クィピラ
着ぐるみのまま変身しステッキを構え、そこで気が付いた。着ぐるみがそのままなのだ。
もちろん中に着ていた服はいつものアレになっているが、これなら外から見られてもなんともない。
「おぉ…!」
凄いことに気が付いてしまったのではないだろうか。
使える…!これは使えるぞ…!!と、着ぐるみ何ぞどこで調達するのか、変身の度に着ぐるみを着込むつもりでいるのか。そんな簡単な疑問には触れもせず、俺は着ぐるみと高揚感に身を包んだ。後でがっかりすることになるのは決まっているのだから、今くらいはこうしてみてもいいではないか。
そうして俺はフェンスを乗り越えると、景気付けに一発、ピエロ目掛けて魔法を放った。
被害を出さないよう最小限の魔力で放った一発だったが、目の前で起きた爆発に参加者は混乱し、阿鼻叫喚となっていった。
そういえば俺が原因で叫び声が上がるっていうのは何気に初めての経験かもしれない。
ただこれは仕方ない。更なる被害を防ぐための事前措置だと思って納得してもらうことにしよう。
逃げて行く人の波に逆らいながら、俺は持ち直す。
だがそのように動いた俺の判断は間違ってなかったらしく、ピエロが耳鳴りのするような、ずっと聞いていたら思わずぶん殴ってしまいそうになるほどの甲高い声で、自己紹介も含め聞いてもないことをペラペラと教えてくれた。
「アヒャヒャッ!よぉくもやってくれたねぇ!?このクィピラ様の食事を邪魔した罪ぃ!ちゃぁーんとっ!支払ってもらうよぉ!」
食事…やっぱり罰ゲームと称して──
「第1問!」
「あ?」
急に問題を出してきた。
これまでの調子とは一転、突如としてクイズ番組の司会者のような落ち着きを取り戻したクィピラなるピエロの魔族は、粛々と問題文を読み上げる。
「神、精霊、聖人。この3名がお茶会を開きました!始めに来た神は菓子を、2番目に来た精霊は花をお土産に持ってきましたぁ!ここで問題ぃ!最後に来た聖人が持ってきたのは何でしょーかぁ!??」
が、やはり本性を抑えきれなくなったのか、後半になるにつれてウザったらしい声をフルスロットルに浴びせてきた。
俺は目を閉じ、顎に手を当て考える。
神、精霊、聖人ね。なるほどなるほど。そうかそうか。
そしてフンスと鼻を鳴らすと、息を吸い込み声量を大にして叫ぶ。
「分かるわけあるかぁ!子供向けのクイズだろ!難易度考えろや!」
「あれれぇ?君は分からないのかなぁ??アヒャヒャッ!!」
「キィィィッ!!!」
キレそうになるのを何とか抑える。
今思えば別に抑える理由もなかったのだが、問題を聞いてしまった以上、答えを聞き出す前に殺してしまうと、今日の夜が眠れぬ夜になってしまう可能性がある。暗い部屋でこんな問題の答えを考え続けるのは御免だと、俺はその答えを考えていく。
しかし。
「神、精霊、聖人……っ!分かりました!分かりましたよ颯くん!」
やけに楽しそうなエルゼが答えが分かったと手を上げる。さっきクイズ大会参加したがってたもんな。目当てはポップコーンだったのだろうが、人間社会のああいう催し物に興味をひかれたりもしたのだろう。
だがなエルゼ、お前は魔族を駆逐しに来た側の存在じゃないのか。俺が言えたことじゃないのかもしれないけど、何普通に馴れ合ってんだ。
「はいぃ!そぉこの君ぃぃぃ!!!」
「お茶です!!」
「正解ぃぃぃ!!」
「え?」
いやまぁ、お茶会だからお茶。間違っちゃいないけど。クイズってそういうのじゃないでしょと、俺は首を傾げた。
「ふふふ…簡単なことですよ颯くん!!」
エルゼはドヤ顔でそう言った。
何というかとても殴りたくなってきた。今日死ぬのは2名に決定かな。
「神、精霊、そして聖人。これはこの世界でトリニティと呼ばれている組み合わせだと思うんです」
三位一体、だったか。宗教的なことはよく分からないが、それくらいの単語はゲームなどにも出てきたりする。というかゲームの題材に宗教が用いられることが多い、と言うべきなのだろうな。
とは言え、クイズにそんな前提知識求めるとかやっぱ魔族って頭おかしい。
「そして次に注視すべきは順番です。別に誰が最後でも関係ないんですが、この最後というワードにヒントが隠されてるんです」
