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星の導きの元に  作者: 音頭
序章

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3/10

地中からの脱出

見渡す限り、同じ景色だった。

暗い。それに土臭い。


「……っていうか、土だな。これ」


どうやら俺は、土の中にいるらしい。


「痛え……。」


そんなことより、めちゃくちゃ痛い。激痛だ。

身体を動かそうとしても、びくともしない。身動きが取れないから、痛む場所をさすることすらできない。


(現状、土に埋まってるってことだろ?)

(……ここから、どうやって出ればいいんだ?)


考えろ、俺。

こういうときこそ冷静に――


① 誰かに出してもらうまで待つ。


……化石になるわ!

そもそも、誰かが見つけてくれる保証がない。


② 自力で掘る。


……このカッタイ地面を!?

無理だろ!セミじゃないんだぞ、俺は!


③ この世は理不尽である。


……そうだ。生きていることに感謝しよう。

死んだと思ったのに生き返ったんだ。それだけで奇跡じゃないか。


……って。


「違ぁぁぁぁぁう!!」


俺は心の中で叫んだ。

生き返ったんだぞ!?これから第二の人生が始まるところだったんだぞ!?

なのに――


「もうゲームオーバーなんて、どんなクソゲーだよ!!」


俺はクソゲーの世界に転生したのか!?


「……ま、意味ないな」


叫んだら、冷静になった。


「何してんだろ、俺……」


とどのつまり。俺は詰んでいる。

そのときだった。


(溶鉱鎧(メルトアーマー)を起動しますか?)


「……ん?」


頭の中に、無機質な声が響いた。


(メルトアーマー……?)


名前から察するに鉱物を溶かす鎧だ。


「……素晴らしい!」


そう思った瞬間だった。身体中から、白い蒸気が噴き出した。


「うおっ!?」


ジュウウウウウ……!!


周囲の土が、まるで溶岩のようにドロドロと溶けていく。

頭上から落ちてくる土も、触れたそばから溶けていく。


「すげぇ……」


どんどん空間が広がっていく。

俺の身体を圧迫していた土がなくなり、上を見上げられるほどの空間ができた。

顔を上げる。


そこには大きな穴が、ぽっかりと開いていた。


「ははーん……」


思わず笑ってしまう。


「すげーや、これ。」


まさか答えが②だったとは。

……いや。


「②だったのか?」


掘るというよりは溶かしてるだけだけど。


「外から見たら、俺どうなってたんだろ……」


地面から突然、蒸気を噴き出しながら這い出してくる男。想像すると、かなり怖い。

それにしても。

(あの声……なんだったんだ?)

さっきから頭の中に響く、無機質な声。機械みたいだった。


そのとき。

(私は代理人(オルタナティブ)。マスターを補助するためだけに生み出された存在です)

「……!?」


返事が来た。


(そうなんだ。……どういうことができるの?)

(マスターの記憶補助。術式の演算。日常生活の補助。その他、ありとあらゆる補助が可能です。)

(マジ?)


それ、めちゃくちゃ便利じゃん。


「最高やん。」


(では、今後もよろしく)

(了。)


なんかすごい存在なのは分かった。

となれば――今の状況の解決も、楽々なのでは?

広い空間には出られた。だが地上はまだまだ遠い。

俺が溶かしたのは、あくまで縦穴だけ。周囲は土の層に覆われている。

試しに壁へ手を触れる。


ぽろっ。ぽろぽろ。


「……脆いな。」


簡単に崩れていく。これでは、普通に登ろうとしたら壁ごと崩れてしまう。


「上るには……ひと工夫いるな」


そこで俺は、頭の中の存在に話しかけた。

(オルタナティブ。今の現状を解決してみて)

(……。)

「……。」

(……。)

「……無視!?」


返事がない。しばらくして――

(手段を提示してください)


「ああ、そういうことね。」


どうやらあくまで補助役。自分から答えを出してくれるわけではないらしい。


「……となると、どうやって上るかだな」


さっきみたいに土を溶かす。

↓

壁が崩れる。

↓

俺も一緒に滑り落ちる。


……却下だ。


「土の中に爪を引っかけて登る……とか?」


それなら、ピッケルみたいに先端が長くて尖っていれば、安定して登れそうだ。


「問題は俺の体力が持つかどうかだけど。」


そこで。

(手顎化(アーマーハンズ)を使用しますか?)

