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カサハイン国には、春にこの国を継ぐユベールと宰相だけが残り、今は諸々の手続きをしている。
その最中窓を見ると、メイド服を風に揺らしながら、洗濯をしている彼女が目に入った。
ついつい目で追ってしまう。
「ヴィヴィアンヌ様……」
彼女のしたことを知らない民からは、『早く殺せ』という手紙が届く。それを読む度に、早くなんとかしなければと焦りが募る。
でも、彼女が死ななくて良くなったとして。
――彼女は、生きることを望んでいるのだろうか?
それでも、生きてほしい。ただただ切にそう願う。恋しい人にこの想いは告げられないと分かっていても、いつもユベールは彼女を想ってきた。
この気持ちが、『悪逆の王女』として生きることを選ばされてきた少女への憐憫ではなく恋情だと気づいたのは、あの時から。
◇◇◇
その年は、カサハイン国に奴隷として来たユベールでも分かるほど、冬が早く訪れた。
十七歳の王女だけが、その早くに冬が来たという異常性を正しく理解していたと思う。
「このままでは、沢山の死者が出てしまう。冬を越せずに皆が死んでしまう」
王女と一人のメイドしか入ることを許されない王女の自室から、そんな声が聞こえてきた。
ユベールは、王女には冬を乗り越える策を出すのは無理だと考えていた。王女は、あまりにも幼かったから。
だが、ユベールが策を講じれば王子という身分が露呈する可能性があり、自分はあくまで奴隷として、王女の側にいた。
ところが、予想を裏切り王女は自分で、おそらく最善の策を考えてきた。
「お父様、この冬の税として納める作物を三分の一にしましょう」
王女はよくユベールを連れ立って歩く。その日もそれは同じで、王の部屋に連れて行かれたかと思うと、扉の前で待機させられ、王女は部屋に入っていった。
そこから聞こえてきた第一声が、それだ。王女は尚も続ける。
「このままでは冬を越せず、皆死んでしまいます」
「ふん、愚民共が死のうが、俺には関係ないだろう」
「いいえ、民が死ねば、働き手がいなくなります。働き手がいなくなれば、徴収する税を作る者がいなくなり国が衰退します」
見下しているであろう娘に意見されたのが癪だったのか王の不機嫌そうな声が聞こえた。
「ヴィヴィアンヌ、お前は可愛い娘だが、こればっかりは無理だ。政治にお前は口をだすな」
「あら、でもお父様本当にいいんですか? 税の徴収の代わりに男手を献上させれば、お父様が望んでいた劇場も作れますよ?
それに、働き手である若い男を王宮に来させれば暴動も起きづらくなりますし」
「……それもそうだな」
「ええ、ええ! 民はお父様に恩を感じている筈ですから、無給で働いてくれるでしょうし!」
王の機嫌の良さそうな声が、扉越しにも聞こえてくる。
息を呑んだ。確かに男を王宮に献上させれば、その間のご飯は王宮で出されるだろうから村の食料不足も幾ばくかは解消されるだろう。
王の機嫌を損ねず、王女は税の三分の一を免除させた。その事実に心の中で称賛を送る。
「いい案だな。さすが俺の子だヴィヴィアンヌ。早速そうしよう。民も、いなくなると困るしな」
「うふふ、そうですよお父様。長く働かせた方が、よっぽど益になりますわ」
こうして、王女の尽力により想定していた何十倍もの民が、冬を乗り越えた。




