22
今も、私は歌を歌っている気がする。
黒竜は確かに消えたのに。頭からあの旋律が離れない。
だけど、最近は歌に誰かが私を呼ぶ声が混じるようになった。
そして、その声は重なり段々大きくなっていく。
いくつ時を重ねたのか。
歌よりも声の方が大きくなった日に、私はぱちくりと目を覚ました。
◇◇◇
「あ……」
覚醒した私は、声を上げながら頭を傾ける。
そこには、花瓶を持ったイネス先輩がいた。口をぱっかり開けながら、私を見ている。
あ、目が合った。
瞬間、花瓶を棚の上に置いてイネス先輩は走り出した。扉を開けて廊下に向かい叫ぶ。
「ヴィヴィアンヌさんが目を覚ましました!」
叫んだイネス先輩は、私の下に早足で戻ってくると、ゆっくりと体を起こしてくれ、水を注いだコップをくれた。
一口、一口。体が痛みながらもゆっくりと喉を潤す。
喉が潤うと、安心感がやってきて私はフッと呼吸が楽になった。
すると、凄い勢いでなにかがこちらに向かってくる音が聞こえる。
まさに台風のようだった。
「ヴィヴィアンヌさん! 目を覚ましたのね!」
台風一人目は、ブリジット先輩だった。
「起きたなら、あったかいミルクでも飲む?」
二人目はコラリー先輩。
「まずは汗かいてるでしょうから湯浴みでは?」
三人目はカロリーナ先輩。
そして――
「ヴィヴィアンヌ様っ」
四人目は彼だ。
皆が良かった良かったと涙を流す。
それに私も涙を流しそうになりながら、ふとあることに気づいた。
彼女がいない。
いつも、私の側にいてくれた彼女が。
「ねえ、エメはどこ……?」
喉を詰まらせたのは、イネス先輩だった。
「ねえ、ねえエメはどこにいるの。私の側にいてくれる筈なのに、どうしていないの」
皆が、言葉を失っているようだった。
痛い程、彼女がここにいない理由が分かってしまった。
「……エメは、死んじゃったの?」
優しく私を見ていてくれたあの笑顔が脳裏を駆け巡り、熱いものでジンと目頭が痛くなった。
ポタリ。ポタリ。
涙の雫が、包帯が巻かれた手の甲に落ちる。
「ヴィヴィアンヌ様……」
宥めるように私の肩にそっと手を置こうとした彼に私は吠える。
「なんでっ、なんで私も殺してくれなかったの……⁉」
「……っ、生きてほしかったからです」
涙で体が震える。
喉も痛いのに、体中痛いのに、それでも激情は止まらない。
「私が生きることを、民も望んではいないのに……っ、私が生き伸びても、戴冠式の日に処刑されるだけなのに!
どうしてあの時死なせてくれなかったの。エメと一緒に、死なせてくれなかったの!」
私のボロボロと涙で濡れた酷い顔を見て、彼は泣きたそうに顔を歪めふるふると首を振った。
「違う、違いますヴィヴィアンヌ様。貴女が生きることを望んだのは、カサハインの民たちです」
「嘘つかないで……!」
「嘘じゃない!」
皆が、私に縋り付くように泣いていた。イネス先輩が私の左手を握りしめながら私に訴えかける。
「嘘じゃないよヴィヴィアンヌさん」
その言葉と共に、男の人が山積みになった書類と一緒に入室してきた。
細身の男の人がフラフラになりながら持って来た書類は、何枚か数え切れない程に高く積まれていた。
「これは、一体?」
「カサハインの民からの、ヴィヴィアンヌさんへの手紙だよ。……ちなみにこれ。送られてきた手紙のほんの一部でしかないからね」
私の疑問に答えてくれたイネス先輩は、涙で濡れた瞳で私を強く見ていた。




