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 ずるずると本棚によりかかるようにして座り込む。

 あまりのことに、腰の力が抜けてしまったようだ。


 深呼吸をする。


  『死にたくない』し、『死ぬのは怖い』。だけどそれ以上に、心がポカポカする。


 私の生に意味はあったのだと、心底安心した。


 やりたいことは、まだ残ってる。それを終わらせてから、雪が止まる日を待とう。


◇◇◇


 ベッドに入るといろんなことを思い出す。

 イネス先輩たちのこと。

 奴隷として死んでいってしまった彼らのこと。

 そして、彼に恋に落ちた日のこと。


 十六歳の秋のことだった。あの頃の私は、お父様の意識を奴隷から逸らすこともできない程にまだ幼かった。書類仕事をすることをお父様に許可してもらって、捌くのがやっとだった。

 その日、私は奴隷がお父様の鞭に打たれ死んだのを見てしまった。


 夜、私はベッドの中で眠れなくて、その内今までことも走馬灯のように思い出してしまって、微かに嗚咽をあげながら布団の中でうずくまっていた。

 そこで、扉がノックされる音が聞こえる。


 「いいわよ」と言うと、彼が入ってきた。その頃闘技場で既に闘わされていた彼はその強さから私が寝るときの護衛の一人に選んだのだ。

 今日は彼の日だったのか、とぼんやり考える。


「女性の部屋に入るなどという蛮行を犯してしまい申し訳ありません」

「……いいのよ」


 むしろ、私を思考の海から引き上げてくれて感謝すらしていた。


「なにかございましたか?」

「いいえ、ただその……私は、魔物のようだと思ったのよ」


 『悪逆な王女様』らしく振る舞おうとしても、なんだか上手くいかない。


 私はギュッと布団を握りしめる。


「こんなに汚い私たち魔物は、消えるべきなの」

「ヴィヴィアンヌ様……」


 ポタリと落ちた涙の雫は、布団の色をまだらな灰色に変えた。


 そのまま下を向く私の髪に、なにかが挿される。

 驚いて顔を上げると、部屋に飾ってある花瓶を手に持った彼がいた。

 頭を触ると、花瓶に生けられていたであろう花に手が触れる。


「魔物は、その体に触れた生き物を枯らすと言われています。ですが、貴女の頭に挿した花は枯れていません。鉄で出来ている訳でもないのに

 だから、王女様は魔物ではありません」

「……ありがとう」


 単純なことかもしれない。

 だけどあの夜、私がよく眠れたのは間違いなく彼のお陰だった。


 

 ほら今も。私の意識がスーと遠のいていく。

 


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