(3月31日付けの手紙)
エヴァの2年目の学園生活が始動します。
お母さん
今日、学園へ帰ってきました。
今朝、朝食を食べた後で、ジークと一緒に王宮の魔法陣から魔法研究所の魔法陣へ転移したんです。
アマリエさんのお家はダメでも、どうせならベネディクト家のお屋敷に泊まって、使用人の食堂でクーパーの絵を見たかったんですが、なりゆきで離宮に泊まってしまいました。
例え離宮でも王宮です。平民としては、史上初かもしれません。
後で、シールド侯爵あたりから嫌味を言われるんじゃないかと思います。
あの人のことは、考えても鬱陶しいだけなので、気にしないことにします。
そんなことを気にしてたら、学園で生きていけませんから。
さて、学園へ着くと、大勢の生徒が荷物を持ってウロウロしていました。
明日から学園が始まるのだから当然と言えば当然なんですが、もう1年経ったのだと思うと、感慨深いものがあります。
去年は、右も左も分からなかったから、パメラと一緒に心細い思いをしてたのに、今年は、こんなに図太くなってるんです。(シールド侯爵のことを無視しようとか、いろいろとね……)
人間って、成長する生き物なんですね。
寮に向かってると男爵令嬢ズに会ったんですが、彼女たちは、一大スクープをあげた新聞記者みたいな乗りで飛びついて来たんです。
「エヴァ、おめでとう!頑張った甲斐があったじゃないか」
「すごいわね!後期の成績、エリザベートさまを抜いて2位だったのよ」
「大したものですわ。平民で2位になったのは、歴代初だそうですわよ。今までの最高は、5位だったそうですわ」
「1位は、そこにいらっしゃるジークフリードさまですわ。次は、この方を抜いてくださいませ」
「あんたたちねえ、どっから、そんな情報仕入れて来るのか知らないけど、そんな無茶言わないでよ。
後期は、エリザベートさまが文化祭で忙しくしてらしたのと、例の3つの魔法陣の加点があったから、たまたまだよ。
ジークを抜くなんて、無謀で無茶で無理なの!」
って、言ったら、
「そんなことはない、エヴァなら、できると思うぞ」
って、本人が言うな!
その場で、春休みの話で盛り上がったので、ジークが部屋でお茶しようと誘ってくれて、みんなでそのまま特別寮のジークの部屋へ行ったんです。
男爵令嬢ズは、特別寮の部屋に入ったことがなかったので、興味津々でお部屋を眺めてました。
私も、エリザベートさまやケント会長の部屋に入ったことはあるけど、同じ間取りでも、住む人によって感じが変わるものだなあって、興味深く観察させていただきました。
テレサのお家で春休みを過ごした男爵令嬢ズですが、スレイ翁やツーノのことを話したくでたまらないみたいで、「その話は、後でね」って、目で合図してたんですが、それが、目ざとい公爵閣下に見つかってしまったんです。
「エヴァ、何か隠してない?」
怖っ。背中を嫌な汗が流れました。
言っちゃダメ、お口にチャックしといて、って心の中で語り掛けたんだけど、私には、テレパシーなんて能力はなくって、マーサがポロリと言ってしまったんです。
「それがすごく美味しかったんですの。ですから、スーさんのお土産に買って来ましたのよ」
「スーさんって、誰?」
って、ジークが反応したので、頭を抱えました。
マーサは、ものすごく申し訳なさそうに体を小さくしました。
マーサ、そこは、バックレるの!そんな顔したら、何かあるって白状してるようなもんでしょ?
ったく、貴族のくせに、脇が甘いんだから……。
結局、毎週土曜に、私の部屋で、スレイ翁やツーノを呼んでパジャマパーティーしてることがバレてしまったんです。
「エ~ヴァ~」
ひぇ~、怖いっ。
みんなの前で抗議する気満々です。
「酷いじゃないか!どうして私を呼んでくれなかったんだ!」
どうしようもなくなって、必殺技『ジャンピング土下座』で謝りました。
「ごめんなさい。
でも、仕方ないでしょ?女子寮なんだよ?
ジークは入れないんだから」
えっ?
