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 最初に、王女が黒竜を魔法で消滅させ、今は意識が戻らない状態というのが民に伝わった。


 あの日、血塗れになりながら自分たちを守ってくれた彼女を皆心配し、その頃一つの噂が国中を駆け巡っていた。


 曰く、あの冬の日に王に税の免除を進言してくれたのは王女ではないかという噂。


 その噂は留まることを知らず、皆が王女の本当の姿とはなんなのかと思っている時。



 疑問を代弁するように、王宮に一通の手紙が届いた。


『冬の日に、税の免除を進言してくれたのは王女様ですか?』


 それからも似たような手紙が幾つも届いた。

 最初は四日に一通。少し経って二日に一通になり。気づけば毎日届くようになった。


 民の『悪逆な王女』への認識が揺らいでいる。

 ヴィヴィアンヌという少女の人生を、知りたいと願っている。

 これを好機だと捉え宰相が王女の功績を新聞にまとめ国中に配ると、なにかが弾けたように王宮に多くの手紙が届くようになった。


『あの冬の日、貴女様のお陰で家族皆で冬を越せました。ありがとうございました』

『ヴィヴィアンヌ王女様、この国に尽力してくださりありがとうございます』

『冬の時はあの王に進言してくれ、今回は黒竜に立ち向かったと聞き及んでおります。命をかけて民を守ろうとしてくれた貴女に、最上級の感謝を』


 王女に感謝を捧げる手紙を積んだ山が三つになった頃、王宮に沢山の人が毎日のように押し寄せるようになる。


 暴動ではない。

 文字をかけない民たちが言葉で感謝を届ける為に来たのだ。

 遠い村から。近い村から。王女に感謝を捧げるというただ一つの目的の為に、ありがとうの言葉を携えて彼らはやって来た。

 最近の門番の仕事は、もっぱら王宮に訪れた人の言葉を紙に書き記すことである。


 

 ――カサハインの民は、王女があの冬の日働きかけてくれたことは知らなかったが。

 あの冬の日、誰かのお陰で自分たちが冬を越せたことは憶えていた。

 決して、忘れていなかった。


◇◇◇


「だから、貴女は生きるべきです。

 貴女の死を願ったのもカサハインの民ですが、今貴女が生きることを願っているのも、間違いなくカサハインの民なのですから」


「あ、あぁ……!」


 どの手紙を読んでも、温かさに満ちていた。


 やっぱり私はカサハインの民たちが好きだ、と思う。  

 私を憎んでいる筈なのに、それでも私に感謝を示す彼らの高潔な精神をなによりも尊いと思う。


 涙で濡れてしまわないように手紙を置くと、空になった私の手を彼が握った。


「死ぬのではなく、生きてこの罪を償っていきましょう。皆が、『悪逆な王女』が貴女だった記憶を忘れる日まで」


 涙が溢れて止まらない。


 ――良いのかな? 幸せになる道を選んでも、良いのかな?


 迷った時必ず探した人を、今もつい探してしまった。


 そうすると、私を心配そうに見つめる人の中に、彼女(・・)がいた。

 メイド服に身を包んだ彼女は、白髪混じりの髪を朝日に照らしながら柔らかい笑顔を浮かべ、頷いた。

 親が子を見るように目を細めながら、私をゆっくり肯定してくれた。


 その仕草一つで私は自分が許されたような気がして、声を上げて泣いた。

 うわぁんと泣く私を、皆が泣きながら抱きしめる。


 涙は雪解け水のように透明で、私の心を溶かすようにじんわり温かい。

 私は、涙と共に『悪逆な王女』という冬が解けていくのが分かった。


 温かい春の日が心に差している。


 まだ窓硝子の向こうでは微かに雪が降っているけど。

 私には一足早く、春が来た。



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