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Raison D'être  作者: 澪音
Ⅰ.すべての始まりは──── その③
20/47

Page.17「一つの提案」

 俺とクレアが家に帰ると、何やら騒がしかった。


 いつもの部屋に向かうと、その理由はすぐに解った。


「みんな勝手にクレープ食べるとかず〜る〜い〜!」

「いやいやいや駄々っ子か!?」


 全身を使って猛抗議をしているキリカに対して、クロエの鋭いツッコミが飛ぶ。


 駄々っ子状態のキリカはこうなると手に負えない。


「え、えぇと……?」

「放っておいても大丈夫だぞ、たまにあることだし」


 何が起きているのかいまいち理解出来ていない様子のクレアに俺は、そう一言だけ言っておいた。


 シエラはというと、クロエとキリカのやり取りをただただじっと見ているだけのようだ。


「てか、『食べててもいい』って言ってたんだから別にいいだろうが……」

「むぅ……まさか私が戻る前に食べちゃうとは思わないじゃんかぁ……」


 あぁ、そういえば『戻ってくるまで待ってて』って言ってたか……。


 にしても、相当ショックだったんだな……珍しく、クロエにここまで不満を言い続けてるってことは。


「はぁ〜……ったく……フゥ、少し手伝ってもらっていいか?」


 いつも以上に長い溜め息を吐いてから、クロエは俺の方に向き直り、そう言った。


 ……気付いてはいたのか、俺らが帰ってたこと。


「ん、まぁいいぞー。一応、何を手伝わせるつもりなのかは大体分かってるし」


 これと似たようなことが起きたときのクロエがとる対処法はいつも決まっている。


「なら話は早いな。よし、行くか」

「おう。……んじゃ、ちょっと出かけてくるから、クレアはここで待機な。駄々っ子状態のキリカは任せた」


 クレアにそう言い残すと俺は、先に部屋を出ていったクロエを追いかけた。


「え、ちょっ……フゥ君……!?『任せた』って言われても困るってば!」


 ────クレアのそんな言葉を背に受けつつ。


─────────────────────


 帰宅したばかりのフゥを連れ、俺は“買い出し”に行くことにした。


「とりあえず訊くけど、今回は何があってキリカはあんなことになったんだ?」


 歩きながら、フゥにそう尋ねられる。


「……シエラと一緒に帰ってたらいきなり後ろからキリカが来て、キリカと分かれたあとに何したか話してたらああなった」


 まぁ、今回は確実に俺が悪い。


「本当なら、買って待っておくつもりだったんだけどな……予想外のことがあったわけだし」

「カインが現れたことは、確かに予想外だったな」


 そしてそのままの流れで食べてしまった、というわけだ。


「んで、自分が悪いと思ってるからその責任をとって、材料買いに行ってクレープ作ってやるってとこか」

「全部お見通しかよ」


 言い当ててみせるフゥに思わず俺は笑いながら、そう返した。


 そんな俺を見てフゥは────


「クロエって滅多に笑わないよなー?」


 ────そう訊いてきた。


「ん、そうか?」

「少なくとも最近、あんまり笑ってるのを見てないのは事実だ。そういやすげぇ自然だったな、買い出しに行くときのやり取り。……前までは俺にメモ渡して買いに行かせてたのに」


