朝、目が覚めるとたまごがあった
朝、卵になっていた。この俺が!
どういう訳か、朝起きたら手足がきれいさっぱり無くなり、丸くてツルッとした何かになっていた。
何故そんなことが分かるのか?
それは、ベッドから起き上がろうとすると、コロコロと体が揺れるだけで動けず、尚且つ部屋に設置してる鏡で白くて黒い斑点のついてる卵になった自分を確認できたからだ!瞳らしきものは卵の表面にないというのに、何故見えるのだろう。謎だ。
見た目的にはうずらの卵に近い。
だが、大きさが違いすぎる。
ちょうど成人男性態である俺(身長165cm)が膝を抱えて体育座りしたくらいの大きさがある。
ベッドのスプリングもコロコロと横に揺れる度にギシッと軋むし、体重(?)も恐らく人間態の頃と変わっていない。
さて、ここで問題。
ここからどうするか…ということ。
起きたいとこだが、ベッドから転げ落ちて殻が割れ、中身が出てきたなんてなったらシャレにならない。
そして、生憎俺は一人暮らしの寂しいサラリーマン。
恋人なんてそんな甘酸っぱい思い出をくれる存在なんぞ現在進行形でいない。
頼れる親は県外。
そもそも手足も出ない卵ではスマホを触れない。
ということは…自分一人でこの状況を切り抜けねばならない。
本格的に唸り出すと、部屋のドアを開けられる。
器用に全体重をかけてドアノブを開けたのは、愛猫のシャム猫・ミケランジェロだった。
「ミケ、おはよう」
声をだしたかったが、声は部屋に響くことはなかった。
卵の姿では声すらも出すことができないらしい。
寂しい!!愛しの愛猫に朝の挨拶も出来ないなんて!!
卵の姿になって初めて明確に絶望した所で、視界の端でミケランジェロがしっぽを左右にブンブンと振り出した。
そして、ミケランジェロの視線は卵になってる俺を完璧に捉えていた
………知ってる、このポーズ。ハンティングモードになった猫特有の姿勢である。
「ミケ?待ちなさい、飛びつくのは待ちなさい」
窘めようとするものの、この声はミケランジェロには届いてない。
というか、このモードになった彼女にはおやつ、ごはん以外効果がない。
というか、いまそのご飯もおやつも手元にない。完全にピンチ。
腰を静かに落とし、瞳孔をガン開きにしてミケランジェロが息を潜める。
「ミケ!待ちなさい!俺いま卵なの!飛びつかれても受け止められないの!待ちなさい!まて…!」
言うが早いか、ミケランジェロが俊敏な動作で卵の俺に突っ込んでくる。
ドン!!と衝撃がきて、卵の体がベッドから滑り落ちる……容赦ない地球の重力が俺を襲い、自由落下の速度で…その割には視界はスローモーションで落っこちていく……。
「ぎゃああぁーーーー!!!?」
自分の絶叫で飛び起きた。
バクバクとなる心臓、荒い呼吸、全身が冷や汗でびっしょりしてる。
慌てて自分の体を見下ろすと、見慣れた手足がある。そして、ちゃんと人間の体になっている。
「なんだ、夢オチか……」
ぐったりとして布団に逆戻りする。
汗を吸ってシーツがジメッとしてる。あとで洗わなきゃなぁ……と思っていると、部屋の隅に設置した寝床で丸くなって眠るミケランジェロを見つけた。
飼い主があんなに騒いだのに呑気に寝ている。
そんな彼女の足元に彼女が大好きな卵形クッションが原型を留めないほどぐしゃぐしゃになっているのを見つけてビクッと体が跳ね上がったのは余談である。




