表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/103

(7月11日付けの手紙)

7月11日付けの手紙は長いので、分けてアップします。

お母さん


 お母さんは、もうじきテストがあるので学園は勉強一色になってると思うでしょう?


 ところが、そうでもないんです。


 

 学園は、今、ジークフリード・フォン・ベネディクト公爵閣下の噂で持ち切りなんです。


 

 彼のことは前に手紙に書いたんだけど、本当ならこの4月に入学するはずだったのに、何故か来るのが遅れてて、結局、昨日(7月10日)、ようやく学園に現れたんです。



 昨日は土曜でしたので、私は、山で取った薬草をイースレイの薬局へ売りに行ったんです。



 学園長や生徒会長は、3日前から学園の馬車で州都オンネーまで迎えに行ったので、残った教師や生徒は、午後3時に管理棟の前の広場に集まることになっていたんです。


 そういう滅多にないイベントがあると思えば(しかも、テスト前です)、イースレイの町へ遊びに行こうという生徒は、そうそういないわけで、つまり、その日のイースレイは学園の生徒がいないことになります。


 イースレイの町で学園の生徒に会いたくない私には、またとないチャンスだと思ったんです。


「行くなら今日だ」とばかり、それまで貯めていた薬草をマジックリュックに詰め込んで、1時間かけて歩いて出かけたんです。



 結構貯まっていた薬草を全部売ったら思ったより良い値がついたのでホクホクして、さあ帰ろうと思ったときです。




 駅馬車の駅からプラチナブロンドの髪で菫色の目をした美少年が出て来たんです。


 まるで、地上に降りた天使のような少年です。


 かなり大きな鞄を手に持ってましたので、転入生だとピンと来ました。



 彼には土地勘がないのでしょう。あたりをキョロキョロ見回して、近くの人に学園への行き方を尋ねています。

 少年に訊かれた人が、何やら説明していたんですが、面倒になったんでしょう、私に目を留めて、「あの子も学園の生徒だから一緒に行くと良い」って言ったんです。



 私はそんなに目立ってるわけじゃないんだけど、イースレイでは、年頃の少年少女は、みんな学園の生徒だと思われてるんです。


 駅から学園までは、お貴族さまなら(平民でも、荷物が多いときは)馬車を雇います。


 上位貴族は、そもそも家の馬車で来ていますので、駅馬車を使うことはありません。駅馬車で着いた中位から下っ端貴族そして平民が、駅から学園まで馬車を雇うのです。


 もっとも、事前に学園に頼んでおけば、学園の馬車を借りることもできるのですが、生憎、この日は、公爵閣下を迎えに行ってますので、借りることができなかったんでしょう。


 

 だから、馬車を雇うことを勧めました。



「向こうに馬車屋があるでしょう?

 あそこで馬車を借りたら良いですよ」

「君は、どうするの?」

「私?私は、今日は歩いて帰ろうと思ってるから……ご一緒できません。

 大丈夫。学園までの道は、馬車屋がよく知ってますから。

 荷物も大変でしょうし、皆さま、普通、馬車を使いますよ」

「一緒に乗って行かない?」

「冗談はよしてください。

 私、平民なんです。お貴族さまと同席するなんて、分不相応です。

 それに、道々やりたいことがあるんです」

「何をしたいの?」

「道々薬草を取って行こうと思ってるんです。今日は、道が空いてるから」

「空いてるって、いつもは混んでるの?」

「ええ、いつもは、イースレイに学園が引っ越してきたみたいになってます。

 でも、今日は、理事長がいらっしゃるとかで、学園長や生徒会長がオンネーまで迎えに行ってますし、残りの生徒は3時に管理棟の前に集まることになってるんです。

 だから、誰も外出しません」

「でも、君は外出してるじゃない」

「私は、興味がないことには、参加しないことにしてるんです。

 理事長さまより、薬草の方が興味あるし」


 軽くウインクすると、輝くような笑顔とともに、とんでもない台詞が返って来ました。


「じゃあ、私も君と一緒に歩いて行こう」


 さすがに慌てました。


「荷物はどうするんですか?

 普通に歩いて1時間はかかるんです。こんな大きな鞄持って歩くなんて無理ですよ」


 そう言って抵抗すると、


「荷物だけ、馬車屋に頼めば良い」ですって。



 5分後、馬車屋に荷物を渡して(今日中に学園まで運ぶよう頼んだのです)身軽になった彼は、学園へ連れてって欲しい、つまり、道を教えてくれ、と言ったんです。


 

 外見は天使でしたが、やっぱり貴族です。結構強引でした。





 私たちは、歩きながらいろんな話をしました。

 

 自己紹介から始まって、趣味、好きな食べ物、好きな作家、好きな教科、などなどです。

 


 その結果分かったことは、彼の名前は『セシル』で、年は15歳、先日まで病気療養のためホルムハウト王国にいて、ようやく学園へ来ることになったってこと。


 私の名前がエヴァで年が15だというと、「同い年だ」と、素直に喜んでくれました。


 平民で奨学生だというと、「優秀なんだな」と感心してくれます。

 


 クラスメートは上から目線で見下す人ばかりですし、生徒会役員は、腹の中で何を考えているか分からない人たちです。


 この学園へ来て、男子とこんな普通の会話をしたことがなかったことに気が付きました。




 だんだん警戒感が薄れて来て、いつもスレイ山で薬草を採取すること、取った薬草は保健室のフォード先生が買ってくれること、余った薬草を貯めていて、さっきイースレイの町で売ってきたことなんかを話しました。


「お山は、良いわ。木も草も土も岩も川もみんな存在感があって、風も空気も清々しくて、町と全然違うの。


 学園で他人の顔色見て右往左往してるのが、馬鹿みたいに思えるわ」


「エヴァは、山が好きなの?」


「ええ、大好き。山懐に抱かれると、心が洗われるように感じるの。


 それにね、黒い森があるでしょ。森に入っちゃダメって言われてたんだけど、ちょっとだけ入ったら、古い巨木があったの。 


 あの木は、絶対、森の王さまよ。

 森中の木々が従ってるし、あの木の辺りは魔力が濃いの」


「よくもまあ、無事で帰って来れたね」

「入ってすぐのところだから、絶対迷子にならない辺りなの。先生には内緒だよ」

「了解」


 入ると生きて帰れないと言われる黒い森に、私が入ったと聞いて、セシルは呆れたようです。


 でも、私としては、スレイ翁の意に逆らわなければ、迷子になんかならないような気がするんです。お父さんの友達だったスレイ翁と友達になれたおかげで、ツノウサギが送り迎えしてくれるから。

 スレイ翁に受け入れてもらってるって、己惚れても良いと思うんです。

 

 何しろ、スレイ翁の辺りは、人間が入っちゃいけない場所――神域――なんです。そんなところへ入ることを許されているんですから。



 初めて会った少年にスレイ翁の話をしてしまったのは、彼が他の人に話さないように感じたからです。 


 でも、際どいところでした。


 貴族と付き合うには、本音を隠しておかなけりゃならないのに。


 私って、馬鹿だわ。




 ちょっぴり後悔しましたが、どっちにしろ、学園に着いたら、お付き合いしない人です。旅(イースレイから学園までの小旅行)の恥はかき捨てとばかり、気にしないことにしました。


 

 そうして、やってしまったポカはスルーして、薬草採取に専念することにしました。






ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

これで、主要な人物が全員登場したことになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