襲撃
俺は感染者の頭だったものを壁とカラーラックの間に隠した。
どうしてそんなことをしたのか自分でも分からない。後でまた復活しないか確かめたかったのかも。あるいは、誰もが寝静まった夜を待って、ひっそりとそこにある秘密を見たかったのかもしれない。
だが、我が家には鼻の効く住人がいた。
飼い猫である、ぎんさんという猫は、家をわずかばかりの縄張りとして死守している雄猫で、自分の入ったことの無い空間に取り憑かれたように飛び込むような猫だった。例えば押し入れの中とか、人が入って欲しくない場所に限って彼は入るのであった。
それで頭が見つかった。
仕方なく頭は処分することにした。
頭をドラム缶で焼きながら、その赤い炎が白い頭蓋骨を舐めるのをずっと黙って見ていた。
少しは、人を殺すことへの罪悪感が出てくるのではと思ったが、自分にはそんなものは微塵もなく、焼けていく骨を見て、生焼けになると面倒だなというような感想しか出てこなかった。
一週間後、我が家に訪問者があった。
訪問者と言って言いか分からない。
彼らは挨拶もなしにズカズカと敷地内に入ってきて、庭を歩き回って何かを探している様子だった。
家の中にいた俺達は電気の切れたおもちゃみたいに固まってその様子を見ていた。
あまりにも驚き過ぎてしまったので声もでない。普通、人の家に勝手に入ってくるか?
視聴中の動画の音がやけに遠く聞こえる。
最初に動いた玲子さんが窓をいきなり開けて「コラ!人んちだぞ!」と怒鳴る。
来訪者はびくっと体を強ばらせた。その全身黒ずくめの様子。手にはバール。もう見るからに泥棒って感じだった。
生きるのに値しない人間。殺しても良い人間。法律が守ってくれない人間。
どんなくそったれにでも守られてきた基本的人権というのは、我が家では通用しない。
押し入れから刃渡り40センチのククリナイフを抜いた俺は思わず笑っていた。
俺は窓から外に靴も履かずに飛び出した。ジャングルで人間を襲うときのジャガーみたいだった。
泥棒は、その様子を見て焦った様子だった。舌でも噛み切ったかのように「まっまてまてまて!!」と言った。
足裏に突き刺さる石の感触が熱い。
振り上げたナイフの持ち手が脂汗で滑る。
踵を返して逃げ出そうとした強盗の首根っこを捕らえて脇腹にククリナイフを叩きつけた。柔らかい肉の塊の中に骨の固さを感じた。その感触に雄叫びをあげる。強盗は刃を避けることもできず簡単に静かになった。
ククリナイフは刃が分厚く、なまくらで切れ味が悪い。その分重量で押し切る刃物だ。バツン!と骨に当たって刃が止まるが、その回りの肉はいとも容易く割れてしまう。こん棒に刃物が付いているようなナイフだった。
そして痛みは、誰にも平等に、人を正直にさせる。
彼は、左足の太ももに刃を受けて神経が損傷した。その傷口にまだ刃が入っていたので、気が触れたように地面を泳いだ。のたうち回るのは少しでも痛くない姿勢を探す結果だという。
深く切り裂かれた腹部から内臓をはみ出させて、彼は、地面に転がったバールの方へと手を伸ばした。
「それやっちゃいけんでしょう」
手をパンと叩いて、地面を這い回る虫けらを見下ろした。
しゃがんで目線を合わせ、マスクをめくりあげる。
マスクの下は間抜けな外国人の顔があった。
「金!金払う!!!助けて!!」
「金に興味ないですよ」
「嫌だ!死ぬ、やだ!」
「君は間違った家を襲撃した。いや、生きる方法を間違った」
「あ、あ、あ」
「命で支払わなければならない」




