原因不明
医者は1号患者が受診してから最初の2時間で検体を3ヶ所に振り分けた。
1つは疾病対策センター。本命である。また、1つは感染症対策室のある大学病院、1つは学生時代からの友人である学者のもとだった。
一番最初の返答が帰ってくるまで3時間かかった。最初に回答をよこしたのは、彼の友人であり、旧知の仲である、学者だった。
「それが何なのかわからない」
それが答えだった。
個人とはいえ、20年間も感染症に関する研究を行って来たはずの彼をして、その答えは分からなかった。
検体を調べようにも、どの試薬にも反応がないのだった。おそらく、突然変異を遂げたウイルス、というのが回答だった。
大学病院からも鼻息荒く、同じ返答があった。病原体の名前を故意に隠すようなことはなかったように思う。医者たちには人類の置かれた状況が既に分かっていた。
回答が来るまでの間に、8歳の患者は肝臓と腎臓の機能に異常を来たし、肌は溶け出していた。目、鼻、口、歯茎からの出血を伴う重篤な症状があらわれていたのだ。
一番後手に回ったのは、疾病対策センターだった。
日々、大量の試料が送られてくるこの施設では、国内最高レベルの施設がありながら、担当者は休暇のため検体を確認することすらできていなかった。
正式に受け取りのメールが届いたのは翌日になってからだった。
テレビ局を呼びつけての会見では感染者がどこからでたのかも発表していなかった。患者が若く、女性ということもあって、差別に繋がらないようにする配慮だったようだが、それがまた、情報の伝達に遅れを生じさせる結果となる。
そのニュースを報じたのはたった1社だけだった。それもテレビ番組の僅か数秒の放送枠の出来事である。