特定商品
スグで一泊をし、やっかいなバンブートレントを伐採した事で村人に感謝されたものの、自分で卸した道具屋で傷薬を買う間抜けな失敗をした昭人は、医薬品の常備を心に誓いスグを後にした。
計四日をかけてサン・トメに戻ってきた一行は、仕入れた竹材の一部を造船所に持ち込み大絶賛を受けた。
魔物の素材である竹材は船同士を繋ぐアーム部分としてかなり優秀だった様で船を完成させる事が出来るとの事。
懸念が晴れ宿に戻った昭人は、竹材を部屋に持ち込みナイフで加工していく。船の問題は解決したが、運転資金の乏しい『冒険商社・砂海航路』としては商品価値を上げ、竹材を少しでも良い値段で売る必要があったためその下準備である。
「火で炙って……くぅ細かい作業は目にクるな」
朝、うっすらと目の下にクマを作った昭人と一行は竹材と昨夜作った試作品を木箱に積み込みギルドを訪れる。
「えっと、あぁ特定商品登録したいんですけど」
受付にはギルド登録で担当した職員がいたので、昭人が声をかける。
「あなたは先日登録に来られた……Gランク会員が特定商品を見つけたと言うのですか? では商談部屋に移動してお話を伺います」
ザリガニが竹材の入った木箱、昭人は試作品の入ったそれをソフィアの前に置くと、話を切り出す。
「今回登録したいのは、最近スグで採れるようになった竹と言う素材です。これは一般的な材木とは性質が異なりまして、例えば……」
「その前に確認をよろしいでしょうか? 確かに特定商品は誰でも申請する事が出来ますが、それなりの手数料をいただきます。ただの素材では利益が出るどころか赤字になってしまいますけどその辺りは理解されてますでしょうか」
職員の当然の疑問にもすぐに答える事はせず、ソフィアが一つずつ試作品を机に出すのを待って、昭人が説明していく。
「竹と言う素材は、強度が有り柔軟で加工が用意です。これは本来蒸し料理に使う調理器具です」
「この程度ならすでに他の木材でも金属でも作られています。やはり申請は止めておいた方がいいのではないですか?」
一攫千金を夢見て現実が見えなくなるのは、商人に成り立ての新人がよく犯す失敗の一つである。幾多の新人を見てきたギルド職員としてはの申請費用を無駄にする事になる昭人を思っての言葉だったが、あいかわらず聞く耳を持たない目の前の新人に(失敗を糧にするのも勉強か)と適当な相槌をし始める。
「蒸し器、ワッパと言うのですが、これにガラスをはめ込んで明かり取りにしたらどうです?」
「ほう。円形の窓とは変わったデザインですね。新し物好きな貴族が欲しがるかもしれません」
「次は単純な水筒です。是非中の水を飲んでみて下さい」
「ただの水を飲むんですか? ……独特の薫りが」
「その水筒も花を挿せば花活けに。竹ひごは弓に、これは薄く切った竹を編んだ物ですが、カゴにも食器にする事も出来ます」
「しかし材木をここまで薄く加工するには熟練の技術が……」
職員の否定の言葉を遮り、昭人は手にしたナイフで机の上の竹材を唐竹割りにする。
「素人でもこのとおり。確かにおっしゃる通り、取り替えの利かない素材ではありません。そこでお聞きしたいのですが、この応用力と、独特の風合い、スグでしか採れない希少性は特定商品に申請するに値しないでしょうかね?」
ここに来てようやくギルド職員は理解する事となる。昭人が売ろうとしているのは『竹材』と言う現物では無く、その加工品を含めての価値だ。他人と違う特殊性を追求する貴族であれば飛びつく可能性が高いし、一度世に出ればそのまま一気に広まる可能性を秘めている。
「……確かに特定商品として申請するに値する商品でしょう。しかし特定商品なんてよく知ってましたね?」