「……!」


来た。これを待っていた!


「もちろん!」


俺が答えた瞬間。両腕に異変が起きた。


「おおっ!?」


手の形が変形していく。指が変わり。骨格が変わり。

やがて両手が巨大な鎌のような形へと変化した。


「……これって。」


よく見る。

あの形。あの時俺と姉ちゃんを掴んだ巨大なムカデ。その顎だった。


「マジかよ……」


とりあえず、右手を土へ突き立てる。


ズボッ!


腕の先端が、土の奥深くまで突き刺さる。


「……入った。」


ぐっと体重をかける。しっかり固定されている。

(これなら……上まで行けそうだ。)

続いて左手。


ズボッ!


こちらも問題なし。


「よし!」


右。

ズボッ!

左。

ズボッ!

右。

ズボッ!

左。

ズボッ!


リズムを刻むように、右、左、右、左。

土へ突き刺して。身体を引き上げて。抜いて。また突き刺す。


「……よっ!」


ズボッ!


「……はっ!」


ズボッ!


「……もうちょい!」


ズボッ!


「……やった。」


頭上に光が見えた。最後の一手を突き刺し。身体を引き上げる。


「……やっと。」


腕を地面にかける。


「やっと地上にたどり着いたぁぁぁ!!」


ドサッ。


俺は地面へ転がり出た。


「…………。」


眩しい。太陽の光が、目に刺さる。


「……うわ。」


思わず目を細める。そして腕を見る。

いつの間にか、鎌のようになっていた両手は元の人間の手に戻っていた。


「元に戻ってる……。」


俺は後ろを振り返る。

そこにはぽっかりと開いた巨大な穴。その先は真っ暗闇。


「……我ながら、よく登ってきたな。」


自分で自分を褒めたい。

というか、よく途中で心が折れなかったな俺。

穴から離れ、周囲を見渡す。

目の前には、地面が層のように積み重なっている。


「……これ、地面か?」


よく見ると、俺が出てきた場所を中心に、大きな窪みができていた。


「クレーターになってる……?」


しかも、そのクレーターはスロープのような斜面になっている。

これなら、普通に歩いて上まで行けそうだ。


「ラッキー」


俺は斜面を登り、クレーターの外へ出た。


「……。」


目の前に広がっていたのは一面の平原だった。


「…………。」


広い。とにかく広い。俺の知っている世界とは、明らかに違う。

だが――そんな感想を抱く暇もなかった。


「!!!!!!」


遠くから、騒々しい声が聞こえてきた。


「こいつ反撃しないぜ!」

「どう見ても、ここのエリアの奴とは違う!」

「レアな装備になるかもしれねえぞ!」

「……?」


俺には目的地なんてない。だったら、近づいてみよう。

声のする方へ歩いていく。

やがて数人の男女が、何かを取り囲んでいるのが見えた。


「やめて……。」

「え?」

「やめてよ……。」


その声を聞いた瞬間。俺の足が止まった。

囲まれているのは巨大な鯨だった。

大きさは五、六メートルほど。陸上にいること自体がおかしい。

しかもその鯨は足りない小さな前ひれを必死に動かし、自分の頭を覆おうとしていた。


「やめて……。」


そして、喋っている。


「……喋ってなかった?」


そんなことより、俺の頭の中では別のことが引っかかっていた。


「あの声……」


聞き間違えるはずがない。忘れるはずがない。何度だって聞いてきた声。小さい頃からずっと聞いてきた。


「……姉ちゃん?」


間違いない。あれは彩花姉ちゃんの声だ。


(そうか。)

俺は自分の身体を見る。ムカデから人間になった。

腕はムカデの顎になった。土を溶かす力まで使える。


今までの常識なんて、もう何の役にも立たない。


だったら。姉ちゃんが鯨になったって何も不思議じゃない。


「……姉ちゃん」


その瞬間、頭で考えるより先に身体が動いていた。


「姉ちゃんを――」


俺は地面を蹴った。


「いじめるなぁぁぁぁぁ!!」


一直線に、目の前の男へ突っ込む。


「うおおおおお!!」


全力のドロップキックを。


「――くらえぇぇぇぇぇ!!」


叩き込んだ。


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