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(1月1日付けの手紙)

ジークたちが王宮の年越しの舞踏会へ行ってる間のベネディクト家の話です。

お母さん


 

 昨夜は、王宮で年越しの舞踏会があったんです。


 

 ベネディクト家では、使用人が集まって、年越しのパーティーをしました。


 何でも、ウイリアム殿下が公爵だった頃からの伝統だそうで、執事を始め侍女や侍従から下男、台所女中、洗濯女中までみんなで集まって、いつもは舞踏会なんかをする大広間で歌ったり踊ったりするんです。


 公爵家から特別に許されているそうで、酒や料理も振舞われるんです。



 執事のセバスチャンさんが、「失礼かもしれませんが、お嫌じゃないなら、いらっしゃいませんか?」って、誘ってくださったので、一人で部屋にこもってるのもどうかと思ったので、参加させてもらいました。



 だって、私、平民ですから。


 こういうとき、貴族だったら、やせ我慢するんでしょうが、幸い私は平民ですので、喜んで参加させてもらいました。



 すごく楽しかったので、男爵令嬢ズが帰って来たら、自慢しようと思います。



 肩ひじ張らない気楽なパーティーで、ジークも王宮の舞踏会へ行くようになる前は、このパーティーで盛り上がってたそうです。


 その頃のジークは、きっと、可愛かったでしょう。



 セバスチャンさんによれば、この日のパーティーで使用人の間で恋が芽生えることもよくあるそうで、ベネディクト家の裏名物になってるんですって。




 肴として、みんな、何か一つ芸を披露することになっていて、中には、手品をする人もいたし、軽業を披露する人もいたんです。


 きっと、この日のために練習したんでしょう。



 使用人の皆さんは、圧倒的にベネディクト州の出身者が多いんですが、中には、いろんな地域から集まって来た人もいるわけで、そんな人たちは、自分たちの故郷の歌や踊りを披露してくれたんです。


 




 

 私も何か芸を披露して欲しいと頼まれたので、お父さんやお母さんと踊った『年越しの踊り』を披露しました。



 本当は、お父さんが低いパートを歌って、ダンスのリードをしてくれると完璧なんですが、ここでは一人なので、女声パートを歌いながら、女役のダンスを踊ったんです。



 そしたら、歌が単純で覚えやすいのと、ダンスが変わっていて面白いので、居合わせたメイドさんたちから、教えて、教えてって、頼まれて、突然のダンス教室になってしまいました。




 でも、ベネディクト家って、すごいんです。


 

 私の歌を一回聞いただけで、ピアノで伴奏した人がいたんです。


 何でも、元は、この地方の名家の娘さんだったのに、気の毒なことに、お父さまが亡くなられて、病気のお母さまを抱えて、ベネディクト家へ侍女として働きに来た人でした。


 お父さまが亡くなったという共通点があったので、いっぺんに仲良くなって、彼女のピアノに合わせて、みんなで年越しの歌を歌いながら、あの、ちょっと飛び上がって左足のかかとを右足のつま先で2回蹴るダンスを楽しみました。


 あれって、胸を必要以上に張って両手を広げてやるから、結構難しいけど、上手くできたら達成感が半端じゃないでしょう?


 みんなで、キャーキャー笑いながら踊ったんです。



 あんまり楽しそうだったので、見ていた男性陣が、男役のダンスはあるのか?って訊いて来て、確か、お父さんはこんな感じで踊ってたって言ったら、これまた器用に再現してくれる人が現れて、一番最初に女役を覚えたメイドさんと一緒に踊ってくれたんです。



 大晦日の晩に、お父さんとお母さんが、こんな風に踊っていたなって思ったら、涙が出てきました。



 皆さんが、慌てて、


「どうされましたか?」って訊いたので、

「何でもないんです。両親が、こんな風に踊ってたなって思ったら、ちょっと、ね」


って、笑って誤魔化したんですが、ピアノの侍女さんが、


「泣きたいときは、泣いたら良いんですよ」


って、抱きしめてくれたので、嬉しくって、余計に泣けてきて、周りの方にオロオロされてしまいました。



 申し訳ないことをしました。



 でも、それほど、あの二人のダンスが上手だったんです。




 お父さんが生きていた頃、お母さんや私と一緒に、年越しの踊りを楽しみましたね。



 後で、パメラたちのお家にはそんな習慣はないって聞いたんですが、あれって、いかにも新年を迎えることを寿いでいるようで、私は大好きです。



 お父さんが、お母さんを見つめる目が大好きでした。

 優しく頷きながら、せえのって感じで同時にジャンプして、かかとをつま先で軽く蹴って、同時に着地するときの、お父さんの得意そうな顔とお母さんの満足そうな顔が大好きでした。



 お母さんも、大好きなんでしょ?


 だから、お父さんが死んでからも、大晦日の晩に、お母さんがお父さんの代わりに男声パートを歌って、男役を踊って、二人で年越しの踊りをしているんだと思うんです。


 今年は、お母さん一人だから、寂しい年越しになったでしょう。

 お母さんを独りぼっちにして、ごめんなさい。


 でも、私は、お母さんが1人でもあの踊りを踊ってるって確信しているんです。



 だって、私も、部屋で一人で踊ろうと思ってたんだから。


 まさか、ベネディクト家でこの踊りを披露することになるとは、そして、メイドさんたちに教えることになるとは、思いもしませんでした。



 きっと、来年以降、私がここへ来なくても、皆さんは、このダンスをするんだと思います。


 それほど、皆さんは完璧に覚えてしまったんです。


 来年の大晦日までに忘れる人もいるでしょう。でも、こんなのは、体が覚えているものだから、音楽を聞いたら踊れるはずです。



 お母さん、何だか私は、ベネディクト家へ年越しの踊りの布教に来たみたいです。



                       1月1日


      ベネディクト家でダンスの布教をした エヴァ



PS 今朝、ダイニングルームへ行ったら、使用人の皆さんがとても親しく感じました。

 

 メイドさんなんか、「昨日は、楽しいダンスを教えて下さってありがとうございました」って、お礼まで言ってくれたんです。

 

 ピアノの侍女さんが、

「昨日はありがとうございました。あれから、あの曲の楽譜を作ってみたんです。

 良かったら、もらってください」

って、手書きの楽譜をくれたんです。

 もしかして、寝てないんじゃないでしょうか。心配になるほどです。 


 でも、耳で聴いた曲を簡単に弾いてしまうってのもすごいけど、それを採譜してしまうってのもすごいです。

 この方は、音楽の才能があるんでしょう。

 

 ウイリアムさまが画家のパトロンになったみたいに、ジークが彼女のパトロンになって、音楽の道を進ませてあげれたら良いのですが……。



エヴァは、年越しの踊りの布教をしました。

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