やり過ぎた
ドゴォォォォン!!!
爆音を轟かせながら、男の身体が吹っ飛んでいった。
それもとんでもない勢いで。
「え?」
俺は、その場に立ち尽くしていた。
ドガァンッ!!
遥か彼方で男が岩に激突する。
次の瞬間には岩が砕け散り、その破片がこちらまで飛んできた。
「……え?」
俺は、自分の足を見る。
(……俺、そんなに力入れてないはずだけど?)
しかもあの勢い。絶対死んだじゃん。
「やべえ~……。」
冷や汗が流れる。
「殺しちゃったよぉ。どうしよ……」
転生して。地面に埋まって。脱出して。姉ちゃんを見つけて。ドロップキック一発。
そして、人一人死亡。
「……。」
こんなにコミカルに物事が進むことなんてある?
「うそーん……。」
もっとこう……段階を踏むものじゃないの?
すると…
「てめえ!!」
「殺せ!!」
「……。」
声のした方を見る。
うわぁ……。
めっちゃ殺気立ってる。しかも「殺せ」とか言ってる。
怖いわ~。男たちは剣を抜いている。
……マジじゃん。
「……フッ。」
俺は一歩前に出た。
そして手のひらを曲げる。挑発するように指を動かした。
「かかってこい。」
(こうなったら、やけだ。どうとでもなれ。)
「まさ君……」
後ろから姉ちゃんの声が聞こえる。
見ている。俺のことを姉ちゃんが見ている。
なら―
「……いっちょ、やったりますか。」
…これフラグじゃないよな?
そう思った直後だった。
「ふざけやがって!」
男の一人が叫ぶ。
「全裸の変態野郎が!!」
「……。」
ぜ、全裸の変態野郎!?
「おいおい、どこにそんな変質者がいるんだよ!」
俺は周囲を見渡した。
右。左。後ろ。
……いない。いないじゃないか。
「おめえだよ!!」
「え?」
指を向けられる。俺に。
「うっそ!?」
自分の身体を見る。
「……」
「……」
「……ほんまやん。」
何故今まで気づかなかったんだ。
俺は最初、土の中にいた。
土だった。土だった。ずっと土だった。
「なるほど……。」
俺は深く頷いた。
「俺は自然だったんだ」
「何を言ってやがる!?」
「……?」
こいつは何を言っているんだ?
まあ言っている俺自身にもよく分からないけど。
「わけわかんねえことを、しゃあしゃあと……!」
男が剣を構える。
「死ね!」
横薙ぎ。剣が俺の首へ一直線に迫る。
「あ。」
やっべ、ボケを考えるのに必死で見てなかった。
(こりゃあ、終わったな)
やっぱりフラグだったか。慣れないことをするもんじゃないなあ。
それにしても、我ながら死ぬ瞬間なのに何でこんなのんきなんだろう。
「いッ!」
カラン。
何かが地面に落ちる音がした。
「……あれ?」
俺は自分の首を触る。手が赤く染まった。血だ。
「……。??」
でも斬れていない。
正確には表面だけが薄く切れている。
「……え?」
俺は首をさする。
「な、な、な……」
そして男を見る。ここで強気のロールプレイだ。
「何かしたか?」
明らかになが多い。どう見ても動揺を隠しきれていない。
俺だって、なんで首が斬れていないのか分からないんだもん。
「てめえ……」
男が目を見開く。
「蟲融人かよ……。」
「は?」
蟲融人?
「誰が蟲人間だ。お前、頭大丈夫か?」
何を言っているんだ。普通に考えて、蟲の人間なんているわけないだろ。
……俺の身体の中には、確かにめちゃくちゃデカいムカデがいるけど。
「俺はどう見ても人間だろ」
幻覚でも見てんのか?
というか――
「俺のロールプレイ、何の意味もなかったじゃん」
「……?」
男が困惑している。その瞬間だった。
スッ――。
男が横へ跳ぶ。
「「ファイアストーム!!」」
「……え?」
次の瞬間。
ゴォォォォォッ!!!
燃え盛る炎の旋風が、俺へと襲いかかった。
「うわああああああ!!」
熱風が全身を包む。
「あづーう!!」
俺は炎の向こうを見る。さっきまで戦っていた男しか見えていなかった。
その後ろには、何人もの女たちがいた。
「……魔法使い!?」
やられた。
「あの男、時間稼ぎしてたのかよ!」
まんまと引っかかった。
「他にも何人かいたよな!?」
くっそー。詰めが甘かった。
「……」
「……」
「……?」
熱い。確かに熱い。
だが――
(……あれ?)
さっきより、熱くない。
むしろ。
(なんか、慣れてきたぞ)
そもそも――
「始めっから、こんなに熱かったか?」
俺が首を傾げている間にも、炎は燃え続けている。
その頃、俺を攻撃した連中はすでに勝利を確信していた。
「何だったんだ、あいつは?」
「さあな。」
「せっかくだし、魔石だけもらいましょ。」
女が楽しそうに笑う。
「外の世界に売ったら高価だし。一生遊んで暮らせるわよ。」
「そうだな。」
彼らは笑っていた。俺が死んだ。そう信じて疑っていない。
一方、その頃の俺は――
(どうやったら面白いかなあ?)
ボケを考えていた。
(せっかくだし、一発芸でもやるか。インパクトのあるやつ、ないかな?)
いくら頭を捻っても。
「……。」
出てくるのは、陳腐なものばかり。
(オルタナティブ!出番だ! 何かプリーズ!)
(了。提案を思案中……。)
(演算中……。)
(演算終了。)
俺は、オルタナティブから提示された案を見る。
「……面白い。」
口元がニヤリと上がる。
(それでいこう!!)
俺は、オルタナティブの案に賛同した。
炎が消えた。そこに残っていたのは、真っ黒に焼け焦げた人の形をした何か。
「見ろよ。」
男が笑う。
「丸焦げになってるぜ。」
「自分の実力も分かってねえのに立ち向かってくるからだ。」
「そんなことより魔石よ、魔石!」
女が目を輝かせる。
「ああ……こんな日が来るなんて夢みたい。」
「焦るな。」
男が笑う。
「死骸は動かないんだからな」
死人に口なし。彼らにとって、ついさっきまで生きていた存在は今やただの宝に過ぎなかった。
男たちは剣を構え、慎重に黒焦げの物体を叩き始める。
「まさ君……。」
その後ろでは巨大な鯨が涙目になっていた。
「そんな……。」
俺が死んだ。そう思っているのだろう。
その姿を見ながら、男たちは黒焦げの身体を調べる。
「あら?」
女が何かを見つけた。
「これかしら?」
それは緋色に輝いていた。
周囲の光を反射し、鮮烈な赤い輝きを放っている。
「綺麗……」
女が手を伸ばす。それは、まるで宝石のようだった。
――緋色の魔石。
「これを取り出せば……。」
その瞬間。
「待て!」
男が叫んだ。
「それは魔石じゃ――」
ドガァァァァン!!!
けたたましい爆発音が、平原を揺るがした。
凄まじい衝撃波が発生する。
大地が震え。土煙が舞い。周囲にあったものが、まとめて吹き飛んでいく。
男の叫び声は、轟音の彼方へ消えた。
爆発の中心に残ったのは一頭の巨大な鯨と黒い何か。
「……。」
ゆっくりと黒い何かが立ち上がる。
全身を覆っていた黒焦げの煤が、ぱらぱらと地面へ落ちていく。
その身体から――
「……ふぅ。」
聞き慣れた声が響いた。
「……これはやり過ぎだなあ。」
男たちが吹き飛んだ光景を見て、ぽつりと言った。




