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「月だけは綺麗ですね」

知り合いからお題を頂き、それにそってショートストーリーを書くイベントで書かせて頂いた作品です。


「月だけは綺麗なもんだ」

夜空を見上げれば闇を切り取るように冴え冴えとした月が冷たく光っている。

そう、月だけは綺麗だ。地上の惨禍など知らぬとばかりに白々しく浮かぶ月に悪態にも似た荒々しい気持ちを抱きながら肩に担いだ彼女を慎重に地面に下ろす。

頬にかかる短く切り揃えられた髪を指で払い、その顔を見つめる。

戦場に似つかわしくない、美しい女であった。

元々彼女は港街で針子をしていた。だが傭兵であった兄が隣国との戦争で亡くなった報せを受けた翌日、国軍へ入隊した。兄が命をかけて守ろうとした家族を、街を、守りたいのだと…お粗末な綺麗事を並べ戦場に出向いた。彼女は存外剣の才能があったのか、戦場に出ては鬼神のごとく敵を打ち倒していった。だが彼女はその素晴らしい功績を自国へ持ち帰ることが出来なかった。敵に腹を貫かれ、俺の前で呆気なく眠りについてしまったからだ。

本当は気弱で、人一倍臆病で泣き虫なくせに頑固な彼女。

死の絶望に怯え顔を歪ませて旅立った彼女。せめて…と、俺は彼女の体を抱えて海にほど近い戦場で一番見晴らしのいい丘に彼女を休ませることにした。

ここなら彼女の好きだった海が見える。ここなら…死ぬ間際の恐怖に歪んだ彼女の心を慰めることができる…確証のない、自己満足な理由だった。

月に見守られながら、俺はいつか想いを交わす事ができたらと願った最愛の人を弔った。

遠くから聞こえる波の音だけが俺の荒んだ心に寄り添ってくれているような気がした。

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