一つ息を吐き、ソフィアやザリガニと拳をあわせる昭人。社会人として生活してきた彼もここで緊張の糸が切れたのか、地の口調に戻って答える。
「半強制で購入したギルド冊子だよ。もったいなかったんで読み書きの勉強になるかと隅々まで目通したさ。なんで口頭説明の時に特定商品の説明はしなかったんだ?」
「それはたんに使われる事がないからですよ。商人にとって利益を出す商品は独占・秘匿するのが当然。
自分の専門とする商品で無い発見をし、その航路に廻すだけの人材を持ってないギルド員が利用するだけの制度でしたので登録説明では省かせてもらっているのです」
ここから申請や単価辺りの報奨金の説明を一通り済ませると、朝一番にギルドに来たはずが太陽がだいぶ高く昇ってしまっていた。
「では、自らおっしゃりましたように代用品、変わり種としての流通から始まりますので、金額は少量からとなりますが今後五年間、交易量に応じてギルドカードに入金いたします」
「さて、目先の金にはならなかったが、とりあえずは成功だ」
「独占すれば、もっとお金が儲かりそうだったのに本当によかったの?」
ギルドを離れた一行は、屋台で買い喰いをしつつ街を歩いていた。
「船の上でも軽く説明したが、独占に近い販売契約結んでスグを拠点に稼ぐならいいが、俺たちはこれから冒険しようってのにそれじゃまずいだろ? それに竹って素材は優秀すぎてな。万が一ブームなんて熾きたら俺たちだけじゃとても輸送しきれないんだよ」
「そっか。一カ所で留まっていたら冒険にならないもんね! これからどうしよっか?」
「船も鎧も完成するのは明日だから、スグに交易しに行くにしてもそれを受け取ってからの方が効率がいいか……そういえばバンブートレントと戦っていた時、紙が切れたって言ってただろ? 今日はそれを補充して、ついでに首都観光するか」
何気に借金返済のチャンスだったが気付かない振りをする昭人
「観光と言えば、ここの街並は興味深いですね。一陣の移住者が作った青色地区、そこを土台に大通りの商業と住宅街ができ、最後に城。と複数の街が結合しつつも明確に区分けされついるんですね」
「言われて見ればそんな感じだけど、珍しい事なのか?」
「隔壁があるからかな。紙を売っている店は隔壁の中にあるのよ」
そこは言葉通り土を盛って出来た壁を削り店舗としていた。
「ヤンさんこんにちわ、補充しにきました」
「あいよ。ソフィはいつも通り蓄魔紙でいいね」
「へぇ紙以外にも色々あるんだな。おっこれって水石だよな」
一歩入ると照明に明るく照らされた店内はソフィアが普段から愛用している紙素材の媒体以外にも、拳大の石や宝石、魔物の骨などが几帳面に展示されており、膨大な品数に比べ清潔感のある店になっていた。
年齢不詳になる程歳を重ねた店主は、昭人を値踏みするように睨みつける。
「久しぶりに来たと思ったら変なの連れてきたもんだね。ソフィが家飛び出したのも驚いたけど、まさかそっちの兄ちゃんが唆したんじゃないだろうね」
「家を離れる事にしたのは、私がいるとバカ親父が働かないからだし、こっちは私と一緒に商会を作ったパートナーだよ。
昭人、ヤンさんはお爺ちゃんの古くからの友達でこのお店の店長さん」
日本人の癖が抜けず、頭を下げて会釈をする昭人。
「腐れ縁なだけだよ。それでアンタは触媒の事も知らないでどうやって生活して来たんだね」
「蓄魔紙の補充もだけど、その事でヤンさんに教えて欲しいの」
魔法の根本である属性魔法を使えないのに、魔力を持つ昭人の現状を説明するソフィア。老婆は深く考えるように沈黙するが、明確な答えを持っていなかった。
