身を焼くような
始めに感じた違和感は喉だった。
あれ、なんか、喉の奥がゴロゴロするな。おかしいなぁ。
喉に膜が張り付くようなそんな感じだった。夏風邪のような症状であったので、風邪薬とゼリーをたらふく食らってその晩は寝た。
もしあんなことになるなら、もっと美味しいものであるとか、喉ごしの良い飲み物を飲んでおけば良かったのだ。
事態が急変したのは翌朝の事だった。
あれ。頭がいたい。身体も鉛を流し込まれたように重く、熱を測らないでも身体が発熱していることが分かった。
この時、喉には激痛があった。
間違って飲み込んでしまった歯ブラシを無理矢理引き抜こうとしているような激痛だった。俺は、水を飲むことで何とか痛みを忘れようとした。
瞬間、ショットガンみたいに口から水が吹き出て、吐瀉物の中に血が混じっていた。
嘘だろ。この俺が? 何で?
このくそ暑いのに、震えの止まらない身体を引きずって体温を測ると42度を既に越えていた。人間の脳細胞や生殖細胞に影響の出る温度である。身体では対処しきれなかった侵入物に対して最後の手段として焼き殺す方法をとったのだ。
火の通ったタンパク質は元には戻らない。
冷凍庫の中にあったありったけの保冷剤を抱いて布団に潜り込むとベチャリ、と鼻水をかんだティッシュのような感触がして、見ると、人の皮膚のような物がベロりと剥がれ落ちてシーツと混じりあっているではないか。
このとき、はじめて自分の肌が溶けていることに気がついたのだった。
本来激痛のあるべき状況であるが肌は痛くも痒くもなかった。頭に、死にそうな人間は痛みを訴えない、という言葉が反響する。
次いで、目の前がピンク色に染まる。ちょうど、バケツの中で絵筆を洗ったときのように右上からじわーりと溶け及んできた。
洗面所の鏡にすがり付くようにして見ると、目を真っ赤にした自分の姿があった。そればかりか鼻からは血が吹き出、顎にまで伝っているが、その感触がない。
まるで何時間も正座をした後みたいに、身体が段々と麻痺し始めていたのだ。
そのくせ、心臓だけはドクドクと、首が上下に振れるほど脈打っている。
それが急に静かになるのが分かった。
生物としての死。脳みそが新鮮な酸素を失って死ぬまであと数分しかない。
緊急時用の無水カフェイン錠200mgをバリバリと菓子でも食べるみたいに租借して目をギラギラさせながら床に崩れ落ちた。立っていられない。座ってもいられない。
真っ赤に染まった視界の中で、ケタケタした笑い声と、四つん這いで二階に駆け上がる生き物の姿を見た。
身体の震えが止まって。
俺は一度死んだ。




