磯山② 相棒
木曜日だった。
午後の停車場。
高橋は窓の外を眺めていた。
「高橋さん。」
「なんだ。」
「磯山さんとは、ずっと一緒だったんですか。」
高橋は少し考えてから頷いた。
「ああ。」
「新人の頃から。」
「最初から仲が良かったんですか。」
「いや。」
高橋は笑う。
「うるさい奴だと思ってた。」
若い男は思わず笑った。
「やっぱり。」
「毎朝しゃべる。」
「仕事中もしゃべる。」
「昼飯でもしゃべる。」
「帰るまでしゃべる。」
「疲れません?」
「疲れた。」
二人で笑った。
高橋はコーヒーを飲みながら、ゆっくりと思い出す。
――あいつは、本当によくしゃべった。
◇
配送先へ向かう道。
二台のトラックが前後を走る。
積み荷を届け、帰り道。
休憩所へ車を止めた。
缶コーヒーを一本ずつ買う。
「高橋。」
「なんだ。」
「あそこの新しいトラック見ました?」
「見てない。」
「すごいですよ。」
「何が。」
「サスペンションが――」
始まった。
高橋は缶コーヒーを開ける。
「それでですね。」
「荷台がですね。」
「メーターもですね。」
十分後。
まだ終わらない。
「……お前。」
「はい。」
「よくそんなに話せるな。」
「好きですから。」
「好きなのは分かった。」
高橋は笑う。
「俺には半分も分からん。」
「えぇ?」
磯山は驚いた顔をする。
「面白いですよ。」
「面白いのはお前だ。」
二人で笑った。
休憩を終え、再び走り出す。
しばらくすると、雨が降り始めた。
道路は少しずつ濡れていく。
高橋は速度を落とした。
その前を走る磯山も、同じようにゆっくり走る。
無線が入る。
『高橋。』
「なんだ。」
『雨、強くなりますね。』
「ああ。」
『急ぎません。』
「分かってる。」
『ゆっくり帰りましょう。』
「そうだな。」
短いやり取りだった。
それだけで十分だった。
会社へ戻る。
荷物を降ろし終えると、高橋が言った。
「今日は早かったな。」
「高橋が後ろでしたから。」
「俺が?」
「安心して走れました。」
高橋は少し照れくさそうに笑う。
「何言ってる。」
「本当ですよ。」
「お前は前だけ見て走ってればいい。」
「じゃあ。」
磯山が笑う。
「後ろはお願いします。」
「しょうがない。」
高橋は肩をすくめた。
「見ててやる。」
その一言に、磯山は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、高橋は思う。
――放っておけない奴だ。
◇
現在。
若い男は空になったカップを見つめていた。
「だから。」
高橋が静かに言う。
「あいつとは長かった。」
「性格は正反対だった。」
「でも、不思議と隣を走るのが当たり前になってた。」
窓の外では、一台の大型トラックがゆっくりと交差点を曲がっていった。
高橋はその姿を目で追いながら、小さく笑った。
「今思えば。」
「あいつは最初から、相棒だったんだろうな。」
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