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意味ある行動

 医者は助成団体に片っ端から電話をかけ、600万円の資金の援助の約束と医療機器の調達の目処を立てた。通常、一人の医師に対して行われる助成ではなく、何年も論文を精査して執り行われる物であったが、事態は急を要した事は皆分かっていた。


 医療関係者の多くは、変異を遂げていない最初期の感染源の特定を望んでいた。それをもとに治療法を確立するのである。


 医者は少女の身体から検体を採取するために、事態が重篤化するのを待つつもりはなかった。より正確には、日本国民の大多数が事態を飲み込み、冷静な判断できる状態になにるまでにこの病気によって過半数が死に絶えると分かっていた。


 絶望的な状況だった。噛まれた患者および、医療関係者は18名にも上る。その全員に風邪のような症状が現れていた。

 勿論、その中にはパニックになり、思い込みによって起こった風邪もあるだろうが、医者は疑わしい全員を隔離した。その最中もゴム手袋に雨合羽を着用して原因物質に触れないよう細心の注意をはらって閉じ込めた。


 医者は感染者の容態を毎日2回観察することを決めていた。感染の経路や症状の違いを見極めるためであった。ところが、それは最初の一回で終わることになった。


 数時間もしないうちに人がバタバタと死んでいったのだ。隔離を納得した看護師も、その状況に恐怖し命乞いを始める事態となった。「私は感染していない!何かの間違いよ」看護師は噛まれていた。目から出血し、頬の肉は糜爛して剥がれ落ちていた。その命乞いには医者も酷く心を痛めた。


 院内感染が広がるなかで、日本政府による特定重病者を即日排除する法案が可決され、即日交付された。簡単に言えば、感染者を全員始末できるように人権を取り上げるということだった。


 治療法を見つけようとしていた医師たちは逆上した。そんなことが許されるのかと。


 感染した人々を隔離した部屋の中はしんと静まり返っていた。医師たちは手にパイプ椅子やカッターナイフをもち、検体の採取を試みた。

 その薄汚れた部屋の中で見た光景を医師は一生忘れないだろう。

 人々は一見正常を保ち、スッと立っていた。

 ところがその後、血を腹から滝のように吹き出して四つん這いになるとこちらに噛みつこうと迫ってきた。


 ほうほうの体で部屋から生還した医師に入院患者たちの一団が詰めよった。ついには部屋の中からも感染者達がドアを叩くようになり、ガチャガチャと取っ手が揺れる。その不気味さに一瞬たじろいだ入院患者の間を抜けて医者は車に逃げ、県庁に向かった。


 県職員はその様子を絶対に患者達に見せるわけにはいかなかった。

 地区ごとに人だかりを作った医者達は、学校の一時限にも満たない時間で犬の虐殺のための訓練を受けた。


 その日から一週間、医者達は人の命を救う手で、感染を疑われる犬4000匹を殺処分した。まだ感染していない大多数を救うためだ。そして、その遺体を集め、穴を掘って埋めた。


 それに意味があったと思うか、と医者はたずねた。


「意味はあったんじゃないですかね。少なくとも感染を広げるスピードは落ちた。だから今、俺達は話しています」と農家は言った。


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