仕入れ作業
初めて来た街の初めての食事を、整然とした市街区で摂るか主成分を雑踏で出来た青色地区で摂るか……
「土地の物は屋台で分かるって言うし、行ってみるか」
一人でお上品な店に入る気にも成れず、愛用の葉巻をくわえながら屋台をハシゴしていく昭人。橙が入った汁物、肉汁たっぷりな何かの串焼き、ひたすら甘い餅の様な物。存分に買い食いをしつつ、気に入ったドライフルーツをライマールのお土産に買い込むついでに、思い付きで昭人が思い描く交易商人の真似をしていた。
「おっちゃん、何か利ざやのデカい商品無いか?」
「んなもんあったら、人に隠して自分で運ぶわ。 っと毎度。
そうだな、各種生産地と、職人の揃う街、プルコ大陸の玄関口になるこの街。そういったホットラインを狙うのが、当たり前だが鉄板だな」
「これはコーヒーか。……しかし、このコップちょっと持ち辛くないか?」
球形の豆を煎って作られたコーヒーは輪切りにした青竹に入っていたが、取っ手も無く手が滑りやすい上に、独特の匂いがコーヒーに全く合っていなかった。
「そいつはスグって村で最近穫れるようになったらしくて試しに買ってみたんだが、やっぱり安物買いするよりもしっかりした陶器じゃないとダメだな。兄ちゃんも安易な儲け話なんて夢見るよりも地道に頑張った方がいいぞ」
「そりゃそうだ、んじゃごちそうさん」
おままごとに近い情報収集では流石にピンポイントな情報は得られなかったが、どの屋台でも言われた事は同じ。
植民地として歴史の短いプルコ大陸はそれぞれが複合した大都市が出来上がっておらず、サン・トメやグレイティアなどの消費地と、各種生産地、職人が集まって出来た加工地の三点交易が多いと言う情報が得られただけだった。
彼が交易で利益を出そうとするなら活発な交易路で隙間を探すか、それとも交通の便が悪くて商売相手の少ない二点交易で細かく稼ぐかが選択肢としてある様だ。
昭人はこちらの世界に来て以来、現代知識を商売に大儲けしようと考えた事は何度もあったのだが、上手くいかなかった。
例えば人糞肥料などは、藁や灰などを入れて数年間発酵させて完成する事は昭人も知識として持っていたが、米が無かったので当然藁も無い。何が代用品になるのか。そもそも発酵させる細菌がこの異世界にいるのか。どのタイミングでどれだけの量を入れればいいのか。成功したかの判断。植物毎に変わるはずの肥料の与え方などなど、とても個人が扱える知識ではなく断念した。
石畳を使われているなど所々地球とは違う点もあるが、石鹸・印刷・製紙技術も発展してて街も下水を完備されており――上水は水石で生み出せる為存在していない――清潔な上に、魔法というエネルギー源が有る事を知ってしまっては『現代工業知識にすぐ食いつく野蛮で劣った文明』とはとても思えなかった。
「俺がPCを一から自作して、ネット構築出来る天才だったら……すでにそんな魔法がありそうだ。やっぱり情報揃うまで、冒険交易商人として頑張るとしますか。ザリガニは他に機能とかあったりするのか?」
「交易商に役立ちそうな物ですと精密地図を保存してはいますが、そもそもわたくしが作られた世界には砂の海と言う物が無かったので何とも……一応、位置情報は正常に作動しておりましたのでグレイティア〜サン・トメ間の海路図を取り込んではいますが、情報が圧倒的に足りていませんね」
「俺の世界も、砂は陸地にあるもんだったよ。まぁマッピング出来ているなら、それ見ながら酒でも呑むか」
「晩酌と言えば、お勧めのドキュメンタリーが「お前の機能片寄ってるよな」申し訳ありません」
翌朝、一行は船大工の所に行って話を持ち掛けたのだが、第一声は
「その金額じゃあ原価にもならないぜ」
はるばる砂海を越え、首都のサン・トメに辿り着いた一行は鍛え抜かれた筋肉を惜しげもなく披露する中年一歩手前の船大工に否定されたからと諦める訳にはいかない。
「砂獣に合わせるとなるべく大きい船が必要なのよ。どうにかならない?」
「そうは言われてもこっちも商売だからなぁ」
