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嘘つきの切り札  作者:


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第二話 信者

人は嘘に騙される。


だが本当に恐ろしいのは、


嘘をつかない人間かもしれない。

翌日。


 神崎悠真は都内のホテルラウンジにいた。


 高級ホテル。


 平日の昼間。


 客は少ない。


 その一角で、一人の男が落ち着かない様子で座っていた。


「山本浩二さんですね」


「はい」


 男は四十五歳。


 会社経営者。


 少しやつれている。


 だが服装は良い。


 腕時計も高級品だった。


 神崎は席に座る。


 黒崎も隣にいた。


「天城誠の件で」


「聞いています」


 山本は頷いた。


「でも先に言っておきます」


「何をです?」


「天城さんは悪くありません」


 神崎は笑った。


 予想通りだった。


「三千万円失ったそうですね」


「はい」


「恨んでいない?」


「全く」


 即答。


 しかも本心。


 目線も呼吸も変わらない。


 嘘ではない。


「面白い」


 神崎は呟いた。


「何がですか」


「普通なら怒ります」


「私は怒りません」


「何故」


 山本は少し考えた。


 そして静かに言った。


「天城さんだけだったんです」


「……」


「私を信じてくれたのは」


 神崎は黙る。


 黒崎も黙る。


「社員にも」


「家族にも」


「銀行にも」


「無理だと言われました」


 山本は笑った。


 寂しそうに。


「でも天城さんだけは違った」


 神崎は理解した。


 金ではない。


 人は金だけで騙されない。


 人は。


 認められたい生き物だ。


「今でも信じていますか」


「もちろん」


「また誘われたら?」


「投資します」


 即答だった。


 神崎は思わず吹き出した。


「重症だ」


「そうですか?」


「ええ」


 山本は本気で不思議そうだった。


 その顔が逆に怖い。


 完全に依存している。


「最後に一つ」


 神崎が聞く。


「天城誠はどんな人でした?」


 山本は少しだけ考えた。


 そして。


「優しい人です」


 そう答えた。


 神崎は目を細めた。


 嘘ではない。


 少なくとも。


 山本にとっては。


 本当に優しい人なのだ。


 だから厄介だった。


 その時。


 黒崎のスマホが鳴った。


 着信。


 職場からだった。


「失礼」


 黒崎が席を立つ。


 数十秒後。


 戻ってきた彼女の顔色は変わっていた。


「どうしました?」


 神崎が聞く。


 黒崎は答えない。


 数秒。


 黙ったまま。


 そして。


「死者が出ました」


 空気が凍った。


「被害者です」


 神崎の目が細くなる。


「自殺?」


「まだ分かりません」


「名前は」


 黒崎は資料を開いた。


「高橋義人」


 神崎は首を傾げる。


 知らない名前だった。


 だが。


 次の言葉で。


 空気が変わる。


「昨日」


 黒崎が言う。


「天城と会っています」


 神崎はゆっくり立ち上がった。


 そして。


 初めて。


 楽しそうな笑みを消した。


「現場へ行きましょう」


 ゲームは終わった。


 そう思った。


 だが。


 本当のゲームは。


 ここから始まる。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回、最初の死者。


神崎は少しだけ、この事件の異常さを知ることになります。

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