「師匠は酔っ払うといつも〇〇になる」
知り合いからお題をもらって作ったショートストーリーです
愉快な感じにできて作者としては満足してます
ニヤッと楽しんでくれたら幸いです
お師匠は酔うといつも手がつけられなくなる。
酒の席で暴れ回るとか、絡み酒になるとか、女の尻を追いかけ回すとか、そんな次元の話が可愛いらしく思える程、うちのお師匠は酒癖が悪い。いや、もはや酒癖という言葉で片付けていいのかも怪しいところだ。
お師匠は江戸では名の知れた浮世絵師の一人で役者絵や美人画を得意とする宗家の下で修行を積みその後独立した。
元となる絵を描き自ら木版を削って摺師へ卸すという、こだわりを持った絵師であった。
緻密な筆使い、繊細な表現の浮世絵は瞬く間に広まり、役者絵、美人画のみならず絵草紙や着せ替え絵まで手がけ大人から子供まで馴染みのある絵師になりつつあった。
さて、そんな偉大なお師匠だが、酒が好きな割にめっぽう弱い。
しかも酒を入れても顔色が変わらないので傍から見れば酔っているようには見えないのだ。
そんなお師匠の手が付けられない悪癖が最悪の形で露呈した話をしよう。
とある日、別流派の絵師の屋敷へ招かれ、酒の席を共にする機会があった。
お師匠はわたしの他に2人の弟子を同行させ、酒の席で浮世絵について流派の宗家と熱く語り合い、私たち弟子も向こうの門弟たちとお互いの技術について語り合い実に有意義な時間を過ごしたことを記憶している。
そんな有意義で刺激のある話をしていれば当然酒が進むわけだ。
ある程度酒が進んだところで、お師匠が宗家との話もそこそこに酒を煽った猪口を盆に置いてぬらりと立ち上がった。そのままキビキビとした足取りで屋敷の坪庭へ降りていったのだ。
お師匠は手直にあった庭木の細い枝を一本手折り庭の土ににスラスラと何か絵のような物を描き始めたのだ。
なんだなんだと見守っていると、少しずつお師匠が描いているものが明らかになっていった。
「お、お……お師匠!!さすがにその絵はダメです!!」
兄弟子が叫びにも近い声を上げ真っ赤になってお師匠を止める。そこでわたしとわたしの弟弟子も事態を把握してお師匠を止める。
この時、絵がほとんど描き終わっていたからか、はたまた酒のせいで力が入らなかったからかお師匠は満足そうに息を吐き、弟子たちに取り押さえられるという不思議な光景が出来上がっていた。
お師匠が庭に描いたそれは、筆舌に尽くし難いほど婀娜っぽい目合いの絵であった。
流派の宗家は寛大な方でお師匠の背中をバシバシと叩きながら「お前さんにもそんな趣味があったんだなぁ!」と豪快に笑っておられたので大事にならずに済んだ…ような気がする。
後日、改めてお師匠に酔っている時のことを覚えているか尋ねたら、満足そうな顔でにこりと笑むだけで答えてくれなかった。
この一件の後、門弟の間では絶対に外でお師匠に酒を飲ませるなという不可侵の決まりができたのであった。