「可愛いお嬢さんを困らせるもんじゃないよ。あんた、裏のアレはどうだい。置きっぱなしで作業の邪魔だって言ってたじゃないの。譲ってやんなよ」
一行に舞い降りた女神は、船大工の女房然とした姿で現れた。いや、船大工の女房なのだが。
「困ってるのはこっちなんだがなぁ。確かに……しかしアレは安売りする様な物じゃ……あぁわかったから睨むなよ。とりあえず見てから決めてくれや」
船大工に連れられて作業場の奥の奥へと進んでいくと、材木置場の端にホコリまみれの布が被せられている一角にたどり着く。
「これは先代が研究用に造ったんだが、形が独創的過ぎて買い手が着かなくてな。といっても、先代の持てる技術を結集した一品だから、手直しだけすれば今でも現役で働けるはずだ」
親方が布を勢いよく外すと周囲にホコリが舞い散り、現れた物はなんとも珍妙な形をしていた。
今まで昭人が乗っていた小型舟程の幅しか無いのに倍以上に細長く、甲板と船底がある二層船。
そして単体ではバランスを取れなかった為か、棒によってそれが二隻繋げられていた。
「双胴船?」
「なんだそんな名前なのか? 買うにしても規格が合っていないから修理するにも余分に費用が掛かっちまうし、それでも良ければ条件付きでさっきの値段で売ってやるよ」
船大工と共に港に向かい、ライマールの細かい寸法を計って貰った結果、船の中央の棒を湾曲させてライマールの背に載せる形で船を修正する事に決まったのだが。生憎と船の重さを一手に支えるだけの材木が手元に無く、ついでに木材の名産地まで『交易』してくる事を条件に付け加えられてしまった。
「昭人、スグに行きましょう」
「おっおう。木材の村って所だな。それならついでに依頼も受けて行くか」
「ただ移動するのはもったいないものね。さ~て『冒険商社・砂海航路』の出航よ!」
「野郎ども錨をあげろ~。……失礼しました、様式美と言う物も必要かと」
ギルドで傷薬や痛み止めの医薬品を卸す依頼を受け、スグへと向かう。
木材の名産地スグは周囲を森に囲まれた小さな島にたった一つある村で、サン・トメから南に一日下った所にある。首都の近郊と言うその立地とは裏腹に、陸地面積があまりに小さかった為に人口が増えず、のどかさを保っているらしい。
昭人は昨日お土産として買ってきたドライフルーツを手に取ると、ライマールの巨大な口に投げ込んでやる。食事としては足りるはずもないが彼等なりのスキンシップだ。
シャーシャー
「そうか気に入ったか。スグにも美味しい物あるといいな」
代わり映えしない砂の海を滑るように進む一隻。空はあいかわらず澄み切り、雲一つ浮いていない。昭人は理科の授業で習った『水の循環』に疑問を持つが、答えられる人間はこちらの世界には居ないだろうと考える事を放棄した。
「まさか首都を観光しないで即移動する事になるとは」
「装備受け取りに戻ったら、そうする? 観光はいいけど、早く借金返さないとヤバいんじゃなかったの?」
言葉に詰まる昭人。アマリリスに会いたくないからと、その足でグレイティアを飛び出してしまった。とは目の前にいる少女にはとても言えない。
「返済日まではまだまだ日があるから、船の目処が立ったら返しに行くよ」
「そっちは自己責任に任せるからいいんだけどね」
「依頼と、帰りに木材積んで帰ればいくらか稼げるだろうし、ちょっと気になる話聞いてな。上手くいけば運転資金の足しにはなるかも知れない」
小さな島だった為に魔物は一掃されており、スグには外壁も無く建物も一軒家しか無いため通りを歩いていても周囲の圧迫感も無い。
「まずは薬の依頼主の道具屋か。どこにあるのかな」
「空気が美味しいですよ。あっあそこに看板出てますよ。」
「薬持って来てくれたんかい。数も少ない依頼だったのにわざわざすまんねぇ、最近怪我するモンが多くて困っとったんよ」
「何かあったんですか?」
「伐採所に最近新種の樹が出来たんじゃが……兄ちゃん立派な武器持って、腕に自信があるなら薬持っていくついでに行ってみたらどうじゃ?」
