我々は今日、星を肉にして食べることにした
知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くっていうもので書かせて頂いた作品を載せていこうかなと思っています。
お題は「我々は今日、星を肉にして食べることにした」です。
ショートショートです。
楽しんでいただけると幸いです。
「みな、覚悟はいいな」
隊長の呼び掛けに僕を含めた五人の隊員全員が沈鬱な表情で頷いた。
「我々は今日ここで、星を肉にして食べる。それすなわち「道」を踏み外すこと。もう二度と人へ戻れないということを理解してくれ」
隊長が悲痛な面持ちで袋から生まれたばかりの恒星を取り出した。手のひらで転がせる程の大きさだ。
赤々と燃え、弱々しい光を放つ恒星を隊長は金槌で砕いた。
まだ恒星は赤々と燃え続ける。それを隊員に配った。厚手のグローブを付けた隊員たちは恭しく砕かれた恒星を受け取り、指でまた小さく割って口に運んだ。
僕も隊長から受け取った恒星をグローブで受け取って少しづつ口に運んだ。
程よく熱の通った、血のような鉄っぽい味がする。
宇宙には多種多様な星が誕生し、そこには様々な生き物が住まう。
そんな宇宙の中には一際巨大な銀河系が存在する。その銀河系に存在する惑星も巨大で、惑星に生息する生き物もやはり巨大である。
僕らは「人」である。けれど、どこからか飛来した異星人は僕らのことを「巨人」だと呼んだ。
実際、飛来したその異星人は爪の先のように小さく、彼らにしてみれば我々は「巨人」なのだろう。
異星人が飛来したことで、惑星や銀河の外にもまた別の生き物がいるのだと知った「人」は研究のために宇宙の彼方まで飛ぶ装置を作り、銀河を飛び出し他の惑星を探索することにした。
宇宙に出たことで我々は気づいた。
「巨人」の惑星が属している銀河の外、宇宙に存在する他の銀河系やその惑星がとても小さいことに。
そして「巨人」はその小さな星を食べることができる、ということに。
これは恐ろしい発見だった。
我々にとっては小さな食べられる星であっても、その中には一体どれほどの生き物が生息しているのか。
また、恒星を食べたことでその恒星の光を生きる糧にする生き物たちがどれほど死に至るのか。
この事実が知られるようになってから、「巨人」の星では、宇宙に飛び出す「飛翔隊」には「星を食べること」が固く禁じられていた。
だが、飛翔隊として宇宙に飛び出した僕の所属する隊は、本隊とはぐれた。本船へ信号を送り救助が来るまであと一年は掛かる、と告げられたのは半年前。燃料も食料も底を尽き、惑星からの救助も絶望的。もはや船と共に宇宙のもくずになるのを待つばかりだった。
空腹で気が触れそうになった時、隊員の一人が呟いた。
「星を食べよう、そうすれば…あと半年くらいはもつ」
残りの隊員もそうだ、そうしよう。と口々に言い出した。
僕もそれに賛成だった。隊長は沈鬱な表情で「星」を食うことの恐ろしさを話した。
「星」を食うことで数え切れない命を奪うこと。「道」を踏み外すこと。
だが、皆命が惜しかった。それは隊長も同じだった。
そうして、僕らは若い恒星と惑星を少量、生まれたばかりの銀河から摘み取り、五日ぶりの食事にありついた。
「うまい…」
「ああ、うまいな…」
言葉少なく、隊員たちが涙を流しながら食事する。
「うん、美味しい…」
僕の目からも涙が溢れていた。
今度は砕かれた水色の惑星を別の隊員が配っていた。
僕のグローブにも砕かれた惑星が転がる。一体、この惑星にどれくらいの生き物がいたのだろう。
「美味しい…」
惑星の欠片を口に放り込んで、僕は命の味を噛み締めた。