 あっ、確かに。


 毎回、外に出ない俺に代わって、時々だが外に出ているフゥに買い出しを頼んでいたのに、今回は珍しく自分から行ったな……。


「クロエの周りの環境が急に変わったからかもな」

「それだけで俺の行動も変わるものか……?」


 シエラを連れ出すと決めてから変わったことは確かに多かったけど……。


「案外、そういうものなんじゃねぇの?よく分からないけどさ」


 テキトーか。


「それで、何をどれだけ買いに向かうつもりなんだ?」


 んー……そうだな……。


「キリカが何の果物を好んでるのか分からないな……」

「アイツは果物なら何でも好きそうだけどな」


 フゥがそう言うならそうか。


「なぁフゥ、クレアと一緒に食べてたヤツには何が入ってた?」

「そう、だな……色々入ってたけど……全部までは憶えてないからまぁ、市場に着いたら言っていくことにするかー」


 憶えてる限りでいいから今言ってくれ……。


「そういえばフゥが言ってた“探し物”は見つかったのか?あと、クレアの“忘れ物”も」


 ふと思い出し、俺はフゥにそう尋ねた。


 するとフゥは、少し表情を曇らせて────


「……俺の方は見つからなかった。あ、クレアの方は見つかったけどな」


 ────と言った。


「それはつまり……あの“大災厄”では死んでなかったってことか……?」


 フゥは「さぁ?」と口では言わず、両手を上げて、首を傾げる仕草で表した。


「……もし、フゥが探してた名前の人が……フゥやクレアと同じような形で今も生きているとしたら、どうするつもりなんだ?」


 俺はふと湧いた疑問を口にする。


「少し前の俺なら、“殺す”って即答してたんだろうなー。けど今は……分からないな……」


 考え込むような素振りを見せつつ、フゥは言う。


 “殺す”という選択肢が真っ先に出てくるというのは、いくらなんでも物騒にもほどがある。


「出来れば殺さなくて済む選択肢が出てきてくれることを願うよ、俺としては」

「そうだな……そんな選択肢、選ばないようにはするよ」


 まだ少し、フゥの表情が曇ったままなのが気になり、声を掛けようと思ったが────


「お、着いたな。さて、俺が食べたヤツに入ってた果物は何だったっけなー?」


 ────と、市場についた瞬間にいつもの表情に戻ったため、声を掛けるにも掛けれなくなってしまった。


 フゥは一体、“何”を抱え込んでるんだ……?


─────────────────────


 必要な材料を買い終え、家路についているとふと、“ある考え”が脳裏を過ぎった。


「ん、どうかしたかー?」


 急に立ち止まった俺を心配してか、フゥが声を掛けてくる。


「あぁいや、ちょっと考え事をしててさ……」

「何かあったのか?」


 不思議そうな表情を浮かべているフゥに俺は、“思いついたこと”とそこに至った経緯を話した。


─────────────────────


「……ていう感じのことがあったからってのと、あとは俺の個人的興味だな」

「俺らが教会で色々やってるときにそっちではそんなことがあったのか」


 久々に外に出て、色んな出来事に巻き込まれるとは……俺もつくづく不幸なヤツだな。


 ────まぁ、誰かの代わりにその不幸を受けてるようなものなんだし、別に悪い気はしないけど。


「にしてもクロエ、お前意外と人と話すの平気じゃねぇか」

「……ん、そうか?」


 んー……あまり自覚はないな。


 けど、フゥがそう言うならそうなんだろうな。


「市場の人とのやり取りも普通だし……全然大丈夫そうだな。……まぁとりあえず、お前の“提案”、俺は賛成するぞ」

「そっか……じゃあ、ご飯食べ終わってからでも、言ってみるかな」


 肝心のクレープは……俺の“提案”を聞いてもらったあとでもいいか。


─────────────────────


 家に帰るとキリカが晩ご飯の支度をしているところだった。


「ただいまー」

「ただいま……?」


 なぜか疑問形になってしまった。


「クロエ君はなんで訊いちゃったの……まぁいいや。おかえりなさい、2人とも!」


 あ、いつものキリカだ。


 ……これ、わざわざクレープ作らなくても大丈夫なんじゃないか?


 いやでももう、材料買ってきちゃったしな……仕方ない、作るとするか……。


─────────────────────


「「「ごちそうさまでした!」」」


 キリカお手製の晩ご飯はどうやら、シエラやクレアにも好評だったようでだ。


 うん、今日も美味しかったな。


 ……さて、忘れないうちに言っておかないと。


「ん、そういえばクロエ、“アレ”言っといた方がいいんじゃないか?」


 フゥがそんな感じに切り出してくれると話しやすくて助かる。


「ん、なになに〜?」


 食べ終えたお皿を運ぼうとしていたキリカがこちらに目を向ける。


 ソファーでウトウトしている様子のシエラやクレアも俺の方に顔を向けた。


 あの……一斉に視線を向けられるとちょっと困るんだけど……。


「えぇと……なんていうか……ちょっとした“提案”、なんだけど……」


 ふっ────と軽く息を吐いてから俺はその“提案”を口にした。


「────“旅をしてみよう”って言ったら、みんなは、ついて来てくれるか?」

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