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(1月8日付けの手紙)

冬休みが終わって、授業が再開されました。

お母さん


 

 学園へ帰って来ました。


 

 今日から、再び授業があります。


 非日常を満喫したって感じで満足したんですが、いつもの生活が戻って来ると思うと、もっと休みたいと思ってしまいます。



 あれから、ベネディクト家の使用人の皆さんと仲良くなって、すこぶる快適に過ごしました。



 シールド侯爵は、独りぼっちで残された私が、身の程を知って大人しくなることを期待してたようですが、そうは問屋が卸しません。



 王宮の年越しの舞踏会に行った皆さんが帰って来たのは2日の夕方でしたので、皆さんは王宮に2泊して来たことになります。


 この2日間、昼は使用人の皆さまと楽しく過ごしましたし、夜はスレイ翁に来てもらってウイリアム殿下の話で盛り上がっったんです。最初の晩は、例のパーティーでしたしね。(笑)

 

 ベネディクト家でウイリアム殿下の話をするのは、ものすごく臨場感があって良かったです。

 

 今は生きていない人ですが、自分が今いるお屋敷に住んでた人だと思うと、もう、最高でした。



 さて、年越しの舞踏会に行った皆さんが泊まったのは、王宮といっても、ウイリアム殿下が下賜された離宮だったそうです。

 

 ウイリアム殿下が亡くなって数百年経つのに、ベネディクト家は、王宮の中に離宮を所持しているんです。


 当代の当主がジークだってことを除けば(このことにこだわりすぎだって言いっこなしです。ジークは、やっぱり頼りないんです)、ベネディクト家って、本当にすごいです。



 離宮の客間の数は本宅ほど多くはないので、生徒会役員の皆さま、エリザベートさまとお友達、男爵令嬢ズ、男爵令嬢ズのお相手の悪役の皆さまの4つのグループに分かれて泊まったそうです。


 かなり広いお部屋だったので、4人で泊まっても狭くは感じなかったって、パメラたちは言ってたんですが、エリザベートさまの腰巾着のお三方は、エリザベートさまに一部屋もらえないなんて、って憤慨してらしたそうです。



 でも、エリザベートさまは、ご自分のお家のタウンハウスが王都にあるんですから、気に入らないなら、一度お家に帰るって選択肢もあったわけで、離宮に居続けたってことは、お三方が気に病むほど気にならなかったんだと思うんです。


 だって、王宮にお泊りするんですよ。普通、絶対できないことじゃないですか。





 さて、今日は、セクレド語のリンダ・リン先生の授業があったんですが、今日の授業は、とても衝撃的でした。



 文化は、高い所から低いところへ流れる。だから、王都で流行っている文化は、時間をかけてへき地へ流れる。

 へき地にその文化が定着した頃、王都では当該文化が消えている場合がある。その場合、王都を中心にドーナツ状に同じ文化が輪になって残るので、元々は王都から流れ出た文化だと推測することができる。



 リンダ先生の学説だそうです。


 リンダ先生は、若いんですが、国語学の分野では名のある方らしいんです。



 知らないって、怖いですね。そんな偉い先生だとは思いませんでした。


 で、この学説を説明すべく、先生が黒板に詩を書いたんです。



 それが、ビックリなことに、あの年越しの歌だったんです。



 あらたまの 年の初めを祝わんと

 人もけものも鳥も木も

 みなみな そろいて 踊りたり

 天人(てんにん)きたりて 寿ことほぎぬ

 めでたき朝の 日の中に

 年神さまが 現れん

 その御姿おすがたの めでたさに

 人もけものも鳥も木も

 うち震えては 歓喜する

 あなあなめでた あなめでた




「これは、古歌こかと呼ばれる、昔はあったけれど、今は存在しない歌の一つです。

 『年越しの歌』と呼ばれていて、大晦日に、年越しを祝って歌ったり踊ったりしたということですが、伝承のみで、現在では伝わっていないんです。

 かろうじて、先日の王宮の年越しの舞踏会の際に奉納された巫女の舞がありましたが、あの曲が、この歌から派生したものだと言われています。

 王都から離れたへき地になら残ってるかもしれないという程度の絶滅危惧種、いえ、絶滅してしまった種、みたいな存在なんです」




 説明を聞いてビックリしました。


 あれが、そんな大層なものだったなんて。

 

 お父さんは、どっからそんなもの仕入れて来たんでしょう?

 

 お母さんは、知ってましたか?


 

 

 そんなことより、その絶滅危惧種、若しくは絶滅してしまった種みたいな歌と踊りを、ベネディクト家に布教して来た私は、絶滅危惧種の保護活動をしたことになるんでしょうか?


 

 ものすごく悪目立ちしそうで、げんなりしました。


 


 私は、しばらく茫然としてたみたいです。




「エヴァ、エヴァ」


って、パメラが呼ぶ声で正気に返りました。


 パメラが小声で呼んだんです。


 だって、彼女は、この歌を私から聴いてるんです。毎年、年越しの話で盛り上がると、歌って踊ってみせてたんですから。



 とっさに、目で合図して、黙らせました。


 こんなことを大っぴらに言ったら、リンダ先生に他意はなくても、何に巻き込まれるか分かったもんじゃありません。


 平民のくせに古歌を知ってるって、またまた妬まれてしまうでしょう。

 


 知らない振りをした方が良いと思ったんです。



 挙動不審なパメラに、リンダ先生がちょっと変な顔をしたんですが、先生が口を開く前に、ジークが流れをぶった切ってくれたんです。


 ジークでも、たまには良いこともしてくれるんですね。

 

 ちょっぴり見直したのは、内緒です。



「先生、私はこの歌を聞いたことがある」


 衝撃的な展開に、リンダ先生が身を乗り出しました。パメラのことなんか吹っ飛んだみたいです。


 心の中で、ジークに「ありがとう」って言ったんですが、ジークは、やっぱりジークでした。




「どちらでお聴きになられたんですが?」


「うちの使用人が歌ってたんだ」


 ジークの返事に、先生は息をのみました。


「その使用人の出身はどこか分かりますか?」


「執事に訊いたら分かると思うけど、私は知らない」


「今度、調査に伺ってもよろしいですか?」


「良いよ。紹介状が要るなら、書くけど」


「よろしくお願いします」



 授業が終わると、リンダ先生はホクホク顔で帰って行きました。


 


 パメラが側へ来て、


「エヴァ、どうして、あの歌、知ってるって言わなかったの?

 

 知ってるなんてもんじゃないじゃない。

 歌って踊れるんだから」


「だって、お父さんが、どこで覚えて来たのか分からないんだもん。

 

 下手なこと言って、また変なことに巻き込まれるのは、ゴメンだし」


 正直に答えると、パメラはそれ以上追及しませんでした。


 私が、これまで散々苦労して来たのを思い出したのでしょう。


 

 その代わり、別のことが気になり出したんです。


 「ベネディクト家の使用人にあの歌を歌ってた人なんていたかしら?」

 

 


 パメラが真面目な顔して思い出そうとしているのを見て、


 「さあ、気付かなかったけど」


って、バックレておきました。


 


 ベネディクト家の使用人の皆さんが、私のことを黙っていてくれることを祈ります。



                      1月8日


     ヤバイことをしてきたことに気付いた エヴァ



PS お母さんは、ベネディクト家の使用人の皆さんが、私のことを黙っていてくれると思いますか?

やらかしたことを気付くのは、辛いです。でも、下手に隠すともっとヤバイことになるのです。

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