「ふむ属性が無い人間なんて話はワシも聞いた事が無いの。未開の地に住んで魔法に触れた事が無い原住民でも、調べれば魔力を持っているし、すべからく属性があるもんじゃ」
机の下から金属性のコップを三つ取り出すとそれぞれに勧め、自らも口を湿らせて改めて昭人に向かい合う。
「魔力とは形を持たない力、そして属性と言うのは言わばその力の色の事じゃ。赤ん坊の頃でも薄いながら色はあり、成長の過程でその濃淡はあっても個人の色と言う変えられない物が決まる。生まれてきた以上は無色と言うのは有り得ん……はずなんだが」
「使えたっていっていいかわからないんだけど、そこにある水石は魔法ではないのですか?」
「そっちに陳列してあるのはまだ何も込めてない蓄魔石だ。魔法……一から教えた方が早そうだな。
よいか、ソフィの使ってる紙も水石も形はどうあれ元は同じ触媒をつかっとる。魔法を使うにはその触媒が必須なんじゃよ。
お主が水石と呼んで一般的にも普及している物は生活の中で使いやすいように先に魔法が込めてある蓄魔石の事じゃ。すでにある物を出現させるだけだから属性も魔力も必要としないからお主でも使う事は可能じゃ」
昭人が生きていく事を優先させ、知ろうとしてこなかった知識がここにきてようやく明らかになった。しかしそれは同時に、彼が他人よりも力を持たないと告げる宣告でもあった。
「じゃっじゃあ、無属性魔法って無いですかね? 無限収納、瞬間移動、鑑定、それに召還とか」
何かにすがるような質問も、老婆の呆れた表情で返されてしまう。
「いい年してヤポンのファンかい? あれは小説の中の話だよ。ソフィ、本当にこんな男で大丈夫なのかい?」
「ヤポンは万の筆を持つと言われた呼ばれた天才小説家よ。もう亡くなって五十年経つのに、未だ増版し続けていて、幼少期に読んだ事無い人なんていないんじゃないかしら」
――私もヤポンのファンとはいえない雰囲気ね――
昭人の実状を知らないソフィアはお茶を濁す事しか出来なかった。
「それ以上の事が知りたいのなら、やはりユリシア大陸に行くしかないじゃろう。まぁいいさね、ソフィは魔法の込めていない蓄魔紙をその場で即時発動させるタイプだけど、水石みたいに魔法をあらかじめ刻んである商品を買っておけば、お主でも使う事が出来るぞ」
「昭人も剣の腕はなかなかのもんだし、魔法は私がサポートするわよ。二人しか居ない商会なんだから、今更逃げるなんて許さないわよ」
「わたくしも商会立ち上げメンバーの一員として、微力ながらお手伝いいたします」
俯いていた昭人にも年若いソフィアの気遣いは理解出来、未成年に心配されてしまう自分に笑ってしまった。
――心配してくれる少女と、執事風味のよく喋るロボット、それにこれまで一緒に生活してきたライマール。これ以上求めたら罰当たるってもんか――
顔を上げ、ソフィア用の蓄魔紙と、昭人でも使える魔法が込められた石を緊急用に幾つか購入。
「ヤンさんならもしかしてと思ったんだけど、わからなかったね」
「いざとなったら無属性魔法の自作でもするさ。アイテムボックスとか言って無限に収納出来たらどうする? 交易でがっぽがっぽだぞ」
「ふふっばかね〜量も大事だけど利益になるのは距離よ距離。収納に瞬間移動組み合わせなきゃ。一瞬で大量の積み荷を遠距離に運ぶ運送王になれるわよ」
「わたくしが思うにその手の物語で重要なのは目利き、鑑定ですよ。食料品、香辛料、武器防具、一流の商人が長い年月をかけて身に付ける技術でもって正しい価値を知れば、赤字が一切無くなる訳で情報を制する物が……」
夕暮れが二人と一匹の影を引き延ばす。
そろそろ1章が終わるので、投稿スピードをあげます。
その後、前後の整理を付けながら書いていくので、またストック期間に入りますが(..;)




