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 お父様はいつも、ある書を読んではため息をついていた。

 そして、その書を読んだ後とびきり私に甘くなるのだ。


 だけどお父様はその時。


 ――奴隷を見る時と同じ目を、私に向ける。


◇◇◇


「ちょっと」


 使用人になってはや一週間。周りの人も、王女が働いていることに慣れてきたようだ。


 だからだろうか。私は今イネス先輩と共にメイドに囲まれている。その顔にはありありと侮蔑の感情が浮かんでいた。

 今日はシーツを綺麗に干せたとイネス先輩と喜んでいただけに、なんだかその視線が堪えた。

 ここは王宮の中でも人通りが少ないようで、誰かが来そうな気配はない。


「はい、なんでしょうか」

「……っ、なんでじゃ、なんでじゃないわよ! よくものうのうと。貴女たち王族のせいで、私たちがどれだけ苦労してきたことか!」


 彼女はブリジット•アピス男爵令嬢だろう。彼女の父親であるアピス男爵家当主は領民に尽力していて、領民からの人気も凄まじかったのを覚えている。


「ちょっと、そんなに寄ってたかって……」

「――いえ、いいんです。私は大丈夫ですイネス先輩」


 彼女を手で制し、私は彼女たちに頭を下げた。


「今までの行い、本当に申し訳ありませんでした」

「……! そんな謝罪一つで、私たちの苦労が報われる訳ないでしょう!」


 怒声に顔を上げると、ブリジット様が手を振りかぶっていた。打たれる、と思いながら目をつぶる。

 ピシャン、と音が響いた。


 だけど私には、なんの痛みも来なかった。


 目を開けて、その理由が分かる。

 イネス先輩が、私の代わりに打たれていたのだ。


「ちょっと、さっきからなんなのよ貴女!」

「イネスです。姓はありません」

「つまり平民? じゃあ話に入ってこないでよ」


 オロオロする私を置いて、左頬を赤くしたイネス先輩はブリジット様を見据える。


「ヴィヴィアンヌさんは、一度も私を『平民が』と言って馬鹿にしませんでした」


 その言葉に、ブリジット様の顔色が変わった。


「貴女たちの今の行いは、暴力と暴言で相手を押さえつけようとするのは、貴女たちが憎んだカサハインの王族たちと何が違うのですか?」


 凜として立つ彼女に、思わず見惚れる。そうしていると、ブリジット様に「ヴィヴィアンヌ様」と名を呼ばれた。


 ブリジット様は周りの子と一斉に頭を下げた。


「今の行いは、あまりにも礼儀を欠いていました。イネス様、ヴィヴィアンヌ様、誠に申し訳ありません」


 体の前で組まれたブリジット様の手は、強く握り締めているせいか白くなっている。

 ふるりと、震えた。私を憎んでいる筈なのに、それでも自分が間違っていたと思う所には頭を下げる、彼女たちの高潔さに、心が震えた。


 だから私は、感謝が言いたくなった。


「ブリジット様。一昨年の冬、貴女の所の領地が育てた作物を、周りにある食料不足の領地に分けてくださいましたよね? そのお陰で救われた命がありました。ありがとうございました」

「っ、なんで、それを知って……」


 ニコリと微笑んでみせると、目を見開き言葉を詰まらせた後彼女は顔を覆い「ごめんなさい……っ」と泣き始めた。



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