勘違い
「会長はどういう感じで魔物退治してるんです?」
他には誰もいない生徒会室にて、俺は会長に尋ねた。
副会長の事で気になったというのもあったが、会長に一緒に昼を食べようと誘われたこともあり、生徒会室を訪れていたのだ。
阿波達もいるものかと思っていたが、別に仕事がなければいるわけもないか。
「どういう感じ…というのは?」
「ええと、休日は大体あのハムスターに言われて街を歩き回ったりして魔物を探したりしてるんですけど、会長もそうなのかなって」
「あぁ、なるほど。そういう意味なら私も大体は似たようなものだよ。ただ──」
「ただ…?」
「──君には言ってもいいかな。私の家がどういう家かは知ってる……よね?」
「え?あぁ、金持ちの家ですか?」
「ま、まぁ……それも間違ってはいないんだけどね。そうではなくて。私の父は公安の、それも…言ってしまえば上層部の人間でね」
「へぇ…公安?」
公安っていうと、アレだよな。国内で警察とは別方向で操作を行ったり監視したりするっていう……下手を打てば俺も監視対象に入れられそうだな。
「あぁ。そこで極秘裏に魔物への対策を進める課を設立し、私も力を貸した上で、緊急時の戦闘や対策のための情報共有を行っているんだよ」
そう説明してから、秘密でねと付け足した。言ったら消されるんだろうか。藪をつついて蛇を出す利益もないし、そんなことはしないのだが……この人、少し不注意じゃないだろうか。
「コンプライアンス違反ってやつですねぇ」
「だから秘密でね…?まぁ、私はそこから貰った情報なんかも参考にして動いているから、その分効率はいいのかな」
「地道にやるほかないんですね」
「そういうことだ。それで、今日話そうと思っていたことなんだけど──」
話を切り上げるとこちらへと向き直り真剣な面持ちで話し始める。
「私は先日楓君と戦った。それでそっちの問題は片付いたと思う。だが思い返すと、そもそも当人であるはずの君には何だかんだで何もできていなかったと思ってね」
「え、いや、だから別にいいですって」
「そう言ってくれるのはありがたいことではあるのだけれど、私としてはそうもいかないというか…それで、もしよかったらの提案になるんだけど──」
まだ少し先の話にはなるが、夏休みに会長が、というよりは聖園家が所有する島に行くことになっているから、よければ来ないかというものだった。
「本当は千夏達生徒会の面々で行く予定だったんだけど…美咲君に今年は決戦がどうとかと言われて断られてしまって」
「枠が開いたからそれを埋めるため…ですか」
「え、あ、ち、違うよ?それだとついで感が出るというか…決して適当に済ませようとかという訳ではなくてね…?」
「そうですよ颯くん、人からの行為をそういう風に取るものではありませんよ。なので行きましょう」
「何がなのでなんだよ。お前が行きたいだけだろ」
「そうですよ!夏のサマーですよ!颯くんだってタダ飯とか好きじゃないですか!行きましょうよ!」
夏のサマーって何だよ。というか、これはどうあっても日帰りとはいかないやつだろうし、そう簡単に返事はできない。親に言えば二つ返事に許可が下りるであろうことは容易に想像がつくものの、勝手にというのはやはりマズいだろう。
「うぅん…生徒会の人たちって言われても…阿波は普通に話しますけど…」
「あ、七海君は美咲君と一緒に出掛けるんだとか」
「となると副会長ですか。そういえば昨日の帰り道に魔物に襲われてましたね」
「あぁ…千夏から聞いてるよ。あの子も全く運がない…」
あの不可思議な言葉については訊かなかった。
「まぁ考えておきます。いつまでに答えれば?」
「そうだね…夏休みに入るまでには…というか、連絡先交換しない?答える分にはそっちで言ってくれればいいからさ」
そういえば交換してなかったか。断る理由も特にないということで交換を済ませると、別の話題へと移っていった。
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2人が本題を片付け雑談をし始めたのと同じ頃、何枚かの書類を片手に生徒会室へと向かう阿波 七海の姿が。
「ん?」
ポケットに入れていた携帯が音を立てたことに気が付き連絡を確認する。送られてきていたのは1枚の写真。
「美咲先輩また…何の写真だろ」
そこに映っていたのは学校に入り込んだ猫が眠っている姿。返事を送ると書類を生徒会室に届けることを思い出し再び歩き始める。
他の教室などと比べると少し浮いていると言わざるを得ない重厚な木製の大きな扉。入ろうと思い手を伸ばしたところでその手を引っ込める。
中に誰かいる。
生徒会室なのだし、当然生徒会メンバーの誰かがいてもおかしくはない。しかし、聞こえてきたのは話し声だ。取り込み中だとまずいと思ったのもあるが、声の主が誰か気になったこともあり、そっと扉に耳を当て、聞き耳を立てる。
