんだろうな」
「この作品って一応ラスボスがいたはずだしそれ繋がりの可能性はあるかもね」
「じゃあラスボスか聞いてみるか」
ラスボスなのかどうか聞いてみるが、何のことかと聞き返される。普通に考えて、もし仮にそうだったとしても素直にはいそうですなんて言わないか。
真もどう進めればいいか悩んでいる。俺も詰まってしまったので、エルゼと共に菓子をつまみながら考える。
「うま……うま……」
コイツ、なんか静かだなと思ってたら1人でずっと菓子食ってやがったのか。
そんなこんなで攻略の手が止まる事数分、真が何か思いついたように操作し始めた。
「なんかできそう?」
手を拭くと、四つん這いで画面の方へと近づく。
「いや、西武 太郎自体は違うんじゃないかな。でも最初に話しかけてきた子、あの子がそうなんじゃないかって思って」
推理を語る真。ずっと起きているからテンションがおかしいのだろう、探偵のようなポーズを決めている。
「なるほど。と言う事はあの好感度爆下げイベントに戻らないと」
「そういうイベントじゃなかったと思うけど…やり直さないとダメそうだね」
ということでゲームをやり直し、最初の場面に戻ってきた。
「ここでどうすればいいのかって感じだけど…」
「さっき途中で罵倒するのやめたけどさ、あのまま喧嘩してたらどうなってたんだろうな」
「あ……確かに、試してみようか」
そこからは思いつく限りの暴言を赤髪の女に投げかけ続けた。攻略対象たちの好感度が-100を超え、-200、-300とどんどん下がっていく。そしてこれ以上下がらなくなったところで、イベントが進行した。
「本性表したな…」
怒り狂った赤髪の女は、突如として姿を変えた。牙を剥き出しにし、目は血走る。角が生え、羽が生え、体は見る見るうちに巨大化していく。
「え?ここでボス戦?」
「ヒロインたちは好感度的に協力してくれる感じじゃないし…1人でどうにかしろって感じだね」
こちらのレベルは1で、その上仲間がいるわけでもない。この状況でどうやってボスと戦うんだと思ったが、向こうもこちらのレベルに合わせた力しか持ち合わせておらず、倒すこと自体は簡単にできた。
しかし、今倒したボスには俺も真も見覚えがない。
首を傾げてイベントの成り行きを見ていると、西武 太郎がいかにもな笑い声と共に現れた。
本来であればプレイヤーが仲間を作ってからこのボスを嗾けるつもりだったのだが、どうやら想定外の事が起こったと悔しそうな表情を浮かべている。
計画通りであれば俺を利用することでヒロインたちを覚醒させ、その力をあの赤髪に取り込ませることで世界を滅ぼすつもりだったらしい。
だからこの状態でも簡単に勝てたのか。
西武 太郎はこうなったら俺が直接手を下してやると息巻いている。しかし、計画を立てた本人はただの人間だということで、特に苦戦することもなくワンパンで沈んだ。
「颯が最初言ってたこと…合ってたね」
「そういえばそうだな」
「ふぁぁ……でもこれであらかた回収しきれたみたいだし…そろそろ寝ないと」
ふわぁとあくびをしながら腕を伸ばす真。このまま寝るわけにはいかないと歯を磨きに行った。
「だな、もう眠いわ」
現在時刻は午前4時。もうほとんど朝なのだが、ここから寝て10時くらいに起きれば昼前には家に帰れるだろう。俺はコントローラーに手を伸ばした。
「よし、じゃあセーブして終わ──あれ?」
西武 太郎が出てこない。いや、倒したのだから当たり前だといえば当たり前なのだが………
「このゲームダメだわ」
そうして俺は眠りについたのだった。