「木材を仕入れるつもりだったんですが、なんで傷薬が?」
「見た方が分かりやすいじゃろ。気ぃつけてな」
「最近大量発生しちまってて困ってたんだ。採った物は全部持ち帰っちまって構わんから兄ちゃん頑張って伐採しちまってくれや」
管理された森を歩く一同。周囲は針葉樹が等間隔で生え、日光が地表までしっかりと差し込んで下草も丁寧に刈り取られている。
季節がらなのか樵が斧を振るう度に樹が揺れ、花粉が舞っていた。
「こっちは計画して育ててな。あんたらにやってもらいたいのはあっちに生えてんのだ」
「えっと……何あれ?」
針葉樹の森にポッカリ突如現れたのは、青々と繁り、うごめく竹林。
「木材として優秀な魔物を交配しながら育ててたんだが、この新種は素材も木材として使いにくいわ凶暴だわで村の人間が怪我してまって参ってたんだ」
「仕入れようとは思ってたけど、まさか伐採ってあいつを倒さないといけないのか?」
「繁殖力も強いから、伐り尽くすつもりでガンバってくれや」
竹にしか見えない――以降『バンブートレント』――魔物は短く密集した根を足の様に動かしゆっくりと昭人達へと向かって来ている。
「わたくしは後方警戒と司令塔としてお役に立ちたいかと思います」
「おいザリガニっ逃げんな! とりあえずソフィアは魔法で援護頼む」
昭人が近付いてきた竹人の一本に横凪ぎに剣を振るう。が、力を込めた一撃もその表面に食い込んで止まってしまった。
その堅さに剣を落としはしなかったが、衝撃で痺れた手に顔をしかめる。
「木の魔物には違いないんだし、切ればいいんでしょ。 【風刃】」
ソフィアのかけ声と共に空気を圧縮して造られた刃が飛ぶが、竹人の表面にうっすら傷が入るのみで大したダメージにはなっていない。するとようやく敵として認識したのか、竹人が枝を腕代わりにしならせて昭人を激しく打ち据える。
咄嗟に左腕で防御を試みるが、そこに有るはずの木の盾はサン・トメの鍛冶屋に預けてる。結果、服の袖をたやすく切り裂き昭人の二の腕にミミズ腫れを作る。
「痛ってえだろ!」
剣を両手に持ち替え、本体から生えたしなる枝に振り降ろす。またも剣は振り切る事が出来なかったが、比較的細い枝の中程まで刺さり枝が折れる。
「駄目だわ私の魔法じゃ効かないみたい」
「ソフィアさん雷です!竹は通電性が高いので効くはずです」
その言葉を聞き、昭人は左に離れる。
「わかったわ。 【雷球】」
雷がバンブートレントに吸い込まれると、一瞬の間をおいて縦に弾け飛ぶ。折れた本体から透明な液体が溶け出すと、割れていない竹材が地面に落ちる。
「やったぁ効果は抜群よ」
「今ので周りのが動き出した、囲まれない様ゆっくり逃げるぞ」
その場から立ち去った一行は結局一泊し、自ら輸入した傷薬を買う間抜けな行動もしながらではあったがバンブートレントの伐採を続行した。
横方向の斬撃は地球上の竹以上の硬度を持つため諦め、細い枝を払い一度に複数の敵と戦わない事を第一に動く。初見では手痛いしっぺ返しを喰らってしまった昭人であったが、所詮左右からの枝振りしか攻撃手段を持たないバンブートレント。慣れてしまえば枝に剣を合わせるだけで自滅する相手である。そうやって枝が折れ無力化した相手をソフィアの雷球がとどめをさしていった。
「思い出したんだが、電撃ならザリガニも出来るよな? ほら行ってこい」
昭人がむんずと足下の甲殻を掴むと、竹林の中央に放り投げる。
悲鳴の持ち主が地面に落ちる音の後、次々と竹の爆ぜる音が連続する。
「酷い目にあいました~。鬼畜なマスターに仕えてしまったかもです……」
「蓄魔紙も尽きたからそろそろ戻りましょうか」
周囲に溶け残った竹材をソリに拾い集める
「元手ゼロの積み荷が大量に獲得出来たし、後はこれをどれだけ高く売るかだな」
超有名作品が竹を取り扱う最新話を出しておりましたので、先に投下w
弱小小説にパクリ疑惑も何も無いですが、ストックため込むと被るんじゃないかな?って不安が付きまといますね~




