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魔法少年を解放しろ!  作者: アブ信者
学校にて
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料理

 俺は食材を買いに、公園の近くの商店街に買い物へと出ていた。


 スーパーもあるにはあるし近いのだからそっちでもよかったのだが、こういった店は人と人とのつながりを大事にしていたりする。


 コンビニなどで顔を覚えられるともう二度と行きたくなくなるのだが、こういった店なんかでは、むしろそれがプラスに働く。


 もう俺もここに住んでからは長く、もうここらは顔馴染みの店主らばかりなのだ。そういった人々は自分達のような子供を地域全体の子供のように扱っていたりして、その役得は大きい。


 同じ値段でもいいものを融通してもらえたり、値引きだとかおまけをつけてくれることがある。帰り道にここを通るのもそれが狙いだったりする。


 罵るなら罵れ!俺は幸せだ!


 さて、では何故今日買い物に来たのか、それは料理をするためだ。


 今日は母さんが家にいない。


 婦人…あ、間違えた。女子会があるから夜は家を開けますだとか。父さんはそれならと同僚たちで飲み会をセッティングし、そこで食べてくるらしい。


 焼き鳥とか俺も食べたーい。


 だから父さんは別にいいのだが、俺たちは自分で何とかしないといけないわけで、普段なら適当に食べにいくなり出前を取るなりインスタントで済ますなりしているのだが、俺は考えた。


 こう言う機会があるなら自分で作る練習をしようじゃないかと。


 料理を作れるというのは将来的に武器になるだろうし、今のうちから習得しておくのは実に合理的と言えるだろう。


 自分の分だけ作ると言うのもアレなので2人分の食材を買い込んでいく。ま、1人前作る方が難しいって言うし?別に姉さんの分も作ってあげなきゃななんて思ってないんだからね!


 どこ向けか分からないツンデレを内心かまし、店から店へと商品を物色して回る。


 俺の顔はこの商店街中に割れている。


 しかしここのおっさんやおば…奥様方は優しい。俺が買い物の理由を話すとホントに我が子の成長を見守る親のような顔をして、それならと色々付けてくれた。


 チョロいもんだ、ありがたく使わせていただきます。


 そんなこんなで買い物を終えると、想像以上に膨れ上がった買い物袋を抱えて家へと帰る。


 今日作るのはカレーだ。最初は普段食べないような料理でも食べてみようかと思ったのだが、エルゼに全力で止められた。


 なんでも、「素人が調子に乗って変なことすると大抵碌なことにならないんですよ!」だとか。普段ネットばかり見ているからそういうことは俺より詳しかったりする。


 なら何を作ればいいのかと聞き返して出てきたのがカレーだ。確かにカレーは昔、小学生の頃に家庭科の授業内や飯盒炊爨なんかで作った記憶がある。自分がその時何を手伝ったのかは覚えていないが。


 ただ、そういう意味では年端の行かない子供でも作れる料理ということ。俺にできないわけない!


 その次が肉じゃがやチャーハンらしい。特にチャーハンをパラパラに作ることができず、べちゃっとしたそれを食べながら料理の難しさを思い知るのが皆の通る道なんだとか。よく分からないけど。


