玉座に残った一通の手紙
知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書いたものです。
このお話のお題は知人ではなく自分で作りました。
楽しんでいただけると幸いです。
今日この日、諸悪の根源たる魔王は打ち倒された。
わたしがこの手で魔王の胸に剣を突き立てた。
聖剣によって核を貫かれ、絶叫する魔王は黒々とした瘴気に包まれ、魔王城から消えてしまった。
それまで魔王城を覆っていた魔族の気配が消え、暗雲がどこかへ流れさり、陽光が窓から差し込んでくる。
明るくなった謁見の間を改めて見回すと、魔王が座っていた玉座に白い何かが置かれていた。
近づき、拾ってみればそれは一通の白い封筒だった。
不思議に思いながら宛名のないそれを色んな角度から眺め、封蝋を開ける。
角張った筆圧の濃い、いかにも魔王らしい力強い文字が横罫線をびっしりと埋め尽くしていた。
『勇者・エリーゼへ。この手紙を読んでいるということは、魔王はお前によって打ち倒され、世界に蔓延る魔族は消失し、世の中に平和が戻ってきたということだろう。まずはお疲れ様。そして、ありがとう。魔族やそれを統べる魔王は、長く長くこの世を支配してきた。長すぎる寿命、絶えず体から発する瘴気はこの世界を少しづつ蝕んでいた。そのため、魔王であったお前の母さんは、人間の男との間に子を成し、その子を勇者として育て上げ、魔王率いる魔族を打ち倒し、月の宮へ返す計画を立てた。月の宮は、月に存在する体を失ったものがたどり着ける聖地だ。お前の母さんも、魔族もそこにいる。そしてこのわたしも。色々な辛いことを背負わせて済まなかった。けれどこれで全て終わった。何故この手紙があるのか気になるだろう。実は母さんに魔法で代筆してもらったんだ。5年前、魔族の攻撃からお前をかばって死んだわたしは、魂となって魔王城へ向かい、最後の頼みでこの手紙を書いてもらったんだ。
本当に、本当にお疲れ様。エリーゼ。帰ったら暖かいスープでも飲んで休んでおくれ』
魔王の…母からの手紙かと思ったら、まさかの父親の手紙にわたしは驚いた。
父の便箋の他にもう一枚紙が入っていて、そこには赤ん坊とその赤ん坊を抱く黒いヤギのような角を生やし優しげに微笑む女性の、鉛筆で描かれた絵が入っていた。一枚紙の絵をひっくり返すと画家であった父のサインと「愛するエリーゼへ」と、母が代筆した筆跡と同じ筆跡で文字が綴られていた。
母との記憶はない。幼い頃から父だけだった。それでも、心のどこかで母の愛を、温もりを感じていた。それが嘘じゃなかったという、確信をもてた。
「父さん…母さんのこと、労わってあげてね…」
零れそうになる涙をぐっと堪えて、わたしは手紙を抱きしめた。




