甘き死よきたれ
そして俺は、感染した女子の頭を掴んだ。
頭を守る皮は複数枚あって、中の柔らかい脳みそを守る働きをし、その中に硬いカルシウムでできた頭蓋骨があった。
骨の表面に、ひび割れたような跡があった。頭が大きく進化した人間は産まれるときに頭の形が変形する。その名残だ。
俺はおもむろに鉈を持ち上げた。
刃渡り180ミリほど、鈍く光を反射するメッキ加工の刃はにわざと鈍く研いである。
それを手に取ると、これから戻れない方向に進むのだなと言う実感があった。
食い込ませる側頭部に鉈を当てて腕の角度を確認し、後悔を振り払うように鋭く、ピュッと音がするほどに叩きつけた。
先住民がココナッツを割るみたいにひび割れを入れ、蓋を開ける。
その瞬間、俺の中に残っていたわずかな人間性がプレス器に押し潰されて死ぬのがわかった。糸を引いた肉幕が蓋につき、踏みつけたガムのように糸を引いた。その光景に気持ち悪さを覚え、思わず胃の内容物をぶちまけた。
瞬間、胸の焼けるほどの痛みを感じた。痛みはすぐに全身へと広がり、足先から氷に触れたような冷たさが体を襲った。
足が震え、なんとか洗面台にしがみついて体を維持する。吐き出す息が喉にへばりつくほど、くぐもっていた。
体を走る悪寒のなか、死んでいき、そして、首だけになり頭を開けられても生きている彼女のことを思った。
血と、腐った肉と内臓の香り。ガチガチと震える奥歯の感触。俺の吐いたヘドがべっとりと付着した脳。
俺は彼女の脳を……して楽にしてやった。
彼女は二度目の死を経験する。
それは、とても冷たい儀式だった。