 それ以外にもネットで知り得た情報をいろいろ教えてくれた。マヨネーズを野菜につけて食ってるだけの穀潰しじゃなかったんだな。


 △▼△▼△▼△▼△


「たっだいまー」


「おかえり…ってすごい荷物ね」


 袋を渡し、手洗いを済ませてリビングへと戻ると、袋の中身を物色する姉さんの姿が。


「野菜…?何コレ、お菓子買ってきたんじゃなかったの?」


 買ってきていたら奪って食べるつもりだったのだろう。その声には不満の色が現れている。本当にこの人は。


「今日は母さんいないし、料理しようと思って」


「え?あんたが?」


 何やら訝しむように見られる。そんなに柄じゃないのだろうか。自分だってしないくせに。


「へぇ、この具材だと…カレーでも作るの?」


「そう、エルゼがカレーにしておけって」


「ふぅん…じゃあ私も手伝う」


「えぇっ!?」


 まさかの申し出だった。


 俺は以前、調理実習で金属製のボウルを電子レンジにぶち込んで爆発させたことがある。それ以来、俺は料理の過程で人を殺せると思っている。


 俺でさえそんな感じだったのに、姉さんがやったら一体どうなってしまうのか。家が吹き飛ぶんじゃないだろうか。そう思えば、こんな反応も当然のモノであった。


「失礼ね…私だって料理くらいできるわよ」


「カップ麺にお湯を注ぐのは料理って言わないよ」


 英国人でさえレンチンまでしか料理とは認めてくれないだろう。いくらなんでも無謀が過ぎる。


「…………悪い?」


 図星だったのか不貞腐れている。でも俺も実質初めてみたいなもんなんだ。


 器具なんかはちゃんと揃っているのだから、ゆっくりと危険の少ないところから丁寧に進めていけばきっと大丈夫だろう。


「じゃあ…初めて同士頑張りますか」


「言い方が気になるけど…そうね、やりましょう」


 そうして姉弟2人、キッチンへと向かっていった。


 △▼△▼△▼△▼△


 ピーラーは素晴らしいと、人参の皮を剥きながら思う。


 美顔ローラー何かと間違えて肌に当てたら大変なことになりそうなこの器具だが、こと野菜の皮を剥く際には右に出るものを許さぬ最強ぶりを見せる。


 ピーラーを当て、スッと引き下ろす。それだけで鉋に当てられた木材のように薄く皮が捲れていく。


 気分は大工。


 レシピは最初にきちんと確認したのだが、どうにもこうにも野菜を切らないと始まらない。面倒だからという理由で俺が皮を剥き、姉さんがその野菜を切る作業を担当することに。


 初めこそ流石に量が多かったので2人で剥いてもいたのだが、適当すぎる姉さんを見て、時間をかけてでも俺1人でやるべきだと判断した。


 だからこうして1人黙々と野菜の皮を剥いていたのだが……


「やぁっ!!」


 当の姉さんは魔力を使い野菜を一撃で切り刻むなど、色々やって遊んでいた。


 野菜ごとのサイズなど伝えた事を守った上でのことだし別にいいのだけれど。


 ジャガイモはホクホクした感じが好きだから大きめに、人参はゴリゴリした感じが嫌いなので少し細かくと、渡した側から色々な切り方でバラバラになっていく野菜を見るのは少し楽しい。