解説を続けるエルゼに相槌を打ちながら耳を傾ける。
「この国では最後の事をトリと言い換えますよね?」
寄席とかでの言い回しだったか。
いや、何でコイツそんなこと知ってるんだ?たまにネットとかを使ってこの世界における情報収集をしているのは知っているし、映画とかアニメを見ているのも文化的な知見を広げる為なのだろうが、その情報は果たして俺の活動に一体どのようにして活かされているのだろうか。勿論知識を付けることが無駄だとは言わないが、無駄な知識というものはあるだろう。
今この瞬間を予測していたとは思えないし……違うな、予測したんじゃない。あるかもしれないで動いているのだろう。サハラ砂漠に雨が降るとは思ってないが、それでも折り畳み傘を持っていく、みたいな。備えあれば患いなしというやつなのか。
エルゼは指をぴんと立て、得意げな顔をした。
「そうです!トリニティ、トリにティー!だから最後に持ってこられたのはお茶なんです!」
「ただのダジャレじゃねぇぇぇかぁぁぁ!!!!」
果たして、俺は叫んだ。ふざけるんじゃない。
「正解正解大正解ぃぃぃ!!!アヒャヒャッ!!」
しかし問題を解いてもらえたのが嬉しかったのか、ピエロは壇上で奇声を上げ手をたたいて跳ね回っている。先程の動きよりも激しかった。
そしてピタッと動きを止めると、ニヤニヤとした表情で俺を指差す。
「君ぃ、この世界の住人のくせにそこのフューリタンに知識の差で負けるなんてぇ!?恥ずかしくないのぉぉ!???アヒャヒャヒャヒャッ!!!」
「キェェェェェッッ!!!」
もう無理だ、何かしらやり返さないと気が済まない。
当然、殺すことは確定として、俺は何かいい方法が無いかと考えた。
あ、そうだ。
目には目を、歯には歯を。なんて言葉もあるんだ、クイズで受けた鬱憤は、クイズで晴らしてやろう。
「じゃあこっちからもお前の大好きなクイズを出してやるよ」
「アヒャヒャッ!!クイズ!クイズ!!クイズゥゥゥ!!!」
その提案にクィピラは歓喜の声を上げる。これじゃあピエロというより──やめておこう。
魔法を放つ準備だけ予め済ませると、狂った道化師に向かい口を開く。
「俺にあって、お前にないもの。なぁ~んだ!?」
「んぃぃ??君にあって俺様にないものぉ??そんなものはないはずぅ?」
「颯くんにあってアイツにないものですか…普通に考えれば結構結構ありますね…でもこの状況で求められている答えは…」
俺は急かすように、チックタックと口ずさむ。
思い当たるものがないのか、首をがくんがくんと左右に曲げている。
エルゼも頑張って考えているみたいだが、お前別に関係ないからなコレ。
「あ!分かったかもしれません!」
「分かったから、心の中に置いておけ。言うなよ」
最初に答えが分かったのはエルゼ。正解不正解は別として、答えるのはお前じゃない。
「んぇぇぇ???分からないぃぃ!!うああああ!!??」
クィピラの方は頭を抱えて悶え苦しんでいた。クイズで答え分からなくて錯乱するのか。
これなら魔法なんか使わなくても、答えのない適当なクイズ集とか渡しておけば勝手に自滅しそうだな。
「教えて欲しいか?」
俺は不敵に笑みを浮かべると、嘲るように尋ねる。
「教えてぇ!!んぐあぁぁぁぁ!!!」
一呼吸置き、声を張り上げた。
「────正解は”明日”だバ~カ!悪を挫く天の怒りよ!降り注げ!シャイニングメテオ!死ねぇぇッ!!!」
天から降り注ぐのは光の礫。
白く大きな雲にいくつもの穴を開け、空を朱く染め上げながら敵を目指す。ゆっくりかに思われたそれは、近付くほどに速度を増し、クィピラを撃ち抜いていく。
「んぐぃぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!」
回避不能な数百の攻撃をその一身に受け、断末魔と共にピエロは消滅した。
「答えは”明日”でしたか…」
答えを聞いたエルゼはなるほどと唸る。
「ちなみにお前は何だと思ったの?」
「優秀な相棒です!」
「問題聞いてた?」
それから数日、なぞなぞがエルゼのマイブームにでもなったのか、少々鬱陶しい思いをすることになる俺なのであった。




