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(7月11日付けの手紙)その2

イースレイの町から学園までの小旅行の話です。

 薬草は、思ったとおり、たくさんありました。


 道々、薬草を見つけては採取し、名前と効能を教えながら、片っ端からリュックに放り込んでいると、彼は目を丸くして訊いたんです。


 彼は、この小旅行の間、驚きっぱなしです。

 

 私って、そんなに変わってるかな?

 普通だと思うんだけど。


「随分入るね。それって、マジックバックなの?」

「そうなの。DIYで作ったから内緒にしといてね」

「マジックバッグをDIYするなんて。

 学園ってレベルが高いって聞いていたけど、本当ほんとなんだね」

 

 こっちは、禁書庫から勝手に写して来たなんて言えないから、素直に感心されても困るわけで、いや、事後承諾もらったから、もう話しても良いのかなぁ。



 それにしても、事前にもっと上手い言い訳を考えておくべきだった、と後悔しました。

 

 今後のために、ちゃんとした言い訳を考えておこうと思います。


 


 こういうときは、笑って誤魔化すに限るわけで、意味もなく笑うのは結構大変でした。

 


 

 途中で、喉が渇いたから、マジックリュクからポットを取り出して、お茶を飲みました。

 温かいミルクティーです。


 セシルにご馳走すると、彼はミルクティーよりマジックリュックの性能に驚いたようです。


「これって、状態維持の魔法がかかってるのか?」ですって。


 特段、コメントしませんでした。


 だって、マジックバッグをDIYしたことであれだけ驚かれたんです。


 今更、何を言ってもねえ?



 下手に説明すると、禁書庫に勝手に入ったことや、鍵が開け放題だってことまで白状しそうです。


 ここは、バックレるに限ります。



 

 男爵令嬢ズと馬車でイースレイに行ったときに窓から見ていた薬草を探しながら、あちこち脇道に入って戻るということを繰り返して、ようやく学園が見えた時には、管理棟の壁の大時計が4時を指していました。




「やったわ。計算どおりよ!」


 ガッツポーズすると、セシルが怪訝な顔をしました。


「何が計算どおりなんだい?」

「4時なら理事長を迎えるセレモニーが終わってるでしょ?

 学園にいなかったから出れなかったって、言い訳できるじゃない」


 そう言うと、何とも複雑な顔をするのです。



 

 まあ、些細なことは気にしないのが、私の私たる所以です。

 

 楽しい小旅行の終わりに向けて、学園を目指して歩いていると、近づくにつれて違和感を感じます。



 よくよく見ると、管理棟前の広場に、まだ、生徒が大勢いるのです。


 もしかして、まだ、終わってない?




「シクったわ。まだ、いるわ」


 思わず出た本音にセシルが朗らかに笑います。



「終わってなかったみたいだね?」



 クソっ。終わっていて欲しかったのに。


 あんたも、終わってた方が、管理棟に入りやすくて良かったでしょうに。気の毒だね。と言おうとして、気が付きました。



 見ると、学園長もケント会長も門も辺りに立っているのです。


「学園長たちがいるのに、セレモニーが終わってないって、どういうこと?」


 独り言に、答えがありました。



「理事長が、向こうの想定外の方法で来たってことさ」

「想定外の方法?」

「そう、イースレイの駅から歩いて来るなんて、誰も考えなかっただろうね」



 私の隣で可笑しそうに微笑む美少年は、さながら黒い天使でした。




「ジーク!」

 

 ケント会長の声が聞こえると、隣であっけらかんとした声がしました。



「やあ、ケント、元気だったかい?」


「元気だったかい、じゃない。

 一体、どうやって来たんだ?  


 学園長と僕は、オンネーまで迎えに行ったのに」


「それは、必要ないって、言わなかった?」


「おっしゃってました。ですが、駅馬車は、お体に障りますし……」と、学園長が横から割り込みます。


「少なくとも、イースレイの町からは馬車で来ると思ってた」


 茫然するケント会長にセシルがサラリと答えました。



「たまたま、同行者に恵まれたんだ」



 私を巻き込まないでよ。って言いたいけど言えないジレンマ。



 ケント会長が、鋭い目つきで私を見やります。


 

「同行者って?


 エヴァ、君、何てことしてくれたんだ。

 ジークを見つけたら報告するようにって、連絡が行っただろう?」


「申し訳ありません。あいにく、学園にいなかったもんで、そういう連絡を受けることができなかったんです」


「で、イースレイから歩いて来たのか?」



 怖っ。本気で怒ってる。


 知らなかったんだもん。

 

 この美少年が公爵閣下だなんて、誰が想像するのよ!

 


 私は、悪くない!


 名前だって、ジークフリートじゃなかったもん。セシルって言ってたんだもん。


 ジークフリード・フォン・ベネディクト公爵だって言ってくれれば、首根っこを掴んでも馬車に乗せて、最短で帰って来たのに。



 ジークフリートさまは、学園長やケント会長が迎えに行ったんです。


 だから、私は、セシルをジークフリートさまとは別の転入生だと思ったんです。




 管理棟の前に並んだ生徒たちの視線が痛かったです。


 雑用係になったときも悪意を感じたけど、今度は、あの時より数倍パワーアップして、にらまれました。



 学園当局は、新入生ではあるものの理事長さまでもある公爵閣下を歓迎すべく右往左往して、結局、公爵にしてやられた格好になったんです。


 そして、何と、彼の突拍子もない行動に、私も巻き込まれていたんです。





                           7月11日


                全校生徒に敵認定された エヴァ





エヴァは、全校生徒に敵認定されてしまいます。

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