 空中で切られた野菜を、黒い魔力を触腕のように伸ばしてキャッチしてザルに入れるなど、なかなか器用なこともしていたりする。


「なんか…こうしてると……新婚の夫婦みたいね」


「……本気で言ってる?」


「冗談よ」


 △▼△▼△▼△▼△


 野菜を調理できる状態に仕上げたら、ここからが本番と言えよう。


 まずは玉ねぎ。コレを鍋にぶち込んで炒めていく。


 カレー味の粉をふりかけてシナシナするまで数分、いい感じに進んだところで切っておいた鶏肉を入れる。鶏肉はあっさりしているから食べやすい。


 コレもまた少し炒めていきつつ、ジャガイモなどの野菜を放り込み、肉に焼き目がついてきたあたりで水を加える。


「なによ、楽勝じゃない」


 タイマーをセットして蓋をしたのを見て、姉さんは勝ち誇ったように言い放つ。まだ終わってはいないのだが、ここまでくればもう時間をかけて煮込んでいくだけだ。


 たまに混ぜたり柔らかくなっているのかを確認しつつ、それが仕上がったらルーを足して、残りのちょっとした具材を入れるだけ。


 ほとんどやることは無くなった。


「ところでさ、そのウニョウニョしてるのはなんなの?」


 と、先程はあまり突っ込まなかった黒い触腕について訊くことにした。


 野菜を切った後も何かを運んだりするのに使っていたのだ。それが今も何本か、姉さんの周りでウニョついてる。


「最近編み出したやつよ。魔力を練り上げた第3の腕ね」


「第3って……それ以外の子も認知してあげなよ」


 薄い本に出てきそうなウニョウニョ君達が同意を示すように頷く。器用だな。


「凄いでしょ。あんただって、ほら!」


「のわっ…!」


 いつの間にか触手に掴まれ持ち上げられる。ご丁寧に腕、腰、脚の全部を拘束するように掴まれているため身動きが取れない。


 外ではこんな目立つ物は使えないからいいのだろうが、もし使えていたら今以上に姉さんから逃げるのが難しくなっていたであろう事実に身震いする。


「こうして動けないあんたを見てると…ちょっと楽しくなってくるわね」


「言ってることヤバイよ……あと離して」


 変な扉を開かれたらたまったもんじゃない、ただでさえ首絞めるのにハマってる人なのに。


 さっさと逃げなければ。


 △▼△▼△▼△▼△


「コレでルー混ぜたら完成?」


「そうですねぇ。いやぁ、早く食べたいです」


 何度かタイマーを鳴らして具材が煮えたのを確認し、最後の仕上げとしてルーを溶かす。ブロック型のルーとフレーク状のルーを両方使うことにした。


 普段であればエルゼは皿を必要としないものしか食べられなかったため、こうしてカレーを堂々と食べることができる機会に嬉々としている。


 触れているものはエルゼ同様周りからも見えなくなるが、皿に入れてあるものは常にエルゼがふれ続けていないと視認できてしまうからな。


 当たり前のように自分の分もあると考えていることには思うことがないわけではないが、料理中はこいつもレシピの確認と指示をして協力していたわけだし、それくらいは別にいいだろう。


 時間的にはまだ早いのだが、カレー自体は完成したのであとは米を炊いて時間が来れば食べられる、と。


「カレー♪カレー♪」


 エルゼはさっきからご機嫌だから放っておく。楽しそうだけど、ずっとあの感じで纏わりつかれたら流石に殴ってしまうかもしれないし。


「出来た?」


「出来た…よ?何してんの」


 やることがないからと自室に戻っていた姉さんが匂いに釣られたのかキッチンへと戻ってきた。


 戻ってきたのだが、何故かウニョウニョ君が増えていた。


「さっき6本くらいじゃなかった?」


「あのあと頑張って増やしたのよ。あと、手をつけれるようにしてみたの」


 先端の形状を変化させて人間の手のように形を変えると、その手で握手を求めてきたので握手で返す。ホントに器用だな。


「ヴェルザ、コレはあなたが教えたんですか…?」


「部屋のモノをアレコレ取れとうるさいから提案したまでだ」


 つまりあれか、面倒くさがりが祟って出来上がった魔力の使い道なのか。全く、凄いんだか馬鹿みたいなんだか。


 大量のウニョウニョ君に突かれながらそんなことを思った。


 △▼△▼△▼△▼△


 炊飯器がご飯の炊き上がりを教えてくれたので、早速よそっていくことに。


 今日はヴェルザ除いた3皿だ。ヴェルザも食べるのか聞いてはみたのだが、精神生命体は食事を必要とはしない生き物なのだとか。


 エルゼはどうなんだと思ったが、受肉したエルゼに関しては本人の意識の問題らしい。


 必要であると認識していれば必要になるし、そうでなければ必要としない。要は食べてみたいと思うかどうかで決まるのだと。不思議なものだ。


 流石に俺たちと同じ量が食べられるとは思っていないので、少し小さめの皿によそってやり、その後自分と姉さんの分を取って食卓に着く。


 さぁ、ここで全てが決まる。


「「「いただきます!」」」


 結果は上々、普段食べているものにだいぶ近いカレーだといえるんじゃないだろうか。


「まぁ、失敗するとも思ってなかったけど」


「ここで失敗していたら先が思いやられるとか言う話じゃありませんからねぇ」


 スプーンを起用に使いカレーを口に運ぶエルゼ。箸はまだまだといったところだったが、1つで済むスプーンやフォークは早いうちに慣れたらしい。


 姉さんは早々に食べ終えるとそのまま部屋に戻ってしまった。


「ナチュラルに後片付け押し付けるじゃん」


「僕も手伝いますから、チャチャッとやってしまいましょう」


 とても平和な一日だった。

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