肉の人形
「農家さん、何か来た!」
ガキィに叩かれて引っ張られ、状況を知る。この大変な時に限って感染者は押し寄せてきたのだ。二階の窓に張り付いてみると、老若男女、それも数百名が、波の間に間に揺られるようにしてこちらに向かって来ているところであった。
第二次攻撃隊というわけである。
鋭い悲鳴が上がった。
下校中のウェイ系学生がふざけて叫んでいるのかなと、思ったわけであるが、振り返って見るに、道の真ん中で捕まった女がひしゃげ、血煙の向こうに倒れるところであった。鼻をくすぐる鮮烈な血生臭さが目の前の現象を現実だと伝えてくる。
ここではこれが現実なのだ。腹から飛び出した腸が、乱暴に巻かれた散水ホースみたいに波打って、それを掴む手が真っ赤に染まっている。女の子は、自分の腹から出たそれを必死に搔き戻しているが、その瞬間にも首をかまれ、耳をかまれ、ついには白い頭骸骨が見えるほどにまで食い殺されて、集団の中に消えていった。
その、サイドブレーキを引いたまま車を走らせたような悲鳴がいつまでも響いているのだった。そちらに、感染者は気を取られたようだ。
すかさず、身を屈めていないふりをした俺は、どこまでも野良猫のようであった。
卑怯とは言うまい。彼女は運がなかったのである。明日は我が身である。身を差し出せと言うのか。
ちらと見た、あの死に方を見よ。
どんな拷問だってあれよりはましである。
自分の身体が文字通り食べられて行くその様は、さながら、バイキング形式であって、生きたままそんなことがやられるものだから、非常な激痛が身体を焼くのである。
ついに残った肉片は、わずかにごぼうのように細い足と、そこに生えた背骨、それらに付随するわずかばかりの肉となって彼女は立っていた。
左手は中ほどから無くなっている。右腕は肩から外れて白い骨が見えている。
片目はなくなり、ああ、その眼窟から、ストロベリージャムの濃いのみたいな血液をドローリと垂れ流して、髪の毛の半分抜けた頭をぐるりと回して俺を見た。
黒いガラスをくりぬいたような目だ。白目が充血し、光彩が肥大したその目は、なにかの寄生虫に感染したカタツムリを連想するほどに、ドクリドクリと脈打つ。ああ、残酷な死よ。救いはどこか。
その目と目があった気がした。あの怨めしそうな目。成仏できずに肉体に鎖で繋がれた囚人のようだった。