会話の内容自体はよく聞こえなかったが、声の主が生徒会長と、自分と同じクラスの御厨 颯であることが分かり驚いた。七海の知る限りでは、2人はそう親しい間柄ではなかったはずだ。少し前に呼び出されたりしていたことは知っていたものの。
そんな2人がこんな人の滅多に来ない密室で一体何をしているのか。
若干思春期を拗らせかけていた七海はそれに興味津々で、会話を盗み聞くことにした。
「神聖な生徒会室で逢瀬なんていけないことだし…うん…!」
盗聴の方がいけないことだという認識が無かったわけではない。しかし彼女は自分を納得させると、再び扉に耳を付ける。
中からは尚も会話が聞こえてくる。
「その…私は君から見てどう…だろうか」
「どう?どうって…どう……ですか?」
「こうして付き合う上で、気持ちよくできているものなのだろうか…と思ってね」
扉越しの七海には、その会話の断片しか聞こえていない。しかし、聞こえてきた内容に声を上げそうになったのを既の所で押しとどめた。
「え…?つ、付き合う…!?そ、それに…き、気持ちよく!?」
何をどう捉えたのかは彼女にしかわからないが、何かとんでもない勘違いが彼女の中で繰り広げられる。
「出会いそのものは最悪でしたけど…今はもう結構変わったと思いますよ?」
「それは…どう変わったか聞いても?」
この会話を聞いていれば勘違いだと言う事を理解できたのかもしれないが、動転して耳を離してしまっていた七海に聞こえることはなかった。
気を取り直した七海は、真っ赤になった耳を再び扉に近付け耳を澄ませる。
「最初はキツイ感じでしたけど…意外とエグイ趣味持ってたりとか……まぁ──えぇ」
七海は再び扉から離れ、真っ赤になった顔を手で覆う。
「へ!?噓でしょ!?最初はキツイって…もうそこまで…!?それにエグイ趣味って何!」
断片的な情報ばかり得ては繋ぎ合わせているせいで収拾がつかなくなっている。
「いやっ、それは!頼むから秘密にしておいてよ……?」
「別にバラしたりはしませんよ」
「秘密…?もしかして、会長は弱みを握られて脅されてるの!?」
聞こえてきた秘密という単語に大きく反応する。この2人の関係性はそこまで歪で爛れたものなのか。
もしそうなら…と颯に対して抱いた怒りの感情とは裏腹に、ますます息は荒くなり、脈拍は苦しいほどに早く打たれる。
「あ、でも会長と姉さんが一緒にいると色々痛くて仕方ないですかね…………主に胃とか頭とか……」
「まぁ、それは…相性の問題もあるからどうしようもないかな…」
「会長と姉さんが一緒…?お姉さんって楓先輩よね…ま、ましゃか、3人で!?そんな…!それに痛いって…ナニが!?腰!?相性って……何の!?」
もう滅茶苦茶である。楓と颯の仲がいいことは七海も知っていたが、まさかそこまでとは。と、開いた口が塞がらない。
「秘密を握られて脅されて、あの姉弟と3人で…」
時間が経ち、熱が引いたはずの顔が再び熱くなっていく。何かを想像したのだろう。
そして決断した。
「助けなきゃ…!」
我慢ならなくなり、とうとうドアを勢いよく開け放ち部屋へと入る。颯の姿を見ると、カツカツと近寄り胸倉を掴む。
「御厨!アンタ、先輩に何してんのよ!」
「え、な、何が?」
「な、七海君?ど、どうしたんだい?」
突然のことに驚き対応が遅れた颯は、そのまま首を絞められる。
──姉さんと同種の人間だったのか。
と、遠くなる意識の中、七海への認識を改める。
「先輩、大丈夫です、私が助けてあげますから!」
「助け…る?」
「先輩、コイツに秘密を握られて脅されて変な事させられてるんですよね!だから私が助けます!」
「あがっ…あが……ががが………っっ!」
「な、なにを言って……と、とりあえず下ろしてあげてくれないかい!?颯君死んじゃうから!」
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「すみませんでした…………」
今にも消えそうな声で阿波が謝ってきた。部屋の隅っこに蹲り、耳まで真っ赤になった顔を手で押さえている。
阿波は何やら重大な勘違いをしていたらしく、それがどういった内容の勘違いであったのかは会長にしかわからないのだが、会長と何かを話して以降ずっとこの感じである。
話を聞いていた側の会長まで顔を赤くしていたが。阿波でもそんなに恥ずかしい勘違いをするものなのだろうか。
「もういや……死にたい……」
「そんなこと言わないで…ほら、そんなところに座ってたら汚れてしまうから…ね?」
「よかったじゃないですか会長。後輩に慕われてて」
「うぅ…………」
2人を置いて生徒会室をあとにした。
「何だったんだろ」
それは俺には分からなかったし、多分今後も分かることはない。




