発生
医者がその病原体に出会ったのは2024年の春のことだった。
病院に来たのは、母親に連れ添われた8歳の少女である。
軽い風邪の症状があったが、その母親が心配するほど大きな病気ではないように思えた。
医者が気になったのは千葉出身ということである。病院は茨城にあって、旅先で急に風邪になって受診、というには違和感があった。
たかが、風邪で病院に行くだろうか。それそこ、薬局で飲み薬でも買えばすむ話だ。
いぶかしみながらも、風邪薬を処方を考えながら、医者は、少女の喉を覗き込んで動きを止める。
そこにあるべきものが無かった。
喉、と言える粘膜は通常、風邪などで腫れることがある。
それが見られない。というより、皮膚が異様に硬く充血しているようであった。
風邪ではない。何かしらの感染症を疑った医者は採血を行うことにした。その症状は、とある感染症に酷似していたのだ。
8歳の患者は年の割に落ち着いていて、採血のため用意した注射器を見ても落ち着いていた。
採取した血液は、ドロリ、とゼリーのように固まっていた。
通常、血液は液状で、酸素を身体の各部に運ぶ。それが、機能しなくなっていた。
医者はすぐに千葉の知り合いのクリニックに電話をかける。
長いコール音の後で『回線が込み合っており……』と電子音が聞こえた。
ハブとなる大病院も、大学病院もどこも繋がらなかった。
「まずい。何か、起きている」




