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 今も、私は歌を歌っている気がする。

 黒竜は確かに消えたのに。頭からあの旋律が離れない。

 だけど、最近は歌に誰かが私を呼ぶ声が混じるようになった。


 そして、その声は重なり段々大きくなっていく。

 いくつ時を重ねたのか。


 歌よりも声の方が大きくなった日に、私はぱちくりと目を覚ました。


◇◇◇


「あ……」

 

 覚醒した私は、声を上げながら頭を傾ける。

 そこには、花瓶を持ったイネス先輩がいた。口をぱっかり開けながら、私を見ている。

 あ、目が合った。


 瞬間、花瓶を棚の上に置いてイネス先輩は走り出した。扉を開けて廊下に向かい叫ぶ。


「ヴィヴィアンヌさんが目を覚ましました!」


 叫んだイネス先輩は、私の下に早足で戻ってくると、ゆっくりと体を起こしてくれ、水を注いだコップをくれた。


 一口、一口。体が痛みながらもゆっくりと喉を潤す。


 喉が潤うと、安心感がやってきて私はフッと呼吸が楽になった。

 すると、凄い勢いでなにかがこちらに向かってくる音が聞こえる。

 

 まさに台風のようだった。


「ヴィヴィアンヌさん! 目を覚ましたのね!」


 台風一人目は、ブリジット先輩だった。


「起きたなら、あったかいミルクでも飲む?」


 二人目はコラリー先輩。


「まずは汗かいてるでしょうから湯浴みでは?」


 三人目はカロリーナ先輩。


 そして――


「ヴィヴィアンヌ様っ」


 四人目は彼だ。


 皆が良かった良かったと涙を流す。

 それに私も涙を流しそうになりながら、ふとあることに気づいた。

 彼女がいない。

 いつも、私の側にいてくれた彼女が。


「ねえ、エメはどこ……?」


 喉を詰まらせたのは、イネス先輩だった。


「ねえ、ねえエメはどこにいるの。私の側にいてくれる筈なのに、どうしていないの」


 皆が、言葉を失っているようだった。

 痛い程、彼女がここにいない理由が分かってしまった。


「……エメは、死んじゃったの?」


 優しく私を見ていてくれたあの笑顔が脳裏を駆け巡り、熱いものでジンと目頭が痛くなった。

 ポタリ。ポタリ。

 涙の雫が、包帯が巻かれた手の甲に落ちる。


「ヴィヴィアンヌ様……」


 宥めるように私の肩にそっと手を置こうとした彼に私は吠える。


「なんでっ、なんで私も殺してくれなかったの……⁉」

「……っ、生きてほしかったからです」


 涙で体が震える。

 喉も痛いのに、体中痛いのに、それでも激情は止まらない。


「私が生きることを、民も望んではいないのに……っ、私が生き伸びても、戴冠式の日に処刑されるだけなのに! 

 どうしてあの時死なせてくれなかったの。エメと一緒に、死なせてくれなかったの!」


 私のボロボロと涙で濡れた酷い顔を見て、彼は泣きたそうに顔を歪めふるふると首を振った。


「違う、違いますヴィヴィアンヌ様。貴女が生きることを望んだのは、カサハインの民たちです」

「嘘つかないで……!」

「嘘じゃない!」


 皆が、私に縋り付くように泣いていた。イネス先輩が私の左手を握りしめながら私に訴えかける。


「嘘じゃないよヴィヴィアンヌさん」


 その言葉と共に、男の人が山積みになった書類と一緒に入室してきた。

 細身の男の人がフラフラになりながら持って来た書類は、何枚か数え切れない程に高く積まれていた。


「これは、一体?」

「カサハインの民からの、ヴィヴィアンヌさんへの手紙だよ。……ちなみにこれ。送られてきた手紙のほんの一部でしかないからね」


 私の疑問に答えてくれたイネス先輩は、涙で濡れた瞳で私を強く見ていた。


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