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 でも、この事実を知っているのは王とユベール、そして王女の側にいつもいるメイドだけだろう。


 王宮で働いている男たちは、誰が王に税の免除を進言してくれたのだろう、という話を、冬の間住む為の簡素な造りの仮住宅でよく話していた。

 ユベールも奴隷なのだから働けと王に言われ、その仮住宅で冬を越したが、覚えている限り毎夜のようにその話し合いは行われた。

 だが、誰一人王女がやったという結論に辿り着く者はいなかった。



 そして、長い長い冬が終わった。

 春の温かさに、雪が溶かされていく。その様子を窓硝子越しに見る彼女に、奴隷だという身分も忘れ話しかけてしまった。


「……どうして、自分が王に税の免除を進言したと民に発表しないのですか?」

「する必要があるの?」


 簡潔な言葉に、ふいに涙が誘われた。

 王女は、『民が生きているなら、自分のしたことなんて誰に知られずとも構わない』と言っているようだった。


 そしてこの日自分は、外を眺め小さく口角を上げる少女に恋に落ちた。

 誰よりもカサハイン国の民を愛している少女が報われますように、と祈ってしまった。


◇◇◇


 思考の海から抜け出すと、窓硝子の向こうにもう彼女はいなかった。

 

 それを残念に思いながら執務作業をしていると、宰相がノックのあと入ってきた。


「ユベール様、今日の分の薬です」

「……飲まなきゃいけないか、それ」


 宰相が持ってきた腐った沼地のような色をした薬に、顔を顰めてしまう。ボコボコと沸き立っている気がするのは、幻覚だろうか?


「いけません。早く魔力を戻す必要があるのですから」


 この薬は、失った魔力を早く戻す効能がある。確かにこの薬を飲み始めてからユベールはメキメキと力が戻るのを感じるが、逆に胃の中のモノを戻してしまいたくなる。それ程に苦いのだ。


 宰相にじっとりと見つめられ、しばらく逡巡した末に薬をあおった。泥のような苦みが口いっぱいに広がる。

 苦みに眉をしかめながら指を一本立てると、火がボゥッとつく。以前と同じように、これぐらいなら力を特に込めずとも出来るようになった。

 薬からの卒業も近いようで安心する。

 

 魔法は、魔力を持って生まれてきた時から使えるのが決まっている。ユベールだと炎の魔法だ。

 稀に、筆頭魔法使いのように何個もの魔法を使える者もいるが、大体は一個に限定される。

 まあ、魔法は一個使えるだけで十分凄いのだが。


 ――ふと、王女はなんの魔法を使うのか気になった。王女が魔法を使っている姿を見たことがない。


 単に秘匿されていたのか。……それはない。あの王なら、自分の娘といえど力を出し惜しみさせない筈だ。


 では、魔力が少なかったのか。……それも違うだろう。そうなら、あんなに毎日ピアスに力を送れない。魔力は燃費が悪いから、王女に魔力が戻る前に、魔力が底をつき死んでいた筈だ。

 

 だったら、使い所が限定される魔法だったのだろうか?

 それこそ、一生の内使う機会なんてそうそう訪れない程に。


 


 そこまで考えてから、溢れる苦みに耐えきれなくなり紅茶を持ってきて貰うことにした。

 「おえ……」と王子らしくない音が小さく執務室に響いた。


 十二時を告げる鐘の音が鳴る。時刻はもうお昼だ。





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