ジークが固まって、さっきまでの勢いはどこへやら、見る見るしぼんでしまったんです。
ちょっとかわいそうかもって、思ってたら、マーサが爆弾発言したんです。
「じゃあ、女装していらしたらよろしいじゃございませんか」って。
えええええええええええっ???????
テレサも、スーザンも、パメラも、私も、そして、ジークその人も、マーサの提案に絶句しました。
あんたねえ、何馬鹿なこと言ってるのよ。
みんなして、ブーイングの嵐を起こそうとしたとき、マーサがキッパリ言い切ったんです。
「だって、文化祭のときだって、あんなに可愛かったんですもの、カツラでも被れば、誰も気が付きませんわ」
なるほど、って思ったのは内緒です。
私が口を開く前に、みんなが賛成したんです。
「そうか。その手があったか!」
「エヴァと同じ色の焦げ茶のカツラ被れば、分かんないかも……」
「ジークフリードさまは、プラチナブロンドが売りですけど、きっと、焦げ茶でも可愛いでしょうね」
「でしょ?でしょ?我ながら、グッドアイデアだと思いますわ」
「そしたら、ジークは、女子寮に入れるのね?」
「そういうことになるかも」
「でも、学園の生徒じゃないってことになるわよ」
「エヴァの従妹が遊びに来たってことにすれば良いんじゃない?」
「そしたら、ジークは私の部屋に泊まることになるのよ?」
「問題は、ベッドが一つしかないってことね」
パメラ、そんな楽しそうに問題提起しないでよ。
「簡単ですわ。エヴァはシュラフ持ってるじゃありませんか」
なるほど。って、納得してる場合じゃない!
「じゃあ、決まりだ。毎週土曜、エヴァの部屋でパジャマパーティー改め、お茶会をするけど、それに、従妹が遊びに来ることにする」
「待って、雪が解けたら、土曜は山へ行くから、他の日にして」
「もう、我が儘なんだから」
どこが?って、突っ込むのは止めました。彼女たちの勢いに逆らうことなんかできません。
「じゃあ、日曜日で良い?」
「OK」
「了解しました」
「ラジャーですわ」
私もジークも返事をしていないのに、サクサク決められしまったんです。
「従妹は、そうね……イースレイの近くの小さな村に住んでることにして」
「そうね、奉公先がイースレイの近くだってことにして、毎週遊びに来るってことで」
「ちょっと待て。どうして私の部屋でやるって選択肢はないんだ?」
我に返ったジークが横やりを入れると、入れた横やりの4倍の攻撃が返って来たんです。
「とんでもございませんわ。ジークフリードさまのお部屋に毎週お伺いするなんて、他の方に何と言われるか分かったものじゃございません。
ジークフリードさまのハーレム要員だって思われたら、ダグラスさまに申し訳が立たないだけじゃなく、お嫁に行けなくなりますわ」
「そうだ。ジェームズさまだって面白くないと思うぞ。私は、彼に嫌われたくない」
「ネイサンさまだって、同じよ。絶対怒るに決まってるわ。
そんな危険なことしたくないわ」
「今期、私、ジェームズさまに優良物件を紹介していただける約束ですのに、変な噂が立ったら、相手の方が見つからなくなってしまいますわ。
そしたら、婚期を逸してしまいますわ。乙女の人生を何だと思ってらっしゃいますの?
ジークフリードさまがそんなひどい方だったなんて!」
この猛烈な攻撃にジークは諦めて白旗を上げたんです。
でも、本当は、みんなジークの女装が見たいだけだったと思うんです。
だって、お茶が終わって部屋へ帰るとき、マーサが意気揚々と言ったんです。
「こちらのお部屋でスーさんたちと会うことになったら、ジークフリードさまの女装が見られないじゃないですか」
マーサ、嗜好が駄々洩れだわ、って思ったんですが、ふと見ると、テレサもスーザンもパメラも、みんなマーサと同じ顔をしてたんです。
悪いジーク。諦めて付き合ってねって、心の中で謝りました。
3月31日
男爵令嬢ズに振り回される エヴァ
男爵令嬢ズは、最強のようです。