磯山⑤ お前らしい
木曜日だった。
午後の停車場。
若い男はコーヒーカップを置いた。
「高橋さん。」
「なんだ。」
「磯山さんって。」
「どんな人だったんですか。」
高橋は少しだけ考えた。
言葉を探すように窓の外を見る。
大型トラックが一台、交差点を曲がっていった。
「あいつか。」
少し笑う。
「難しいな。」
「難しいですか。」
「ああ。」
しばらく黙っていたが、不意に笑った。
「一言で言えば。」
「お前らしい奴だった。」
若い男は首を傾げる。
「それ、説明になってます?」
「なってない。」
「ですよね。」
二人で笑った。
「でも。」
高橋はゆっくり頷く。
「それしか思い付かん。」
◇
荷物を積み終え、磯山は配送先へ向かっていた。
初めて来る町だった。
「こんにちは!」
荷受け場へ着くなり、大きな声が響く。
「元気いいなぁ。」
荷受け担当の男性が笑う。
「今日は天気がいいですから。」
「雨降ってるぞ。」
外を見る。
確かに雨だった。
「あれ?」
荷受け場に笑いが広がる。
「まあ、気分は晴れです。」
「それならいい。」
荷物を降ろえ終える頃には、世間話が始まっていた。
「そのトラック、新しい?」
「いや、もう五年です。」
「きれいに乗ってるな。」
「好きなんですよ。」
「車が?」
「全部です。」
「全部?」
「走るのも。」
「洗うのも。」
「眺めるのも。」
相手は吹き出した。
「そこまで好きか。」
「はい。」
帰り道。
ガソリンスタンドへ寄る。
「毎度。」
店員が声を掛ける。
「こんにちは!」
「今日も元気だな。」
「元気だけが取り柄です。」
「それは知ってる。」
二人で笑った。
会社へ戻ると、高橋が荷物を片付けていた。
「遅かったな。」
「しゃべってました。」
「またか。」
「初めて行く荷受け場だったんです。」
「知り合いになったか。」
「はい。」
「早いな。」
「もう次に行くのが楽しみです。」
高橋は苦笑した。
「お前。」
「なんです。」
「誰とでも話すな。」
磯山は少しだけ考えた。
「話しかけられたら。」
「話します。」
「話しかけられなくても。」
高橋が言う。
「話してるだろ。」
磯山は照れくさそうに笑った。
「そうかもしれません。」
「なんでだ。」
「楽しいじゃないですか。」
その一言だった。
高橋は笑う。
「お前らしい。」
「そうですか。」
「ああ。」
「知らない町へ行って。」
「知らない人と話して。」
「帰ってくる。」
「毎日、それが楽しいんだろ。」
磯山は大きく頷いた。
「はい。」
「だから、この仕事が好きなんです。」
その笑顔を見て、高橋は思った。
この男は、どこへ行っても同じなんだろう。
だから人が集まる。
だから人が笑う。
本人は、そんなこと少しも考えていない。
◇
現在。
若い男は小さく笑った。
「何となく分かる気がします。」
「ああ。」
高橋も笑う。
「あいつは。」
「どこへ行っても、あいつだった。」
少しだけ間を置く。
「だから。」
「みんな、好きだったんだろうな。」
窓の外では、一台の大型トラックが、ゆっくりと町を走っていった。
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